第11話 雫と重なる鼓動の音

あっという間に二連休が終わり、俺は夜勤勤務へと突入した。

夜勤勤務は手当がいいのが一番の希望理由だが、夜に電気を使わなくてすむと言うのも理由の一つだった。

少しでも節約して、その浮いた分も送りたかったからだ。

だが、今は瞬太がいる。

寝るだけの部屋にテレビなども無い。暗闇に1人残すのは気が引けて、俺がいなくても明かりをつけていいと瞬太に伝えたが、幽霊は本来夜に出回るものだと返し、久しぶりに夜の街を徘徊すると言い、俺と一緒に部屋を出た。

どこに行くとかではなく、本当にフラフラと徘徊しているようで、今日はどこに行って何があったなどと帰宅した俺に報告してくる。

楽しかった事、驚いた事、幽霊の知り合いができたなど、その日あった事を全部話してくれる。

俺は体は疲れているものの、瞬太の話を聞くのが楽しくて相槌を打ちながら眠りにつくまで聞いていた。

ただ、一つだけ・・・俺と一緒でクリスマスが嫌いだと呟いていたのが、心に引っかかっていた。

クリスマスまであと一週間だ。

街は輪をかけて賑やかになる。それと同時に兄からの連絡の数も多くなっていた。

幸いやっさんが、ずっと一緒の勤務先に出てくれているおかげか、兄も少しは安心してくれているようだった。きっと、やっさんとも連絡を取っているのだろう。

いつもだったら、周りが心配しているようにこの時期は、あの日が近づく時は自分でもわかるくらい気持ちが落ちている。

だが、不思議と今年はそんな気配がない。それも、きっと瞬太のおかげだと俺は思っている。

どんなに体がきつくても、コロコロと表情を変えながら話す瞬太を見ていると、心が穏やかになる。

あまりにも心地よくて、瞬太のそばで、瞬太の声を子守唄にいつしか眠りについていた。

だが、瞬太はどうだろうか・・・・不安になっていないだろうか・・・そんな思いが仕事中も頭の中を駆け巡る。

そんな日が続くと、俺の中の雫の正体と、それと重なる鼓動が何を意味しているのか段々とわかってくる気がしていた。

その意味が俺には運命のように、そうなるのが当たり前だったかのように心に染みていった。


「建志、明日は休め」

工事の休憩中、やっさんが俺にそう話しかけてきた。

毎年、あの日の前になると、やっさんはこうして休めと言ってくる。

いつもだったら大丈夫だと突っぱねる俺だったが、今はありがたかった。

明日はクリスマス・・・瞬太のそばにいてやりたかった。

いや、俺がそばにいたかったからだ。

俺は二つ返事をやっさんに返すと、やっさんは一瞬驚いた顔をしていたが、すぐにニコリと笑って、俺の肩を叩いた。

その時、後ろで大きな音が鳴り、その音の方へ視線を向けると、鼓動が大きく跳ねる。

目の前には曲がり損ねたのか、バイクと一緒に人が倒れている。

身体中が熱くなり、ドクンドクンと大きく跳ねる心臓が胸を締め付ける。

バイクのそばに駆けつける人だかり、隣でやっさんが何かを叫んでいるが俺には何を言っているのかわからない。

ただ、大きくなる鼓動の音と強張る体、目が離せなくなった視線の先の光景。

そして、しばらくして鳴り響く救急車のサイレンが俺の息を上らせる。

やっさんが、俺の背中を摩りながら誰かに何かを言っているが、俺にはもう何も聞こえない。

その場にうずくまり、息を荒げるが、視線は張付けられたかのように外らせない。

視界が歪む中、何故か目の前に瞬太の姿が見えた。

聞こえないと思っていた無音の中、瞬太の俺の名前を呼ぶ声だけが聞こえる。

俺は少しでも瞬太に触れたくて手を差し伸べるが、俺の手は瞬太が伸ばした手をすり抜け、体ごと地面に崩れ落ちた。

遠のく意識の中でも、ただただ瞬太の声だけが頭の中にこだましていた。

大丈夫だから・・・すぐ良くなるから・・・泣くな・・・

心の中でそう瞬太へ言いながら俺は意識を無くした・・・。

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