第三章 夏休み
十二話 海
今日から夏休み、今年はとしくんと遊べるとワクワクしていたのに。何で僕は学校で補習をしているのだろうか。
としくんと水族館に行った僕は、完全に浮かれていて勉強を全くしていなかった。そのせいで、一学期の期末テストが赤点まみれになってしまった。
なので今は、新田くんと仲良く? 補習をしていて、五十嵐先生が監督をしてくれている。因みに、補習組は僕たちだけである。
「大久保、関係のないことを考えるな。こらっ! 新田は寝るな!」
「眠い……」
五十嵐先生は僕が関係ないことを考えているのを、何でわかるのだろうか? エスパーか何かなのだろうか。
ずっと僕たちを見張っている五十嵐先生を、気にも止めずに寝ている新田くんも凄いけど。
はあ……本当なら今日もとしくんと、僕の家でゲームしてダラダラ過ごす予定だったのに。
それにしても暑いな……僕がそう思ってノートで仰いでいると、五十嵐先生が突然とある提案をしてきた。
「そういえば、お前ら来週暇か?」
「来週ですか? 多分、としく……田口くんとダラダラしてます」
「俺は伸びてる……」
「要するに、暇なのな。それじゃ海に行かないか?」
五十嵐先生は、ニコニコ笑顔でそう提案してくれた。僕は興味がなかったから、隣で伸びている新田くんを見ると毛ほども興味がないようにしていた。
僕みたいな隠キャは夏の海ではしゃぐなんて、考えることはできなかった。僕はまあキャラ通りだとして、新田くんは何でだろうと思って聞いてみることにした。
「空雅くんは、海とかではしゃいでパリピかな? って思ってたけどなんで」
「パリピって……だって……そりゃ、その……分かるだろ」
「? 分かんない」
僕が新田くんの言葉の意味が分からずに頭に? を浮かべていると、その光景を見た五十嵐先生が爆笑していた。
それを見た新田くんは怒っていたが、この暑さのせいか何も言わなかった。そうしたら、五十嵐先生は新田くんにこう呟いていた。
「良いのか? このままだと、夏休み大久保と田口の仲が進展してしまうぞ」
なんかよく分からないがそんなことで、新田くんは行くと言わないだろう。そう思ったが意外にも、新田くんは妙にやる気を出していた。
「陸! 夏はいいぞ! 海はいいぞ! さあ、やろう! 海最高!」
僕はえー! と内心思っていたが、新田くんの圧に負けて頑張って補習を気合いで終わらせた。
一週間後。僕たちは先生の、親戚のおじさんが持っているという別荘へと足を運んだ。メンバーはいつものと変わらずだった。
天井には豪華なシャンデリアがあって、別荘にしてはやたら豪華で綺麗だったから僕たちははしゃいでいた。
「先生、本当にここ使っていいんですか!」
「ああ、構わないぞ。ただ、一つだけ条件を呑んでくれればだが」
条件? と思ったが僕たちは、二つ返事で了承してしまった。それが良くなかったと、後悔したのはその後のことだった。
としくんと僕は同じ部屋になって、そこで水着に着替えた。としくんはなぜか挙動がおかしくて、心配していると僕の肩を両手で掴んで興奮気味に告げてきた。
「あ、あのさ……水着は着ない方がいいと思う」
「何で?」
「えっと、だな……正直に言うと俺は誰にも陸の上半身を見て欲しくない」
「何で? 男なんだから、大丈夫でしょ」
僕がそう言うと彼はもう一度僕を見て、顔を赤らめて百面相をしてから真剣な表情をしてこう告げてきた。
「俺は陸が好きだ。好きな奴の裸は、誰にも見られたくない」
なんかよく分からなかったが、彼の瞳がいつになく真剣そのものだったから僕は静かに頷いてしまった。
僕が頷くと彼の端正な顔が近づいてきて、僕は静かに目を閉じた。彼は僕の顎をクイットあげて、右手は優しく僕の腰を支えていた。
もう少しでくっつきそうな距離、彼の吐息が聞こえてきた。そんな時だった、部屋のドアが突然ノックされたのだ。
「おーい、二人とも。海行くぞ」
「ちっ……いいとこだったのに」
ドアの向こうからは新田くんの声と、なぜか爆笑している九条さんと五十嵐先生の声が聞こえた。
僕は恥ずかしさのあまり茹でたこのように、全身が火照っていくのを感じた。すると、そんな僕を見た彼は僕に自分のTシャツを着せてきた。
「としくん? どうしたの? 大丈夫? 鼻血出てるよ!」
「うっ……大丈夫じゃない……彼シャツに動揺しただけだ」
よく分からないけど、僕はみんなに事情を説明して彼をベッドに連れてき止血をする。
具合が悪いのかもと思い、少し恥ずかしかったが膝枕をしてあげると子供のように寝てしまった。
としくんの寝顔を眺めながら、僕は微笑んでいた。改めてみると、本当人綺麗な顔立ちをしているな。
彼の頬を触ってみると、僕の手を握ってくれた。気がつくと僕は寝ていたみたいで、彼の声で目が覚めた。
「陸、起きて」
「うん……後、五分」
「そっか……もうちょっと寝てていいよ」
僕の頭の下に、暖かくて柔らかいものがあった。目を開けてみると、僕の顔を眺めている彼の優しい瞳と目があってしまった。
僕を見る目があまりにも綺麗で、言葉で表せられないぐらいだった。彼と一緒にいると、無条件で幸せな感情が満ちてくる。
僕は急激に恥ずかしくなって、急いで離れてしまった。自分が膝枕をするのはいいけど、されるのは何だが恥ずかしくなった。
二人の間に微妙な空気が流れて、お互いに不自然に距離をとってしまう。そんな時だった、突然にスマホが鳴ってしまった。
「も、もしもし! ああ、空雅くんっ! どうしたの!」
「あー。まだ俊幸、具合悪いのか?」
「う、ううん! 大丈夫だよ! これから行くよ!」
僕たちは新田くんからの電話を受けて、そそくさと準備をして海へと向かう。その道中は小指を繋いでいて、変にドキドキしていた。
海に着くと、思っていたよりも人混みが多くて驚いていた。すると、空雅くんたちに声をかけられた。
「俊幸、大丈夫か」
「まあな」
新田くんって不器用そうに見えて真っ直ぐに、心配できる優しさがあって凄いなと思った。
出会った当初は怖かったけど、今では優しい人だって分かって友達になれて良かったと思った。
若干としくんが、恥ずかしそうにしていてそれが何だが変な感じがしてモヤっとしてしまった。僕がそう思っていると、九条さんに声をかけられた。
「仲良いわよね。あの二人」
「う、うん。そうだね」
「気になる?」
「うん。あの二人を見ていると、なんか変な感じがしてさ」
僕がそう呟くと九条さんは、しばらく考えてから微笑みながら何を言いかけた。
「その感情は、ヤキ」
「それから先は、俺が教えるから」
「おーこわ」
九条さんの言葉を遮って、としくんは僕を後ろから抱きしめていた。僕はここ人前なんだけどと、思いつつ離れられずにいた。
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