第25話 改めて覚悟
「――私の写真でえっちなことしてないでしょうね?」
寧々さんから今夜のお風呂に誘われたあと、返事はひとまずなんとも言えずに保留したのち、僕は午後の講義のために大学へと顔を出していた。
そしたら廊下で羽海と出くわし、すれ違いざまにそう問われてしまったという状況で……ううむ、なんてことをいきなり聞いてきやがるんだこいつは……。
「え……えっちなこと?」
「そうよ……私のフルヌードどころかもっと凄い写真を撮ったんだから、何かこう……シたんじゃないかしら?」
どこかウズウズした表情で尋ねてくる羽海は、相変わらずの美人だ。今日は長い黒髪をポニテにまとめ、白い半袖ブラウスにベージュのフレアスカートを合わせた格好で、こいつは夏場でも露出は少なめに抑えるタイプらしい――にもかかわらず、昨日はすべてを見せてもらえた。こいつの言う通り、僕のスマホにはあられもないデータがもちろん今も残っている。
そして昨晩はそれでヌいた……当然ながら馬鹿正直にそれを伝えることは出来ないので、僕は誤魔化すために、
「……お前こそ、僕の写真で変なことしてないだろうな?」
と質問に質問で返した。
こいつだって僕のご起立写真を持っているからな。
「し、してないわよ……穿った目で見ないでちょうだい……」
「……本当か?」
「ほ、本当よ……まぁ資料としては見たけれどね。血管の走りとか……参考になるわ」
……こんな美人が僕の血管の走りを見てエロ漫画を描いているのだと思うと、世の中って不思議だよな、とか思ってしまう。まぁ、エロ漫画界隈は作者さんが美人、ってことが往々にしてあるらしいので、こういうこともなくはないのかもしれないが。
――いやないだろさすがに……僕たちの関係は特殊例にもほどがある。
「とりあえずさぁ……ち○こ画像の流出だけは勘弁してくれよな?」
「同じ事をあなたにも言ってあげるわ……私なんて中身を見せているわけで……」
綺麗なピンクだった……まぁ、これ以上の言及はやめておこう。
◇
やがて夕方を迎えた頃には、今日受けるべき講義がすべて終わった。
ちょこっとゼミにも顔を出し、完全に大学を出た頃には空が暗くなり始めていた。
「――あ、おかえり」
「うん……ただいま」
やがて自宅に到着すると、寧々さんがキッチンで夕飯の調理中だった。今日はバイトがなかったらしい。
お風呂に誘われた件への返事は、結局曖昧なままだ。なのでちょっと気まずさがありつつも、ひとまず部屋着に着替えてから食卓の椅子に腰掛けた。
「……今日の献立は?」
「今日は豚バラ肉のトマト煮込みがメイン。白米だと微妙に合わないと思うから、ご飯はバターライスにしとくね」
……絶対に旨いヤツだ。
そう思いながら待ち続けた10分後に、バターライス、豚バラ肉のトマト煮込み、付け合わせのポテトサラダで食卓が彩られた。
ほらやっぱり旨そう。
すっかり良化してきた左手で箸を持ち、豚バラ肉のトマト煮込みからいただくことにした。豚バラ肉はスライスじゃなくて、100グラムくらいの塊だ。でも箸ですんなりとほぐすことが出来たので、早速口に運んでみた。
「――うま……」
切り分けた塊を頬張った瞬間、ほろほろと崩れて口の中いっぱいに肉汁が広がった。豚バラ肉は煮る前に焼かれているようで、外側がカリッとしていて、ほろほろ部分との食感の違いを楽しむことが出来る。あとはなんと言っても
「どう? ホールトマトと赤ワインで煮立てた贅沢な豚バラ肉は」
なるほど、赤ワインか……言われてみればそれだ。
納得しながら箸をスプーンに持ち替えて、バターライスも頬張ってみれば……もはや言うことなし。
ポテトサラダは何度か食べているから味を知っている。もちろん最高なのだ。
「寧々さん、今日も良い夕飯をありがとう」
「どういたしまして。――ねえ、ところで」
僕の正面に腰掛けて一緒に食事を始めた寧々さんが、
「……お風呂は一緒に入っていいんだよね?」
と急に尋ねてきて、僕はむせてしまった。
「ちょ、あのさ寧々さん……」
「水飲む?」
「だ、大丈夫……それより、本当に僕と一緒に入りたいのか?」
「うん」
あっけらかんとしてるなぁ……。
「今朝も言ったけど、別にいやらしいことが目的じゃないからね? 感謝を込めての背中流し、って感じだから」
「別に感謝なら……こうやって家事炊事をしてもらえるだけで充分過ぎるというか」
「なら、元友人が掛けた迷惑料も込みってことで」
「……凛音の罪は、寧々さんにはなんの関係もないだろ」
「じゃあ、昔のお詫びってことで」
「それだって、もう済んだことじゃないか……」
「まぁとにかく、いいじゃん……別にあたしとお風呂に入るデメリットって、壮介にはないでしょ?」
「そりゃあ……まぁ……」
デメリットどころか、むしろメリットしかないけれど。
だからこそ溺れそうで怖いのだ。
欲に。
でも、フリーになった僕が何をしようと、咎められる謂われはないわけで。
もちろん強引に襲うとかは無しだけれど、誘いに乗る分には別に、だよな。
だったら……、
「……分かったよ」
僕は気付くと、そう告げていた。
「背中を流すのだけ、お願い出来れば……」
「……いいの?」
「いいよ……興味あるから」
それがどういう興味なのかは自分でもよく分かっていない。
知的好奇心か、肉欲か、それともあるいは……。
その答えを見つけるために、なんて大仰な目標を掲げるつもりはない。
それでも寧々さんともっと気兼ねない関係を築くために、僕はやがて先んじて浴室へと向かった。
「……お待たせ」
タオル一丁で風呂椅子に座って待機していると、ほどなくして寧々さんが現れた。
恥ずかしそうに、先日購入したフリルデザインの黒水着を身に着けた姿で――。
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