第13話 突然の来客

「建志、起きてる?」

母がドアを開けるなり、そう声をかける。

少し体を起こしながら俺が大丈夫だと返すと、母が困ったような表情をする。

「何かあったのか?」

俺の問いかけに母は困惑顔のまま後ろへ振り返り、どうぞと声をかけた。

その声に促され入ってきた人物の姿に、俺はドキリとする。

「お久しぶりです」

そう言って姿を現した女性は、眠ったままの彼の母親だった。


「元気・・・ではないわね。ごめんなさい」

「いえ・・・」

「あなたのお兄さんと会って、あなたがここに入院をしているのを聞いたの」

そう言われてハッとする。

きっと現場から近い病院に運ばれたここは、彼が入院している病院だと言うこと気付く。

「もう・・・6年になるわね。ずっとお金送ってくれてありがとう。あなたはちゃんと罰を受けたのに、あれからずっと息子の事を気にかけてくれて、ありがたいと思ってるわ」

「当然の事です・・・」

「あなたには悪い事をしたと思ってるわ。謝罪に来たのに、あの時は気が動転してて、怒鳴りつけて帰してしまった事を未だに後悔しているの」

「・・・・いえ、当然の感情です」

「もう、気にかけなくてもいいのよ」

「そんなっ・・・」

「実はね・・・事故からしばらく経って、息子の携帯が何とか見れるようになってね。当時の息子のいろんな事がわかったの」

「いろんな・・・事ですか?」

「実はね・・・息子は学校でいじめに遭ってたみたいなの」

「え・・・・?」

急な話の内容に俺はうまく言葉が出なかった。

少し間沈黙が続き、小さな鼻を啜る音が聞こえた。母親は、大きなため息を吐いた後、俺の顔を見つめる。

「携帯には酷い言葉が連ねてあってね、急いで家に帰って息子の部屋を色々見てみたら、落書きをされたノートを見つけていじめが事実だとわかったの。

学校に調べるように掛け合ったんだけど、息子が目覚めない限りはそれが息子に対しての物なのかわからないと言われてしまって、結局は本当の事はわからないままなの。あの日も・・・何故、息子があそこをあの時間帯に歩いていたのか疑問だったのだけど、仕事にかまけてちゃんと息子を見てやってなかった私に相談もできなくて、1人悩んでいたのかと思うと申し訳なくて・・・それに、今ではあの事故は本当に事故だったのかもわからなくなってしまったの」

涙を流しながらそう話す母親に、俺はなんと声を掛ければいいのかわからず、黙ったまま話を聞き続けた。

「あなたはちゃんと罰を受けた。もしかしたら、受けなくてもいい罰だったかもしれない」

「それはっ!・・・それは、違います。俺がきちんと確認してれば、起こらなかったんです」

「・・・・何もかも息子が起きてくれないとわからないわね。でも、一番罰を受けなくてはいけないのは私かもしれないわ。息子と向き合っていなかった私、あなたに受けなくても良かったかもしれない罰をずっと受けさせている私が、一番罪を償わないといけないのかもしれないわね」

そう言いながら、母親は泣き続けた。

俺はふと瞬太が気になり、横へ視線を向けるとそこに瞬太の姿はなかった。

その事が、何故か俺の胸を騒ぎ立てる。

そして、俺は意を決して母親に彼に合わせてくれないかと頼むと、母親はぜひ、会ってやってくださいと涙を流しながら微笑んだ。


自分の母に支えてもらいながら、彼の病室へと向かう。

心臓はずっと鳴りっぱなしだ。

あの日から一度も会っていない彼の姿を、今は思い出す事もできない。

だが、彼の母親の話、瞬太の話、瞬太が消えた事、全てが繋がっているような気がして、鼓動が激しくなる。

そして、彼の病室の前に着く。

容態が安定してからは、大部屋に移ったと聞いていた。

彼は6年近くもただ眠るように目を閉じ続けている。

先に入った母親の後を追うように病室へと入る。

奥の大きな窓のそばが彼のベットだ。

激しい鼓動、震える足・・・そうであって欲しい自分と、違って欲しいと願う自分がせめぎ合う。

そして、母親がゆっくりとカーテンを引いた。

そこには瞬太の姿と、寝ている瞬太の姿があった・・・。

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