第30話 落ちてきた雫

クリスマス当日、朝から雨が降っていた。

それでも何事もなく今日を迎えられた事が嬉しくて、多少の雨など気にならなかった。

身を寄せ合いながら傘をさし、予約していた店へと向かう。

豪華なレストランは緊張するから嫌だと言う瞬に合わせて、小さなレストランを予約した。

小さいながらもおしゃれなその空間にはカップルが多く、男同士で来た俺達に一瞬視線が集まったが、それはすぐに目の前にいる恋人へと向けられた。

食事を済ませた後、本当はイルミネーションを見る予定だったが、あいにくの雨で俺達はそのまま予約していたホテルへと向かった。

家で過ごすのもいいかと思ったが、デートとは言え、帰宅するであろう母親に気を使わせたくなかった。

何より気にせずに2人の時間を過ごしたかった。


「わぁ・・・雨が降ってなかったら、もっと綺麗だったんだろうな・・・」

大きな窓の外に見える街路樹に飾られたイルミネーションは、雨に濡れた窓からはぼやけて見える程度だった。

それでも、綺麗だねと笑う瞬に、俺は注いだばかりのシャンパングラスを渡す。

テーブルには、事前に頼んでおいたシャンパンと、数種類のケーキが並んでいた。

瞬はグラスを受け取ると、一口だけ飲んでケーキを食べようと俺を急かす。

一番好きなチョコケーキを美味しそうに頬張りながら、幸せだねと微笑む。

それから互いにプレゼントを交換した。

瞬は俺に手袋を、俺は瞬にマフラーを手渡した。

喜ぶ瞬を見つめながら、この瞬間が永遠に続くようにと願った。


シャワーを済ませて部屋に戻ると、ベットの上で固まっている瞬の姿があった。

もう何度か体を重ねているのに、まだ恥ずかしいのか顔を赤らめていた。

俺はクスッと笑いながら、瞬を後ろから抱きしめる。

「瞬・・・」

「へっ!?あ、なに?」

こそばゆいのか、耳を触りながら慌てて答える瞬に俺はまたクスリと笑う。

「今日、一緒に過ごせて良かった」

「う、うん。僕も・・・」

「瞬、前にも話したが、お前は俺の中にポタポタと落ちた雫だった」

「え・・・?」

「静かなその雫は暖かくて、落ちる音が心地よくて、綺麗だった」

「・・・・うん」

「ほら、いつの間にか雨も止んだだろ?窓に流れる雫を見て急に思い出したんだ」

俺にそう言われて、瞬は窓へと視線を向ける。

すっかり止んだ雨の雫は、ゆっくりと窓を伝い、落ちていく。

「瞬、俺に会いに来てくれてありがとう。溢れるほどの愛をありがとう。俺の心を救ってくれてありがとう。何より生きててくれてありがとう」

素直にそう伝えると、瞬はモゾモゾと動き、体の向きを変えて俺を見上げる。

「僕も・・・僕を見つけてくれてありがとう。あの日、見つけてくれなかったら、僕はきっとまだ目覚めなかったと思う。それに、一度消えた後も見つけてくれてありがとう。でも一番は僕を好きになってくれて、愛してくれてありがとう」

瞬はそう言いながら涙を流す。

俺はその涙を救うようにキスをする。

「俺達はもう大丈夫だ。だから、この先はずっと笑いながら暮らそう。ずっと俺と一緒にいてくれ」

「うん・・・ずっと一緒にいたい。大好きだよ、健志さん。愛してる」

「あぁ。俺も愛している」

見つめ合う目を互いにそっと閉じ、キスを交わす。

深く絡み合うキスはとても心地よく、幸せすぎる気持ちに、俺まで泣きそうになる。ぬくもりと存在を確かめる様に、互いに肌に触れ、求め合った。

そうして夜も更けて眠りにつき、目が覚めるといつの間に降り始めたのか、窓の外はすっかり雪景色になっていた。

その光景が、あの日止まった時間が動き出したのだと、俺達に語りかけているようだった。

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