第11話 そんな思いとは裏腹に
~side:凛音~
「――あームカつく!」
壮介から直接反論されたこの日の夜。
凛音はラブホのベッドでぶーたれていた。
「ムカつくって何が?」
隣に寝そべっている男が尋ねてきた。彼は
「いやさぁ、今日壮介に会ったら生意気にも色々言われたわけよ! 彼女ほったらかしてどっかのオンナ居候させてるとかありえんくない!? 何様って感じ!」
「壮介、って……こないだ見られた彼氏?」
「そう! まぁもう彼氏かどうかは分かんないけどね!」
そう吐き捨てながら、凛音は上体を起こして電子タバコを吸い始める。
正直、凛音の中ではもう壮介のことはどうでもいい部分がある。今更ヨリを戻したいとは思わない。それは向こうも同じはずだ。
(壮介なんかより……)
凛音には、彼氏や浮気相手よりも自分の中でもっともっと大事な存在が居る。
言うに及ばず、それは高校時代に出会った1人の少女、町田寧々である。
高校時代に所属していたグループのリーダー。
凛音にとって彼女は友達ではなく憧れと言える。
周囲とはさほど歩調を合わせず、自分のやりたいことをサバサバとやるスタンスの寧々は、凛音にとって衝撃的な存在だった。なんせ流行を追いかけ、周囲と個性を合わせることが、年頃の女子にとって主流の在り方だ。
にもかかわらず、寧々はこれっぽっちも流行を追いかけず、周りがiPhoneだらけの中Androidを頑なに使い、「iPhoneなんて高いだけじゃん」と歯に衣着せない物言いでiPhone派閥の高圧的な態度を退けさせたりしていた。
家庭の懐事情でiPhoneが買えず、仕方なくAndroidを使用していた高校時代の凛音にとっては、寧々という存在がとてつもなく心強かった。それ以外にも色々と助けられた部分があって、凛音はいつしか寧々を憧れの存在として捉え、惚れ込んでいたのである。
しかし高3の半ば頃から、心なしか距離を置かれるようになった。どこの大学に行くのかすら聞かされないまま、進学した現在は完全にLINEのみの繋がりである。
そのLINEにしたって、凛音から連絡しなければ何も届かない。
一体何がどうして寧々から距離を置かれるようになったのか、凛音には分からず、日々悶々としている。
(……まぁでも、変わらず元気ならそれでいいけど)
男の影も形もなく、サバサバと奔放に過ごす姿が好きだった。だから今も男になびいたりせず、その調子を貫いてくれていればひとまずそれでいい。そのイメージが崩れてしまうことが、凛音にとって一番キツいことと言えた。
~side:壮介~
「あのさぁ白木……これマジで付けなきゃダメ?」
「ダメだよ。罰ゲームなんだから」
この日の夜は、夕飯後に町田さんとゲームをして遊んでいる。コンシューマー機でのレースゲームだ。負けた方が猫耳カチューシャを付けるという他愛もない罰ゲームを設定して勝負に臨んだ結果として、――町田さんが敗北。なので罰ゲームの猫耳カチューシャ(黒)を町田さんに渡したところである。
「……なんでこんなの持ってんの?」
「飲み会のビンゴで当たったんだ。当たったというか残念賞だけど」
何に使えばいいんだよ、と思っていたが、ようやく良い用途に巡り会えた気がする。
「さあ町田さん、拒否はナシだ」
「わ、分かってるけど……一瞬だけだからね?」
「それで大丈夫」
そう返事をした直後に、町田さんが猫耳カチューシャをモソモソと嵌めてくれた。
「おぉ……」
思わず唸ってしまった。だってメチャクチャ可愛いのだ。黒髪ウルフカットと、猫耳カチューシャが、妙に馴染んでいる。ガチの獣人に見えないこともない。町田さん自身が猫目なこともあって尚更だ。照れているのも良いと思う。こういうのはやっぱ恥じらいがないとダメだし。
「うぅ……マジでハズいんだけど……」
「なあ町田さん、写真撮るのってアリ?」
「な、ナシナシっ」
「そう言わずにさ、1枚だけでいいから」
「……1枚だけ?」
「そう、1枚だけでいいからお願いだよ」
スマホを準備しながらそう告げると、町田さんは少し考える素振りを見せつつ、
「……ま、マジで1枚だけだからね?」
とあっさり折れてくれた。意外と押しに弱いらしい。僕は「ありがとう」とお礼を言いながら、早速パシャリと撮影した。
照れ顔の猫耳町田さん。
うん、可愛い。
「ほら見なよ自分のキュートな姿を」
「み、見せんでいいってそんなのっ」
そう言って僕のスマホを押し返してくる町田さんである。
こういうやり取り……中学時代の関係性を思えばありえないことだよな。
でも逆に言えば、こんなことが出来るくらいには仲良くなってきたわけで、なんとも感慨深いモノがある。
「も、もう外していいよね……?」
「出来ればもうちょっと付けてて欲しいな」
「……白木ってこういうのが趣味なわけ?」
「いや、単に可愛い町田さんをもうちょっと見ていたいだけかな」
「ば、ばかっ」
同じソファーに座っている僕を照れ臭そうにポカッと軽くはたいてくる町田さん。
そんなスキンシップも当然ながら悪くない。
連続で繰り出される猫パンチを緩く受け止めながら、僕はどこか強い満足感を抱く他なかった。
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