第31話 二つの幸せ
月日が流れ、瞬が高校を卒業した頃、小さなチャペルのドアの前では、緊張の面持ちで互いに励まし合っている親子がいた。
「どうしましょう・・・緊張で汗が止まらないわ」
「やめてよ、母さん。僕まで汗が出てくるじゃないか」
手を握り合い、言葉を掛け合う親子に俺ともう1人の男性が笑みを溢す。
初めて2人で過ごしたクリスマスの翌日、帰宅するなり母親が慌てて駆け寄ってきた。
彼からプロポーズされてしまったとオロオロする母親とは裏腹に、俺達はおめでとうと歓喜の声を上げた。
恋人としての期間は短いが、同じ職場だったのもあり、互いに人となりも知っている。それに、彼は以前から好意を寄せていた。
その深さに、母親も気付かないわけはなかった。
まだ、返事をしていないと言う母に、瞬が背中を押したのもあり、瞬が高校を卒業したらという条件を付け、プロポーズを受けたそうだ。
それから、彼を交えた付き合いも増え、2人の提案もあり、今、こうしてチャペルへと来ていた。
来賓はごく親しい身内のみ。
そこには、瞬の友達も参列していた。
母親が言った提案というのは、一緒に式をあげようという事だった。
「お義母さん、そろそろ俺の恋人から離れてください。扉が開く時間です」
「あ、そ、そうね。そろそろお互いのパートナーの腕を掴まなきゃね」
母はそう言って慌てて瞬の手を解くと、自分のパートナーの腕に手を添える。
俺も瞬に腕を差し出し、そっと添えた瞬の手にもう一つの手を添える。
扉が開き、前を母達が歩き始める。
その後ろから、俺達が入場する。歩きながら参列している友人に照れたように微笑む瞬。
そして、俺も自分の母親と兄、やっさんへと視線を向け、にこりと微笑む。
心なしか、涙を浮かべる母の隣にいる兄まで涙を浮かべている気がして、俺はふっと声を漏らし笑った。
神父がいる場所に辿り着くと、横一列に並ぶ。
神父はそれぞれに誓いの言葉を投げかける。それに俺は力強く返事を返す。
日本では正式に籍は入れれないが、こうしてみんなの前で誓う事で勇気を貰える気がした。
この先、どんな事があっても瞬を幸せにする、俺には出来るという勇気。
それが心強かった。
教会を出る俺達を、外で待機していた友人達が紙吹雪を投げ、祝福してくれた。
そんな中を嬉しそうに歩きながら微笑む瞬。
出会いは最悪な形だった。
そして、再会は奇妙な形だった。
深い傷を抱え、暗闇を歩いてきた俺達は、その傷の深さ故に沢山の涙を流したが、互いに光となり照らし続けてきた。
その光はきっとこの先も消える事はないだろう。
何故なら、俺の心に落ちた雫はいつでも満ちているからだ。
暗闇の中で落ちる雫 颯風 こゆき @koyuichi
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