第18話 知りたかった事実
翌日の朝、俺は瞬にある提案をして仕事へ向かった。
それは、彼の母親に全てを話し、瞬がここにいる事を伝える事だった。
初めは半信半疑で戸惑うかもしれない。
だけど、長い間理由も知らずに1人悲しんできた母親は事実を知るべきだと、俺は伝えた。
そして、1人でいる間、何か存在を知らせる術を身につけろと付け加えた。
練習して電気を付ける事ができた。
それならば、何かを動かしたりして、その存在を知らせる事ができるのでは無いかと思ったからだ。
瞬は静かに俺の話に耳を傾けていた。
そして静かに頷くと、以前のように俺をいってらっしゃいと見送ってくれた。
それから数日が過ぎ、俺の休みの日に会いに行くことになった。
俺はお母さんへの手土産を買って、少しだけ渋っている瞬を励ましながら病室へ向かった。
瞬のお母さんはいつもの様に笑顔で俺を迎い入れてくれた。
瞬は母親の笑顔見て、目を丸くして驚いていた。
そして、目を潤ませ母の笑顔を心から喜んでいた。
いつもの様に瞬の頬や髪を撫でながら、会いに来たぞと囁く。
そして、母親に大事な話があると切り出した。
ここに瞬の魂がいると唐突に告げると、あからさまに不審めいた表情をした。
俺は瞬に合図をすると、瞬は母親のそばに行きそっと髪を撫でる素振りをする。
するとわずかだが、髪が揺れ、瞬が手を頬へと滑らせると母親は本当なのねと静かに涙を流した。
それから、俺は今までの事と、瞬から聞いた話を話し始めた。
俺は去年の今頃、瞬を見つけた事。それからずっと一緒に暮らしていた事。
瞬とは面会が叶わなかったから、ここに初めて面会に来るまで、瞬が被害者本人だと知らずに暮らしていた事。
俺はその間、とても瞬に支えられた事を話した。
それから、瞬が伝えてくれた、母親が一番聞きたかったであろう話を話す。
いじめは15の時からあった事、最初は貧乏な自分を時折揶揄う程度だったが、次第にエスカレートしていった事、それが事故に遭う前日まで続いた事を話した。
母親は静かに涙を流しながらも、しっかりと俺に視線を向け、耳を傾けた。
事故にあった日の前日、理不尽な暴力を受け、怪我を隠すために早くに寝ついたふりをして、翌日早めに家を出た。
そして、俺のバイクが来ている事に気づいてはいたが、あえて避けなかった。
その事実に、母親は堰を切ったように声を漏らし泣き始めた。
だが、俺は事故は確実に俺の不注意だった事を告げ、瞬の気持ちはどうであれ、何も悪くはなかったと改めて謝罪した。
そして、体に戻ろうと努力したが未だに戻れない事、毎日ベットの側で泣きながら自分に謝罪している母を見るのが辛くて、街を彷徨っていた時に俺を見つけた事を話した。
「お母さん、もう俺も瞬も前を向く事を決めました。だから、お母さんも一緒に前を向きましょう。そして、一緒に瞬がいつでも体に戻れるように、俺と一緒に守りましょう」
そういうと、母親は力強く頷いた。
瞬は泣き続ける母親の側で、母の背中を摩っている。
「お母さん、瞬が心配してます。もう泣かないでと、謝らないでと言ってます」
「えぇ・・・そうね。瞬が背中を撫でてくれているのがわかるわ・・・もう、泣くのはやめなきゃね・・・」
そう言ってニコリと笑う。
その笑顔を見て、俺はもう一つの話をするために、母親の手を取った。
「お母さん、もう一つお話があります」
俺の言葉に、母親と瞬は何の話かと俺に視線を向ける。
「実は初めて面会をした日、いろいろあって瞬と離れ離れだったんです。俺は後悔してずっと探し続けて、先日やっと見つけました。お母さん・・・俺がこんなことを言うのは間違っているのかもしれませんが、俺、瞬に沢山救われて、笑顔をもらって、一緒に過ごす内に瞬の事が好きになりました」
突然の告白に2人は同じように目を大きく見開く。
俺はそれがおかしくて、ふふッと笑った。そしてまた言葉を繋ぐ。
「瞬が俺が傷つけた被害者だと知って、俺は怖くなりました。加害者である俺がこんな気持ちを持ってはいけないのではないかと思ってしまったんです。
それを察した瞬は、俺に別れを告げて消えたんです。でも、それから俺はすごく後悔しました。そして、形はなくても瞬のそばに居たいと強く思ったんです。
お母さん、俺の気持ちを許してくれませんか?俺は、心から瞬を愛しているんです」
真っ直ぐに母親の目を見つめ、俺は懇願する。
そんな俺をただ黙ったまま、母親は見つめ続けていた。
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