十一話 君以外はありえない
二人の間に変な沈黙が訪れるが、そんな時に予鈴がなって我に返った。その時に俺は今日こそはと、勇気を振り絞って誘おうとしたら思わぬ邪魔が入った。
「あのさ……。きょ」
「おーい! 俊幸! 俊幸ってば!」
「あー、もう! うるさい! えっと、後で話すわ」
「う、うん……。分かった」
今日はいい日になるぞと、俺は自分で気持ち悪いような笑顔を浮かべながら陸の元に向かう。
今日もいそいそと、帰り支度を済まして帰ろうとしている陸に俺はワントーン高めの声で話しかける。
「大久保、今日こそ一緒に帰るぞ」
「えっと……忙しくてさ」
「ちぇ……良いじゃん、今日ぐらいダメか?」
「うっ……良いです」
俺は陸の机の前に座って、陸の目を見て上目遣いで懇願してみる。陸は昔から恩を感じた相手には、強く出れないことが分かっているためこの手に出た。
それが功を奏して、陸は俺の必死の懇願に半分呆れながら了承してくれた。本当に優しくて、かっこいいと思ってますますこの恋にハマっていく。
それから一ヶ月もの間、陸と共に楽しく遊んでいた。しかし、空雅のバカのせいで終わりを告げてしまう。
俺がいつものように、陸を誘おうとすると既に教室にいなかった。俺は何やら嫌な予感がして、探そうとした時に空雅に声をかけられた。
「ちょっと、いいか」
「今、それどころじゃ」
「大久保のことで、話がある」
「――――分かった」
俺は陸のことだと言われて空雅に言われるがままに、後をついていくことした。そこで聞いたのは、こいつが余計なことを言って陸を傷つけたという事実だった。
俺はカッとなって空雅を思いっきり殴りつけていた。そしてお互いに変なスイッチが入ってしまって、殴り合いになってしまった。
「陸に謝れ!」
「うっセーよ! いつまでも、過去引きずってんじゃねーよ!」
「っ……何でてめえがそれ知ってんだよ」
俺は気がつくと、空雅の顔面に痛烈な一撃を放っていた。本来なら俺みたいな、半端なやつの拳なんて避けれただろう。
それなのに空雅は避けずに思いっ切り、喰らっていた。俺は流石にやりすぎたと思って、近寄ると今度は俺が額に思いっきり頭突きをされた。
俺が突然のことで困惑していると、空雅に怖い顔で睨まれながら怒られてしまった。
「いいから早く行けよ。俺じゃ、大久保は心を開かない」
なぜかその時の空雅は、俺が知っているようなあいつじゃなかった。俺が困惑していると、近くに来ていた五十嵐先生と目が合った。
空雅の方を見て優しく微笑んでいるのが見えた。俺はひとまず陸のことを探しにいくことにした。
俺は陸の行く場所で、思いつくとこに向かってみた。正式名称は知らないが、通称桜公園と呼ばれている公園へと着いた。
するとそこには泣いている陸がいて、一人で呟いていたから俺は勇気を出して声をかけてみた。
「変わってしまったのは、僕の方か……」
「そんなことねーよ」
俺に気がついた陸は、俺の元に駆け寄ってハンカチで怪我を拭こうとしてくれた。その時、俺は押さえ付けていた感情が一気に溢れてしまった。
「だい」
「避けるんなら、優しくすんなよな」
「もしかして、としくん?」
「……そうだよ。りくくん。やっと会えたのに、忘れてるから悲しかった」
俺はあの日のことを陸に伝えた。陸は優しいから許してくれた。だけど、いつまでもこの優しさに甘えていくのはよくないと思う。
陸には俺だけを見て欲しい。俺は陸しか見ていない。でも、それを押し付けるのは良くないと頭では分かっている。
だから今度は、俺が陸を支えていけるような器のデカい人間になりたい。俺がそう思っていると、陸に言われたくないことを言われてしまった。
それと同時におそらく本心ではない。と思いたいが、俺のエゴだったとしても……それでも俺は陸と一緒にいたい。
「離れた方がいいと思う。僕なんかといると、田口君が嫌な思いをすると思う。だから」
「そんな悲しいこと言うなよな。俺は、お前と一緒にいたい。これまでもこれからも、俺の一番は陸以外にはありえない」
「本当に? 僕なんかでいいの?」
俺は陸のことしか見えていないし、陸が一番大切だから。俺は陸の言葉を待って話してくれることを待っていた。
「今は無理かもしれない。でも、少し待ってて。時間はかかってしまうかもしれないけれど……」
「わかった、でも……辛いなら辛いって言えよ」
「うん。ありがと」
優しい微笑みを浮かべている陸が、本当に綺麗で可愛かった。たったこれだけのことで、俺はこれからも生きていけると思った。
陸に本当のことを話してスッキリしていたが、他にも問題が出てきてしまった。それは完全に俺のことを信用しきっている点だ。
信用されているのは嬉しいが、あまりにも俺に対して無防備なところだ。俺以外に無防備にされるのは嫌だけど。
それにしてもこのままだと、俺が色んな意味でヤバいような気がする。それに俺の目を、真っ直ぐに見て微笑みながら言ってきた。
「そんなことないよ。母さんも、田口くんに会えて嬉しそうだったし」
そんなことを本当に嬉しくなったのと同時に、顔が真っ赤になっていくのを感じた。本当に、陸のこの無自覚には困ったもんだ。
「ほんと、天然って……無自覚すぎる」
「なんの話?」
「いや、なんでもねーよ」
それから陸と一緒にお昼ご飯を食べるようになった。俺は陸と一緒に居られればそれでいいのに、陸はなぜか美雪の話ばかりをしてくる。
「そうなんだ。えっと、一緒に遊びに行ったりするの」
「まあ、人並みには。で、なんでそんなこと聞くんだ」
自分でも驚くくらいにヤキモチを焼いているのに気がついた。確かに美雪の言っていたように、俺は陸のことになると必死になりすぎるのかもしれない。
陸に悪いことをしたなと反省しつつ、陸の顔をまともに見れずにいた。俺の後ろをひょこひょこと着いてくる陸が可愛くて思わずニヤけてしまう。
放課後。陸に謝ろうと思って、声をかけようとしたが陸の姿はなかった。俺は急いで陸の陸の家に向かうことにした。
おばさんに断って部屋に上がらせてもらうと、布団にくるまって泣いている陸が目に入った。
俺は陸の頭を撫でて俺は、ぐっと涙を堪えて声が震えていないかを心配しながら声をかけた。
「悪い、その怒ってしまったのは。陸に対してじゃなくて、自分の余裕のなさにイラっとしたからで」
「悪いのは僕だよ……僕はいつも、何もできないくせに。誰かに迷惑を」
「迷惑なんて思ってない。むしろ、もっと陸はわがままになって良いと思う」
俺が優しく微笑みながらそう言うと、陸は俺の胸に縋り付いて泣いてしまった。俺は本気で信頼してくれているのが嬉しかった。
俺は陸を後ろから抱きしめて、陸を見つめながら可愛いな。そう思っていると、陸は俺を見ながら当たり前の質問をしてきた。
「なんで、僕と仲良くしたいと思ったの」
「好きだから。それ以外にないだろ」
「僕も友達……として好きだよ」
「今はそれでもいいよ。俺は陸とこうして放課後、ゆっくり過ごすのが楽しいからさ」
俺が顔が近づけると、鼓動が聞こえてくる。端正な顔立ちをしていて、俺の心臓は煩いぐらいに高鳴っていた。
もう少しで唇がくっつきそうな距離。その瞬間、突然にドアがノックされておばさんに言葉をかけられた。
「おやつよ」
あまりの突然のことで、僕たちは恥ずかしさのあまり不自然に距離をとった。俺は恥ずかしさのあまり、俺は急いで帰ることにした。
次の日。陸の写真欲しさに美雪に言われるがままに、壁ドンをしてしまった。それがあんな事態に陥るなんて思いもしなかった。
俺は公園で陸にこれからは俺が、陸を引っ張っていくと言いたかった。でも、拒否られてしまった。
「幼稚園のときに言ってくれたよな。僕がいつまでも、としくんを引っ張って行くって」
「うん……」
「でも俺はあの時から、決めていた。陸じゃない。俺が引っ張るのは」
俺は陸に拒絶されたと思って、悲しくなっていつものように接することにした。それなのに、陸の様子が可笑しいことに気がついて保健室へと向かった。
そこで俺は今度こそ、今までで一番の勇気を振り絞って告白をすることにした。意外と冷静な自分がいて、今度は間違えないようにしないと。
「俺は、お前が好きだ。ちょっと、卑屈なところも。ちょっと、勘違いして暴走している所も。全部全部、お前の全てが好きだ」
「僕は……僕も、好きだぞ。友達として、幼馴染として」
「友達としても、幼馴染としても大切さ。でも、そうじゃない」
俺は陸の瞳をもう一回見て、もう一度自分の気持ちをしっかりと伝えた。
「俺は恋愛感情をもう、ずっと前から抱いている。ずっと前から、俺には陸しか見えていない」
陸の手を握る俺の手が、熱くて火照っていくのが分かった。俺は左腕で陸の腰を支えてたが、震える手を押さえるのが大変だった。
俺は本能に争うことができずに、静かに目を閉じて優しく彼の熱くなっている唇が陸に触れたのを感じた。
俺は陸に縋り付いて陸の膝枕で眠ってしまった。目が覚めると、嬉しそうに俺を見ている陸と目があった。
「笑うなよ」
「ごめんって、でも可愛くて」
「可愛いのは陸の方だって」
俺は長年の夢が叶ったことが嬉しくて、起き上がってもう一度キスをした。俺は陸が笑っていてくれさえすればそれで構わない。
これからも陸と共に、お互いに手を取り合って生きていく。そして、一生をかけて陸を幸せにする。俺は陸の屈託のない笑顔を見て心に誓った。
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