十四話 黒歴史

 海の家の売上が前年を大幅に上回ったから、あと遊んできていいと言われたから僕らは暗くなるまで遊んでいた。


 新田くんは例の限定モデルのフィギュアを、貰ってウキウキ気分ではしゃいでいた。正直、僕にうんちくを語っていたが全く興味がなかった。


 しかしあまりにも少年の目で楽しそうにしていたので、適当に相槌を打っていたら落ち込んでいた。


「興味ないならいいよ。聞かなくても」


「聞くよ! 教えて!」


「そうか! じゃあな! ここんとこの塗装がな!」


 僕は悲しそうにしている新田くんのことが、心配になって話を聞くとつい言ってしまった。そのことを開始十秒で後悔することになった。


 夜になったので別荘に行き、バーベキューをすることになった。先生が肉を焼いてくれようとしたが、下手すぎて新田くんに匙を投げられていた。


 先生からしたら罪滅ぼしのつもりだったと思うけど、怒られてしゅんとしていたからなんか可愛かった。


「はーい、あーん。美味しいか」


「うん、でも一人で食べられるよ」


「俺が食べさせたいんだよ」


 よく分からないがとしくんは僕が、子供か何かと思っているのかな? まあでも、この幸せそうな表情を見て許してしまう僕も甘いけど。


 そんな感じでいつものように、過ごしていたら新田くんにガン見されていた。なんだろうと思っていると、声をかけられた。


「お前ら、俺の前でイチャつくんじゃねーよ!」


「ふふん、羨ましいか。良いだろ!」


「くそっ! 腹たつ!」


 ドヤ顔でそんなことを言う彼に、新田くんは顔を赤らめて怒っていた。よく分からないが二人はいつものように、喧嘩をし初めてしまう。


 僕はそんな二人を見ながら、肉を食し始める。綺麗に野菜は残していると、それに気がついた先生に指摘された。


「意外だな、大久保。野菜が嫌いか」


「あ、はいって……お酒くさい」


「野菜はいいぞ! 食物繊維たっぷりだ!」


 先生はそう言って、一人野菜の素晴らしさを語っていた。しかしお酒の臭さのせいで、僕の頭には全く説明が入って来なかった。


 僕が絡み酒をされていると、新田くんが来て先生のお腹を摘んで憎まれ口を叩き始めた。


「おっさん絡み酒はやめろよな。それになんだこの肉」


「こらっ! 腹をつまむな! いいか! 大人には大人の付き合い方がなあるんだよ!」


「そう言って毎日のように、遅くまで呑んでるからメタボになるんだよ!」


「まだ、メタボじゃないもん」


 新田くんに、指摘されて落ち込んでいる先生が可愛かった。僕はほっこりとした目で、二人を見つめていた。


 そして、さっきから指摘することを諦めていたことがもう一つ。九条さんは、お肉そっちのけで僕らの写真を不気味な笑顔を浮かべながら撮っている。


 誰も怖くて、そっとしておくことにしたのだろうと納得した。そんな感じで和気あいあい? としていると、先生に聞かれた。


「そういえば聞こうと思ってたんだが、大久保って兄いるのか?」


「――――いません」


「そうか? 大久保悟っていう奴に」


「そんな人知りません」


 僕は先生の言葉を遮ってまで、兄はいないと主張したのだが。その話を聞いていた新田くんが興味津々に聞いてきた。


「なんだ、兄がいるのか」


「いないよ……あのブラコンのことは、嫌いだから」


「いるんじゃん」


 まあご指摘通り僕には、十二も離れたブラコン変態な兄の悟がいる。僕に外見は似ていると思うが、性格は真逆というかクソウザいのである。


 僕やとしくんのことに対して、甘々すぎて若干というかかなりウザかったのを覚えている。


 としくんなんか無理矢理女装させられていて、本気で嫌がっていたもんな。彼にとっては、忘れたい黒歴史だと思う。


 昔は、優しくてかっこいい最高の兄貴だと思っていた。あの事件が起きるまでは……。


 僕はとしくんの様子が気になって、見てみると少し複雑そうな表情を浮かべていた。


 僕は話を逸らすのと気になったのもあって、先生になんで知っているのかを聞いてみることにした。


「聞きたくないですけど、聞きますね。何で知っているんですか」


「あれ? 覚えてない? 俺、高校の頃よくお前ん家に行ってたんだけど」


 先生からの突然の告白に、僕もとしくんも顔を見合わせて驚き始めてしまった。そういえば、約十年前に兄貴の友達が来ていたような。


「もしかして、よくケーキ持ってきてくれていた」


「おう! やっと思い出したか、俺の実家ケーキ屋だからチビ達にって。名前は、Aimer(エメ)って言うんだ」


 そこでよく話を聞いてみると、先生と兄貴が高校大学と同級生だったことを教えてもらった。


 そこで仲良くなった二人は、僕の家によく遊びに来ていたようだ。考えてみたら、懐いていたような気がする。


 僕がそう思っていると、先生は笑いながら彼の頭をわしゃわしゃしていた。彼は心底嫌そうな顔をしていた。


「それにしても、二人とも大きくなったよな」


「はあ……忘れたかった黒歴史が」


 そう行って項垂れている彼を横目に、当時を思い出して感慨深そうにしてる先生。彼にとっては、本当に忘れたい過去だろうから。


 ゴスロリやメイド服なども着せられていたっけ。家に写真がまだ残っているけど、としくんには黙っておこう。


 黒歴史認定しているみたいだし、事実を知ると悲しむ可能性があるから。それにしても、可愛かったなと僕は思い出した。


 毎日のように女装させられるもんだから、家じゃなくて公園で遊ぶようになったんだよね。


 いつもとしくんと遊ぶと、直ぐ過ぎ去ってしまうから飽きることなかったな。それで遅くなって、兄貴が迎えにきてくれていたな。


 あの時の少し怯えたとしくんが可愛かったな。それを思い出して一人で、笑ってしまった。そんな僕を見て、としくんが話かけてきた。


「どうした?」


「小さい時に、公園で遊んだ時のことを思い出して。可愛かったなと」


「可愛かったのは、陸だよ」


「確かに、可愛かったな」


 僕の言葉に頷く先生を見て、としくんが少し膨れていた。そんな彼がやっぱり、可愛くて嬉しくなってしまった。


それにしても、公園で遊ぶのは楽しかったから良いんだけど。僕がそう思っていると、先生が急にとんでもない事実を暴露し始める。


「田口だったよな。女装していたの? あれ、俺が姉ちゃんの服の持って行ったからなんだぜ」


「――――先生、怒りますよ」


「俺の黒歴史をなんだと思って……」


 僕は静かに睨みながら怒り、彼は項垂れながら泣いていた。そんなに悲しい出来事だったのね。


 女装だけではなく、母さんの化粧道具でメイクもしていたから。彼にとっては一生もんのトラウマになっているのかもしれない。


 先生はそんな僕たちを見て、そんなに落ち込むかと呟いていたので。後で、何かしらの仕返しをしようと僕は心に強く誓った。


「そんなゴミを見る目で俺を見ないでくれ」


「見て……ないですよ」


「嘘だっ!」


 その時、先生が悪寒を感じていたらしいが自業自得なので気にしないことにする。いつか必ず、としくんの無念は晴らしてみせる!


 なぜか変な意気込みをしてしまう。そんな自分が可笑しくて、吹き出しそうになるのを我慢した。


 その後はグデグデになって酔っ払った先生を、新田くんが引きずって部屋に連れて行った。

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