第3話 繋がり
僕の部屋は6畳の1LDKだ。親が契約してくれている。部屋を探す際、こっちに出て来て付き添ってくれた親には「別に1Kでいいよ」って言ったんだけど、広くて悪いことはないだろと言い返されて、大きめの部屋を借りることになった。
今にして思えば、予算を気にせず大きめの部屋を借りてくれた親には感謝したい。おかげで町田さんを居候させる余裕があるのだから。
「ありがとね、
駅から10分ほど歩いて、そんな自宅にたどり着く。招き入れたリビングで、町田さんはお礼を言ってくれた。その背中には大きめのリュックを背負っている。合コンで見かけたときから、やけにデカい荷物を持っているなと思っていたけれど、どうやらそれには着替えなどが入っているらしい。
「荷物は……それで全部じゃないよな?」
「だね。明日改めて取りに行くことになるけど、家具家電は備え付けのヤツ使ってたから、そこまでの量にはならんかな」
とのことで。
だったら僕が付き添う必要は、なさそうか。
それにしても、不思議な気分だ。あの町田さんが僕の部屋に居る。
中学時代、パシリに甘んじていた相手。当時のことは間違いなく良い思い出ではなくて、町田さんを見ているとやっぱり胃が痛む部分がある。町田さんに媚びて威を借りていた当時の自分は黒歴史と言える。
だからこその、これは荒療治。
町田さんを居候させることで、僕は過去と向き合ってトラウマを払拭したい。
「ねえ」
そんな中、町田さんは室内を見回しながら、
「ひょっとして彼女居る?」
「……え」
「いやほら、なんか女性モノっぽいスリッパあるし」
あ……確かに
めざといな……。
「もし同棲してるんだったら……あたしマズくない?」
「いや、別に同棲とかじゃないんだ……単にあいつがここに来たときに履いてるヤツってだけでさ……」
「いやいや……ってことは彼女居るってことでしょ? じゃああたしお世話になったらダメじゃない?」
町田さんは意外と、って言ったら失礼だけど、真っ当な倫理観を持っているらしい。漫画ならモジャモジャの黒い線を頭の上に浮かべていそうな表情で困り始めていた。
「彼女居るならダメじゃん……てかなんで合コン居たの? 彼女持ちなのに」
「……裏切られたんだよ」
僕は素直に打ち明けることにした。別に隠すことでもないし、素直に言っておかないと悪者になってしまう。
「裏切られたっていうのは……浮気されたってこと?」
「そう。……彼女曰く、魔が差したって話だった」
ここでセックスしておきながら魔もクソもないだろ、とは思う。挙げ句、最終的には逆ギレして僕の前から姿を消したわけで、今更気遣う余裕なんざ持ち合わせていられるかって話だ。
「そっか……浮気されたんだ。なら……別にいい、のかも?」
「いいんだよ。あんなヤツを慮って自分に出来ることを狭めたくない。なんも気にせず、町田さんはここに居てくれたらいいよ……そもそも他に行く宛てがないわけだろ?」
「……まあね」
頷いて、町田さんは荷物を降ろしていた。
「じゃあ……お世話になるから」
「……それがいいよ」
こうして正式に、町田さんの居候が決まった。
~side:
(ベッド……貸してもらえちゃった)
夜が更けて日付が変わった頃、寧々は個室のベッドに横たわっていた。家主の壮介が使っているベッドだが、シーツをわざわざ取り替えた上で「使っていいよ」と言われた。最初は遠慮したものの、布団もあるから大丈夫と言って、壮介はリビングの方に布団を敷いて休む態勢を整えてしまった。
そうなってはもはや拒むことが難しく、寧々はこうして大人しくベッドで休むしかなかった。シャワーを借りて、リフレッシュは済ませている。部屋着のジャージ姿。地上げの影響で最近はきちんと落ち着いて休めていなかったので、不安がひとまず解消された現状は安らぎに包まれている。
(白木……昔はあたしに自分の意思を押し付けてくることなんて出来なかったのに)
彼がベッドの使用をほぼ強制させてきたことには、良い意味で驚いている。中学時代の壮介は、言っちゃなんだが弱々しい存在だった。パシリとして使うにはちょうどよく、向こうもそうすることで他の輩に目を付けられないよう、こちらの威を借りていたように思える。
そんななよっとしていた壮介が、今や割と良い見た目の大学生に成長している。きちんと自分の意思も伝えられて、彼女さえ作れるようになっていた。小さい頃に放流した稚魚が立派な成魚になって戻ってきたような、妙な嬉しさがあった。
(何様だよ、って話だよね)
自嘲気味に小さく笑いながらそう思う。
そんな中、枕元のスマートフォンが震えた。チェックしてみると、
【この前彼氏に浮気がバレたんだけど、どうすればいいと思う?】
メッセージをチェックしてみると、そんな内容だったので寧々は呆れる。昔から、凛音はこうなのだ。飽き性で移り気体質。
【知らんし。自分でどうにかせい】
そんな返事を送って、今宵はひとまず眠りに就いた。
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