第2話 ニーズについて

 今、何を求められているか。

 これは非常に難しいテーマです。はっきり言ってこれをしっかり把握できるならお金になります。マーケティングのスキルですからね。

 ただ、ランキングなどを見ていると朧気ながらに見えてくるものがあるのではないでしょうか。私は流行り物がそこまで好きではないですし、流行っている物に対して斜に構えてしまうような捻くれ者で更には流行が収まった頃に手を出したりするおかしな人間なのでニーズを語るのは明らかに向いていないのですが、読まれる作品という話題には重要な部分だと思うので書かせて頂きます。


 流行があるにせよ、どんな時代でも受けるテーマというものはあります。常にあるニーズ、というものです。男性向けなら『友情』『努力』『勝利』というテーマは漫画に限らずウケるものです。現実では友情は裏切られることもあるし、努力は報われないこともあるし、勝利ばかりではないでしょう。ですが紆余曲折はあれどもそれらが物語では報われる方が好まれます。全てが無駄だったとは誰も思いたくないのです。

 また、理不尽や悪に対して主人公が復讐や征伐する話は本当に需要が絶えません。時代劇から昔話、小説、伝奇、ドラマ、映画として古今東西に関わらず千年単位で需要があるんじゃないでしょうか。これも因果応報があって欲しいという人の望みの形だと思っています。

 もちろんそこを外しても売れている作品はありますが、それらは高いレベルで他の部分が優れていたりします。バッドエンドを描きつつも素晴らしい作品は多々あります。エンディングについて良し悪しの判断が付かないものも当然ありますが……個々の解釈に任せるというものは読者もモヤモヤするので自信や信念がない限りバッドエンド寄りな解釈ができる終わり方は避けたほうが良いと思います。

 童話や昔話の原典はバッドエンドや子供向けではない表現が山程あります。ハッピーエンド寄りに改変された童話や昔話が今の常識となっています。少なくとも子供の頃に白雪姫の継母が真っ赤に熱された鉄靴を履かされて処刑されるシーンとかはなかったんじゃないでしょうか。あ、でも日本の昔話のカチカチ山はどうなんでしょうね? 私が知る話は以下のものです。

 タヌキが畑を荒らすのでお爺さんに罠を仕掛けられ、捕獲されてタヌキ鍋にするために吊るしておいたのを、タヌキはお婆さんを言葉巧みに騙して縄を外させてお婆さんを撲殺してしまい、逆にお婆さんを鍋の具材にしてしまう、と。お婆さんに化けてタヌキ鍋としてお婆さん鍋を食わせた、までが復讐に至る前段階でした。後は見たウサギが薪を背負わせて火責めにしたり泥舟に乗せて水責めにするのは知っての通りです。カチカチ山はこの話を最初に知ったため、とんでもない話だと子供ながらに衝撃を受けたものです。お爺さん、長年連れ添った奥さんを食べちゃったんだ……と。カニバリズムが平気で出てくるお話ってちゃんと残酷表現タグを付けて欲しいものです。

 現在ではかなりマイルドになって誰も死なない平和な終わり方をするお話が増えました。カチカチ山も今では死なないお話がしっかり存在するようです。なので復讐もマイルドになっています。それはそれで物足りないお話になるなぁ、と思うのですが子供向けというニーズからは仕方ない話かも知れません。そもそも原典が作られた頃の『盟神探湯くがたち』という風習が理解されないので意味が変わってしまっています。罪がないなら火が付いたり水に沈められても無事であり罰せられないはずなんていう刑罰と裁判が入り混じったものが罷り通っていたなんていうことは今からすれば狂っているとしか思えません。魔女裁判も似たような刑罰でした。近世に近付けば刑を執行する側も無実だろうが死ぬと思っていたのでしょうけどね。今でも外国の一部地域において絶えていないというから恐ろしい話です。


 かなり話はズレましたが、現代では子供向けの話は子供向けとして改変されてしまいますが、原典から芯が変わることはありません。因果応報、悪因悪果、善因善果、自業自得。これらを表現していることには何ら変わりがないのです。このテーマはおそらく人類が続く限りは未来永劫書かれ続けるでしょう。


 さて、女性向けは……と言われても私は女性向けについては詳しくないのですが悪役令嬢ものは非常に昔からランキングに登場しているように見えます。やはり主人公の性別が同じ方が当然感情移入がしやすいのでターゲットとする読者と主人公の性別を揃える方が無難でしょう。もちろん恋愛の表現においては両方の心理を描写する必要が出てきますが当然、自分の性側のキャラに愛着を持つことの方が多いはずです。

 とは言え、出来が良いものであれば知られることで主人公の性別関係なく広く読まれるようになりますけどね。女性向けはやはり、恋愛を主軸においたものが読まれるように感じます。


 とりあえずは書きたいものと流行りのニーズとターゲットが合っているかどうかが読まれるポイントではあると思います。常にあるニーズに流行りを乗せるというのが読まれる基本的なストーリーの作りかと思いますが、これを魅力的に見せることができれば最高ですよね。一流は流行りを作ることが出来る人だと思いますが別に流行りに乗っかって面白い物語が作れるのならば二番煎じだろうがなんだろうが私は良いと思います。パクリとオマージュの線引は非常に難しいとは思いますが、何でもパクリだというのは個人的には好きではないです。伏せ字だらけの原典ネタを出してくる作品は読んでいるとわからなさすぎると辛いところがありますが、これはオマージュの範囲でしょう。あまりに登場する元ネタの範囲が広いと作者さん色々見てるなぁ、と思うことしきりですが。


 あと、流行っているからと書いていて楽しくない作品を作るのは個人的におすすめしません。仕事にしたいのならば個人的な好みから外れようが編集の意見を取り入れて書くことになるのですからプロを目指すのでなければ好きなように書いてみてはどうでしょう?

 これは読む側としての意見ですが、多少のネタ被りは恐れずに作品を作って欲しいと思います。どうせテーマなんてダダ被りするんですからね。商業化するならパクりの線引がアウトと判断されれば編集が止めてくれます。止められなくてネットで炎上した例も皆無ではありませんが、意図的なパクリをしなければ恐れる必要はないと思っています。


 その上でジャンルが合っていれば言うことはないのですが、読まれたいという欲がある以上は流行りのジャンルや要素は押さえていったほうが良いかも知れません。私は書く速度が遅く、飽き性なため流行りが終わった後に公開、となりかねませんので流行りを押さえることすら不可能というのはさておきとして。とはいえWeb小説を読んできてランキングの上位はここ十年ですごく目新しい物、というのはさほどないです。スローライフが流行ったりというのは目に付いたりしましたが基本的には異世界転生・転移のハイファンタジーが多く、VRMMO系は依然根強い人気でローファンタジーも良作が生まれ続けていると感じています。女性向けも内容について細かい流行はあるようですが乙女ゲームや少女漫画のキャラクターに転生ないし憑依する形のものが多いですね。ただし、書籍化される作品に関しては大抵は圧倒的に表現や展開のさせ方が上手いです。引き込む力というんでしょうか? とにかく流行りに乗るならランキング上位を参考にしてオリジナリティを上手いこと出して欲しいと願います。


 もちろん書きたいものを書く、というスタイルは非常に応援したいものの……読まれなくて筆を折るなんていうことは無いようお願いします。読まれることと内容の良さが比例しないこともあるのがWeb小説です。理由は前の話にて書いた通り、読者の時間が有限であるため外れを引きたくないという心理からです。


 さて、次を書くことがあれば読むきっかけの一つを私の視点から見てみたいと思います。

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