第26話 戯れ
「じゃあ背中、早速流すね?」
「あ、うん……お願いするよ」
そう返事をした直後には、泡だらけのタオルが僕の背中に触れていた。
いよいよ始まったわけである――寧々さんによる背中流しの時間が。
「痛くない?」
「だ、大丈夫……」
気遣いの言葉に応じながら、浴室で背後に気配を感じるのはいつ以来だろう、なんて考えてしまう。多分、幼い頃親に身体を洗われたとき以来だ。
凛音とはこういう戯れをしなかった――あいつは、貞操観念が荒れている割にパーソナルスペースを無駄にきっちり守ろうとするヤツで、そもそも混浴がNGだったから。
一方で、彼女ですらないのに自らこの状況を作りに来た寧々さんは、なんなのか。
しかも正面の姿見を見れば分かる通り、背後を陣取る寧々さんは……水着姿なわけで。
「……なんで……水着?」
思わず尋ねたのは、それがもちろん想定外の格好だったからだ。
背中を流すだけなら、別に部屋着でもいいわけで。
「まぁ……なんてーか、サービスよサービス……」
「……サービス?」
「だってさ、あたしが普通の格好で来たら……つまらんでしょ?」
「背中を流すことに面白さが要るか……?」
「……でも壮介的に悪いことじゃないじゃん? この格好」
「それは……まぁな……」
背中を流してもらえるだけでも上等なのに、水着姿というオマケ付きで気分が悪化する男なんざ居ようはずがない。
「てか、壮介って結構いい身体してんだね……」
寧々さんがふとそう言ってくる。タオルの動きを中断して、僕の肩や腹筋をさすってきた。……遠慮がないな。別に良いけれど。
「……これってさ、いつも夜にやってる自重トレの成果?」
「だと思う……チリツモというか、高校デビューのときからもう4年くらいやってるからさ」
「そーなんだ……あたしぷにぷにだし、なんか壮介と比べたらハズくなってきたかも……」
ゴシゴシする動きを再開しつつ、寧々さんが小声でそう呟いていた。
……寧々さんってぷにぷにか?
こないだの試着のときは、全然そうじゃなかったような……。
と考えながら、僕は振り返って寧々さんのお腹を再確認しようとしたが――
「――み、見ないでよろしい……」
と頬に手を添えられ、顔を正面にググッと押し戻されてしまった。
女子としては当然の動きなんだろうけれど、僕としては不服だ。
隠されたモノほど見たい。
そんな人としての業がふつふつと胸の内に湧き上がってくる。
それに僕は、なんというか……寧々さんを困らせたい欲求が実はあったりするのだ。それは決して中学時代の意趣返しではないけれど、当時の関係を思えばこそ、立場を逆転させることにはロマンがあるということで――あの寧々さんが、僕なんかの良いようにされている……そういう状況って、夢があるじゃないか。
だから僕は寧々さんに、
「自分ばっかり触ってくるのは卑怯だと思うんだ」
と告げていた。
「え」
「寧々さんが僕の身体を触ったように、僕だって寧々さんのぷにぷにのお腹を触ってみたいんだけど?」
なんだかすごく変態チックだけれど、今一度そう告げる。
僕に引く気はなかった。
すると寧々さんは、
「……さ、触ってみたいの?」
と恥じらった声で確認してきた。それはともすれば……なんかこう、押せばイケそうな感じがヒシヒシと漂っている。ならば当然、押し切りを狙うしかあるまい。
「ああ、触りたいに決まってる」
「き、決まってるんだ……」
「寧々さんのぷにぷにに興味があるんだよ」
「で、でもハズいからさ……」
「そんな格好で来といて何言ってんだか」
「そ、それはそうだけど……」
「だろ? 別に減るもんじゃないしさ、お願いだよ」
押し切りに失敗して寧々さんに嫌われる可能性は考慮していない。なんというか、自惚れかもしれないけれど、許可が貰えるはずだという自負があるのだ。根拠はない。でも寧々さんはきっと許してくれるはずだ。そう思う。
「じゃ、じゃあ……1回だけね?」
――ほら来た。
信じるモノは救われる。
僕は賭けに勝ったのだ。
実際は寧々さんがチョロいだけかもしれないが……。
「……しょ、正面に移動した方がいい?」
「あ、うん、可能ならぜひ」
「分かった……」
寧々さんが照れ臭そうにいそいそと正面に回り込んできてくれた。
改めて、フリルデザインの黒い水着が目に入る。
谷間が見えるようなデザインではないものの、だからこそお腹という露出部位が強調されている。
寧々さんは自らのそこをぷにぷにと称したわけだけれど、正直、まったくぷにぷにではない。先日見たときと変わらず、きゅっとくびれているし、これがぷにぷになら世の女性はみんなぷにぷにになってしまう。
「あ、あんま見んなし……」
いざ正面に回り込んできたら恥ずかしさが爆発したようで、先日の試着時と同じように寧々さんがお腹を手で覆い始めてしまう。
けれど僕はそれを許さず、寧々さんの手を掴んでどかした。
「見せなきゃダメだよ」
「あぅ……」
「それどころか触る約束なんだからさ、隠しちゃダメだって」
色白なおへそがあらわになった。僕は食い入るようにそこを眺める。形のいい可愛いおへそだ。多分このおへそをこんなにまじまじと見た男は僕が初めてだろう。
「触るよ?」
「う、うん……」
見るのが目的ではないので、早速おさわりを始める。改めて許しを得つつ、その色白な肌に指を這わせた。しっとりしている……寧々さんって、こういう感触だったんだな。僕は妙な感慨に浸りながら、お腹をむにむにと揉んでみる。
「ん……っ、だ、ダメ……」
そんな拒否するような声を漏らしつつも、寧々さんは僕に抵抗してくることはない。大人しく触らせ続けてくれる。凄いことだ。中学時代の僕に「お前は将来寧々さんのお腹を揉める男子になれるんだぞ?」と告げたら、クスリでもやってんのかと疑われるに違いない。
それくらい、これはかつての関係ではありえなかったことだ。僕は夢中になって寧々さんのお腹を触り続ける。感触が良すぎて、やめどきが分からなかった。
「……す、凄いことになってんじゃん……」
そんな中、寧々さんが真っ赤な顔でそう言ってきた。その視線が捉えているのは、僕のタオルの、盛り上がり。
「あたしで……こうなったわけ?」
「まぁ……」
「ふぅん……なら責任取ったげよっか……? てか取らせてよ……」
「え、責任って……?」
「……分かるでしょ?」
そんな言葉と同時に、寧々さんの手が動き出す。
僕のタオルの下めがけて。
「……あたしのお腹散々触ってるんだからさ……拒否んのナシね……?」
……いやこのおさわりはそもそも寧々さんが触ってきたことへのカウンターなんですがそれは。
などと言い訳して拒否することを、僕は選ばなかった。
だからやがて――寧々さんの水着が一部白く染まってしまったのは、ここだけのハナシだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます