第12話 告白

リズムを取る機械音の音が耳に入り、目を開ける。

デジャブのような光景に、俺は自分がまた病院へ運ばれたのだと知る。

強烈な体のだるさに起き上がる事ができず、あの意識を無くす前に現れた瞬太の姿を目だけで探す。

すると、兄ややっさんの後ろから俺の名を呼ぶ声が聞こえて、視線を向ける。

あぁ・・・やっぱり泣いている・・・

指一本も動かせないだるさに、俺は何度か瞬きをして瞬太を呼ぶ。

それに気付いた瞬太が首を振る。

そして、ゆっくりと俺に背を向けた。

「い・・くな・・・」

精一杯振り絞った言葉は声にならず、溢れる吐息のような言葉だった。

それでも、何度も瞬太の名を呼ぶ。

いつの間にか頬を伝う冷たい雫を気にも止めず、俺は呼び続けた。

兄とやっさんが心配して、俺の名を呼んだり、ナースコールをしたりと騒ぎ立てるが、俺には届かない。

ただただ瞬太に行かないでくれと声にならない言葉を繰り返した。

そして、また、意識を手放した。


次に目覚めたのは、倒れてから二日目の早朝だった。

傍には長い事会っていない、少し痩せた母の姿があった。

泣きながら俺の名を呼び、頬に触れてくる母にごめんと謝りながらも、俺は瞬太の姿を探し続けていた。


その日の昼頃には体調が安定したが、念の為、もう一日入院する事になった俺はベットの上でぼんやりと天井を見つめていた。

ずっと付きっきりでいるわけにいかない兄とやっさんは、俺の回復に安堵して仕事へ行った。

母は俺のアパートから着替えを取ってくると言って部屋を出ていった。

1人残された部屋には、瞬太の姿はない。

諦めにも似たため息が出る。

「瞬太・・・帰ってきてくれよ・・・」

小さくそう呟いて俺は目を閉じる。

どのくらい経ったのか、そのまま寝てしまった俺の名を呼ぶ声が聞こえて目を開けた。

「瞬太・・・・」

そう言った瞬間、俺の頬を涙が伝う。

「建志さん・・・そばを離れて・・・約束を破ってごめんなさい」

「どこに行ってたんだよ・・・俺、そばにいて欲しいって言ったよな?」

「ごめんなさい・・・」

「瞬太・・・頼むよ・・・どこにも行かないでくれ・・・俺のそばにいてくれよ・・・」

懇願するように瞬太に言い放つ俺を見て、瞬太も泣きながら何度も頷く。

「うん・・・うん・・・ごめんなさい」

「なぁ・・・瞬太・・・俺、お前が好きみたいだ・・・」

「・・・・え?」

「お前が好きだ・・・だから、どこにも行くな。行くなら俺も連れて行け」

「・・・出来ないよ・・・」

「じゃあ、ここにいろ。俺に取り憑いてもいいから、ここに、俺のそばにいろ」

俺はそう言いながら瞬太を捕まえたくて、触れたくて手を伸ばす。

だが、手は瞬太の体を通り抜け、ベットへと落ちる。

「奇跡が起きねぇかな・・・ドラマや漫画みたいにさ・・・本当は瞬太は生きてて、俺と幸せに生きる・・・そんな奇跡、起きねぇかな・・・お前に触れたい。お前と生きたい。それがダメなら、お前のそばに行きたい・・・」

俺は触れる事のできない瞬太の手を、何度も触れているかのように摩る。

そして、長い時間泣き続けた。

瞬太もまた黙ったまま静かに泣き続けた。俺と同じように手に触れてるかのように、繋いでるかのように手を重ねたまま、泣き続けた。


いつの間にか俺の横で寝そべる瞬太に、俺は体を向けて手に触れる。

「瞬太、お前が幽霊でも構わない。ずっとこうしてお前といたい。瞬太、好きだ。お前の事を心から愛おしいと思ってる。だから、そばにいてくれ」

真っ直ぐに瞬太を見つめながら、俺はそう囁く。

瞬太も真っ直ぐに俺を見つめ返してくれる。そして、ゆっくりと口を開く。

「僕も建志さんが好きです。でも、このまま側にいていいのか、わからないんです。側にいても建志さんを悲しませるんじゃないかと、苦しませてしまうんじゃ無いかと不安になるんです」

「不安かどうかは俺が決める。だから、お前は俺のそばにいろ。触れる事が出来なくても、俺はお前の笑顔を見ていたい。お前がそばにいない事が逆に悲しくて苦しいんだ」

「建志さん・・・・」

「瞬太、好きだ」

俺は瞬太の頬をなぞり、重なる事ない唇にそっとキスをした。


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