第一章 恋の始まり
一話 再会
僕は昔から何をやっても、うまく行かないことが多かった。スポーツも、勉学も全てが苦手だった。
だから、いつからか自分の殻に閉じこもることが多くなってしまった。高校二年生になった今でも、それは相変わらずで。
周りは、友達と遊びに行ったり部活に行ったりする中で僕はいそいそと帰り支度をする。それが僕の日常。しかし、今日はいつもと少し違ったのだ。
「あっ、大久保! これから、カラオケに行くんだけどよ。一緒に行かね?」
「……えっと……僕は」
僕に話しかけてきたのは、昨日から同じクラスになったイケメンくんの田口俊幸くんだ。友達のいない僕でも知っているほどの有名人。
くっきりとした二重瞼で茶髪で、筋肉質である。平均身長もない僕とは比べ物にならないぐらいに身長も顔も良い。こんな僕にも声をかけてくれる心までもイケメンだ。
寒がりなのか、校則スレスレの明るい色のパーカーを着ている。その上に紺色のブレザーを着ている。
僕も寒がりだけど、校則を破るのは怖くてできないから絶対にやらない。僕はできるだけ、校則を守っている。
しかも彼は見た目や性格だけでなく、頭も良く去年の定期テストでもいつも上位にランクインしていた。
対して僕はいつも赤点ギリギリで、たまに補習を受けているぐらいだ。そんな僕たちが仲良くなるなんて、できないと思うんだ。
でも本当は、行きたいし仲良くなりたいと思っている。田口くんの後ろにいる友達たち数人が、僕をみて何やらヒソヒソ話をしているのが見えた。
分かっている……僕なんかといると、場の雰囲気が乱れるから来てほしくないんだろう。迷惑はかけたくないから、田口くんには悪いけど断ることにした。
「用事があるから……」
「そっか……分かった」
田口くんは少し残念そうにしていたが、直ぐに笑顔になって友達の方に向かって行った。僕は自分の席から遠めに彼らを見て、ため息をつくしかなかった。
周りに合わせてばかりで自分の意見が言えない。そんな自分が本当に嫌になってくる。嘆いていても、どうしようもないと言うのは分かっている。
それでも僕は僕自身が嫌いだ。いつかそんな自分を好きに、なることはできるのだろうか。
二年に進級にして、はや一週間が経った。この一週間の間、田口くんは毎日のように僕を遊びに誘った。
それでも僕は、いつも忙しいからと断り続けた。本当は遊びたいし、本当は仲良くなりたい。
そんな僕でも幼稚園の時に仲良くなった親友と呼べる友達がいた。苗字は分からないけど、僕はとしくんと呼んでいた。
小学校低学年の時、としくんと遊ぶ約束をしていた。それなのに、当日来なかったことがあった。
「としくん、いないの?」
僕は何かあったのかな? と心配になった。次の日、学校に行くと転校したと聞かされた。
僕にとっては、親友と呼べる仲だと思っていたのに何も言われなかったのが自分でも思っていたよりもショックだった。
それからだ、両親にも他人にも気を遣って生きてきた。自分にも嘘をついて、やりたいことしたいことがあっても興味のないフリをしてきた。
だから今度も、田口くんとは関わるつもりもなかった。しかし、人生そううまく行かないものだと悟った。
それしても、他にいただろう。僕みたいな隠キャではなく、チャラ男というか陽キャとかって言われる類の人種が。
仲良くなってもまた、としくんのようにいなくなってしまうのではないか。一度そう思ってしまうと、簡単には信用できなくなってしまう。
田口くんはそれでも、笑顔で僕に話しかけてきてくれる。申し訳にないなと思っている。僕がぶつぶつと、心の中で呟いていると急に腕を引っ張られた。
「おいっ! 危ないぞ!」
「ご、ごめん」
移動教室に向かう途中、階段付近で考え事をしながら歩いていた。僕はもう一歩の所で、階段を踏み外すとこだったらしい。
すんでのとこで田口くんに、腕を引っ張られて彼の腕にすっぽり収まってしまったということだった。
彼は僕が無事だと分かると、僕を引き剥がして自分が後ろに下がって何やら顔を赤くしていた。
なんだろ? えっと、どうしよう。こういう時、なんて言ったらいいのか分からない。コミュ障って、本当に困る。
二人の間に変な沈黙が訪れるが、そんな時に予鈴がなって我に返った時に田口くんに声をかけられたが他の人に遮られてしまった。
「あのさ……。きょ」
「おーい! 俊幸! 俊幸ってば!」
「あー、もう! うるさい! えっと、後で話すわ」
「う、うん……。分かった」
今日もいつもように、平々凡々に過ぎていくのだと思っていた。しかし、事態は思わぬ方向へと進んで行った。
今日もいそいそと、帰り支度を済まして帰ろうとすると田口くんに声をかけられた。しかも、何かニヤニヤしていた。
「大久保、今日こそ一緒に帰るぞ」
「えっと……忙しくてさ」
「ちぇ……良いじゃん、今日ぐらいダメか?」
「うっ……良いです」
席に座っている僕に対して、机の前に屈んで上目遣いでそう懇願された。このイケメンにそんな風に、お願いされたら断ることができなかった。
それに、階段から落ちそうになったのを助けてくれたお礼も言えてないし。無理やり自分を納得させて、一緒に帰ることになったのだがすぐに後悔することになる。
それからというもの、僕と田口くんは一緒に帰ることが多くなった。帰りには友達と初めての買い食いをしてみたりした。
彼と一緒にいると、初めてのことがたくさん経験できるような気がしていた。今日もいつものように、二人でゲーセンに行って格闘ゲームをする。
それにしてもと、隣で嬉しそうにゲームをする彼を見る。下手すぎやしないか……僕も得意な方ではないが。
毎日のようにゲームをしているのだが、彼は僕に一度も勝ったことはない。流石に可哀想になってきたから、次の対戦では手加減をして勝たせてあげることにした。
「ちょっ! 手を抜くなよ!」
「あ、ごめん」
「いいよ、上手くなるまで。付き合って」
「ふふっ、分かったよ」
今度は本気を出したため、完勝してしまう。少し拗ね気味に怒っている彼がなんだが、可愛くて笑ってしまった。
意外と負けず嫌いなところがあるのかな? なんか可愛く思えてしまって、無意識に笑ってしまう。
すると、彼は顔を真っ赤にして俯いてしまった。どうしたのかな? 怒ってしまったかな? それにしても、この赤くなった顔、どこかで見たことあるなと思っていた。
どこだっけ? ちょっと前のような気がするけど……。僕が考えていると、いつの間にか元通りになった彼に褒められてしまった。
「陸! ほんと、ゲーム上手いよな!」
「そうかなぁ?」
最初は、半分嫌々ながらな感じだったが彼は思っていたよりも僕に対して優しかった。僕が何も言えずにいても、何かと気がついてフォローしてくれる。
陰キャな僕でも、楽しめるように気をつけてくれている。これは、モテるはずだわ。と、妙な納得が出来た。
いつの間にか彼に対して、壁は感じなくなっていた。それどころか、一緒にいて本当に心の底から楽しくなっていた。
頭も顔も良くて基本何でも出来るのに、意外とゲームは苦手で可愛い一面もあることが分かった。
こんなに一緒にいて楽しいと思えたのは、幼なじみのとしくん以来だな。本当に楽しくて彼との時間はあっという間に流れていった。
楽しいと思う瞬間は直ぐに終わりを迎える。田口くんと仲良くなり始めて早いもので、一ヶ月が経とうとしていたある日のこと。
同じクラスの田口くんの友達、数人に声をかけられた。主に、肩まである金髪で片耳ピアスをしている不良である新田空雅くん。
ピアスだけでなく、指輪やら金色のネックレスやらをしている。漫画やアニメに出てきそうな、イメージだけど完全な不良である。
僕を見て何やら、怒っていたから怖かったが話を聞くことにした。正直怖かったが、無視した方が後々怖いことになってしまう。
「えっと……」
「お前さ、俊幸と離れろよ。最近、俺らとちっとも絡まなくなってさ」
僕が一番言われたくなくて、一番分かっていたことをハッキリと言われてしまった。
「同情で優しくされてんのに、図に乗ってんじゃねぇーよ」
それからその日はどうやって過ごしたか、分からなくて何も考えたくなかった。その日から僕は、田口くんを避けて一人で帰るようになった。
頭では分かっていた。田口くんがそんな人じゃないのくらい分かっていた……。それでも、信用している人に裏切られるはもうこりごりだ。
小学生の頃から、何も成長していないようだ……。そんな自分がほんとに嫌いだし惨めに感じる。
でも考えて見れば、前に戻っただけの話だ……。だから、寂しくなんて……。嘘だ、本当は寂しくてたまらない。
僕は、いつだって寂しくて辛かったのだ。認めたくなんてなかった……。認めてしまえば、今まで堪えていたものが溢れてしまうからだ。
僕が何にも考えずに、ふらふらと歩いていると小学生の時によく来ていた公園へと足を運んでいたみたいだ。
正式名称は知らないけど、通称桜公園と呼ばれている。今はもう散ってしまったが、三月下旬頃から四月上旬には桜が満開になる。
としくんが居なくなってしまってからは、なんとなく来ていなかった。久しぶりに来たが、何一つとして変わっていないようで安心した。
昔はよくここでとしくんと、一緒遊んでいたっけ。いつも一緒にいて、弱気なとしくんを僕がいつも引っ張っていたっけ。
「僕がとしくんを、引っ張っていく! なんて、言っていたっけ」
でも今の僕を見たら、恐らく幻滅するだろうな。僕は自分が嫌いだから、傷つきたくないから田口くんを傷つけてしまっている。
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