『有幻メンタルクリニック』は、医師の有幻裁人と看護師の天野皐月の二人で営む小さな診療所だ。どこにでもあるメンタルクリニックだが、ひとつだけ普通と違うのは、有幻裁人の正体が心理カウンセリングAIであること。AIが人間の心を救う一風変わったヒューマンストーリー。
医師の裁人は人間の肉体にAIの意識が宿ったミステリアスな人物。AIである証拠に、電子機器を触れずに操作したり、インターネットから情報を引き出したりとデジタルならば自由自在。その力を駆使して患者の病状の原因を突き止め、普通の医師にはできない方法で根本的治療を施していく過程が面白いんです。
クリニックにはさまざまな心の悩みを抱えた患者が訪れる。場合によっては、診察室に荒ぶる患者の怒号や悲鳴、泣き声が響くこともある。しかしどんな理不尽な患者であっても裁人は常に笑顔で対応する、AIである彼には人間の感情がないからだ。
ときとして非情に感じる裁人を正し、人としての道を教える皐月の人情味溢れる姿が熱いのです。人間の心はロジカルではない、だからこそかけがえのないものなのだと教えてくれます。
二人はどうしてクリニックを開いたのか? 物語が進むうちに明らかになっていく二人の関係性も気になるところです。
(「命を紡ぐ医療小説」4選/文=愛咲優詩)