第17話 高校からの友達
「――だから言ったじゃない。あんな遊びまくっていそうな女を彼女にしたらろくなことにならないはずだって」
この日の講義終わり。僕は大学付近のファミレスを訪れ、とある女子と向かい合わせに座っていた。
その女子というのは、高校時代に知り合って進学先が偶然被った女友達――
超が付くほどの黒髪美人女子。
高校時代は文化祭のミスコン3連覇という偉業を成し遂げ、連日告白されていたモテ女。しかし「私は自分から言い寄った人と幸せになるのが夢だから」という理想を掲げており、高校時代は結局告白を一度も受け入れず、誰とも付き合っていなかった。今もそうらしい。
ともあれ、僕は現在そんな羽海から説教されている……。
「あの女が自爆したから良かったようなものの、そうじゃなかったら壮介の評判は確実に良い方向には転がっていなかったわよ? 私がカウンターで正確な情報を流していたにしても、それによる自浄作用にだって限界があったはずだもの」
「だな……今となっては凛音を選んだ僕の見る目のなさが恥ずかしいよ」
浮かれていたんだ。大学生になって。
高校デビューした僕は、高校時代に関しては陽キャのノリに合わせるのが精一杯で、彼女なんて作る余裕がなかった。
でも時間が経つにつれてある程度の余裕が出てきて、大学では学部もゼミも一緒になった凛音に声を掛けてみた。でも蓋を開けてみれば、あいつは遊び人だった。勇気を出して声を掛けた初カノが、とんでもない地雷だったというのは、それを選んだ僕の目利きにも問題があるのかもしれない。
「まぁ、見る目がないというよりは、ババ引いちゃった感じだとは思うわよ」
羽海はフォローの言葉を紡いでくれた。
「犯罪やらかす女かどうかなんて、見た目や普段の言動からじゃ幾らなんでも見抜けない部分だもの。犯罪者の仕事仲間とかが『普段大人しいあの人が……』的なインタビュー受けてたりするでしょ? 人の本質なんて簡単には見抜けないわ」
「まぁ、そうだよな……」
「でも見抜けなかった代価が、その怪我っていうのは重いわね」
羽海の綺麗な瞳が、僕の左手を捉えてくる。包帯に覆われ、ちょっとした厨二病みたいな状態だ。
「左利きだから、ダメージ大きいでしょう?」
「まぁでも、だいぶマシにはなってきたよ」
まだ腫れがあって緻密な動作は出来ないけれど、フォークやスプーンでの食事くらいは出来るようになってきた。箸やペンはまだ無理だから、今日の講義もノートは取れず、緒方や野原からコピーを貰ったりしている。
「講義や食事以外の日常生活は大丈夫なの?」
「それはまぁ、なんとか」
「……居候が居るから?」
さぐるように、羽海が僕のことをジッと見つめてくる。
「井尾さんが流した噂は、壮介が家に女を連れ込んで浮気している、というモノだった……でも実際は、困っている女友達を居候させているだけ、なのよね?」
「ああ、そうだよ」
「その子はまとも? 近くに置いてて大丈夫?」
その問いかけには、心配の感情がふんだんに込められているように感じられた。
「そもそもその居候さんとは、どういう繋がりなの?」
「中学時代のクラスメイトなんだ」
「井尾さんが初彼女なんだから……元カノとかではないのよね?」
「むしろパシリにされてたような関係だよ」
「ぱ、パシリ?」
「でもそれは僕も望んでやってたことでさ……まぁ、お互いにとっての黒歴史みたいなもんかな」
それを受け入れた上で、今はお互いに前を向いているわけだ。
「……その子、信用出来るの?」
パシリという言葉に引っかかりを覚えたようで、羽海の中では不安が加速したらしい。そりゃそうだ。事情を知らない者からすれば、パシリは不穏過ぎるワードだ。
「大丈夫。信用出来る人だよ」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。ていうか羽海はさ」
「……何よ」
「僕のことになると世話焼き感を出してくるのはなんで?」
イヤじゃないけど、不思議だな、とは思っている。僕の悪評を蹴散らすのに協力してくれたのもそうだが、羽海にとってはメリットのない面倒事でしかないのに。
「私はただ……恩を返そうとしているだけよ」
羽海はどこか照れ臭そうに呟いてみせた。
「壮介は、助けてくれたじゃない……高校時代、私のこと」
確かに助けている。ミスコン3連覇のモテ女は、その肩書きだけ見れば華々しい存在に思えるだろうけれど、僕が知る限り、大変な面も多々あったんだ。女子のやっかみ、告白を断られた男子によるストーカー被害。羽海がそういう悩みを抱えていると知って、僕は手を差し伸べて解決に導いている。
「だから今はそのお返しとして、色々心配してくれてる、ってことか?」
「……まあね」
「でもさ、その同居人はほんとに大丈夫なんだよ。心配は要らない」
「井尾さんを良い女と思って付き合った男の言い分は、信憑性があまりないわね」
「そ、それは……」
「一応、確認させてくれない?」
「確認?」
「壮介ってこのあともう帰るんでしょ? だから私を同行させて欲しいの」
「……同居人に会いたいのか?」
「ええ。一応この目で人となりを確認させて欲しいのよ……井尾さんのときだって、あなたは大丈夫と言っていたけれど結局ああなったわけでね」
とのことで……本当に僕のことが、心配なんだな。
高校時代に彼女はついぞ出来なかった僕だが、この羽海と知り合えたことに関してはかけがえのない財産だと思っている。当然ながら無下には出来ない。安心してもらうために、一度招くのはアリだと思った。
「……分かった。じゃあこのあと同行してくれていいよ」
「ありがとう、壮介」
こうして僕はその後、羽海と一緒に帰宅することになった。
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