第九章

不機嫌エリ

「あーらこれはこれは、国王陛下じゃありませんかー」

「…………」

 

 狩り部隊の詰所……というか、犬猫たちの住んでいる家の前に、エリと犬猫狩り部隊が揃っていた。

 モザドゥーク……最近いないと思ったら、お前エリとお揃いの首輪してるよ。完全にエリのパートナーじゃん。まあいいけど。

 さて、これから狩りに行くのか、全員が戦闘形態だ。


「よ、ようエリ。これから狩りだよな」

「見ればわかるでしょ」


 犬猫たちは、ドワーフたちが防具にと作った皮の鎧を装備している。そして犬は魔獣の骨で作った口輪を装備していた。これ、口に装備すると口の開閉で開くようになり、口輪に装備された牙で攻撃するんだよな。

 猫たちは、着脱式の『爪』を装備している。動きの邪魔にならないよう右前足だけで、足を動かすと装備されるようになっていた……すげえ。

 エリも、魔獣の外殻で作った鎧に、メイン武器である足にはグリーブを装備している。さらに弓も背負っている……この弓、ミュウのやつじゃん。ああ、ミュウが本格的に店をやるようになって狩りに行けなくなったから、代わりに使ってるのか。

 犬猫合わせて三十匹の混合部隊。それを率いるエリ……なんかカッコいい。ちなみに犬猫たちは交代で狩りをしており、他の犬猫たちは休んでいる。


「で……奥さんと散歩してるんだ」

「いや、奥さんというか……婚約者というか」

「これから狩り行くの。悪いけどもういい?」


 実は……一か月ほど、エリは不機嫌だった。

 なんかツンツンしてる。喧嘩とかしたわけじゃないんだけどな。

 すると、藍音が言う。


「なんか感じ悪いわね。慧、なんか悪いことした?」

「いや、とくには……」

「じゃあエリが勝手に怒ってんの?」

「……うーん」

「……決めた。やっぱ慧は狩りなしで。あたしがエリと行く」

「え。俺は?」

「その辺ブラブラしてたら? じゃ」

「ちょ」


 藍音は俺の肩をポンと叩き、エリの元へ。

 それからエリに「一緒に行くから」と言うと、エリは渋々頷いた。

 そして、俺に何か言うことなく、犬猫たちはみんな村の外へ……え、マジで。


「……今日も俺、散歩だけか。よし、マオとルナと一緒に遊ぶかな!!」


 こうなったら遊んでやる!! スローライフ満喫だスローライフ!!


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 エリの仕事は、犬猫たちに魔獣を捜索させ、魔獣を見つけたら集まって一斉に狩るという手法だ。

 全員で狩ればレベルも均等に上がる。現在エリのレベルは14まで上がっていた。

 犬猫たちは平均で60まで上がったが、動物たちは誰もエリを下に見なかったし、狩り部隊の隊長として尊敬している。

 エリも、現地人ではすでに最強レベルだが、やはり魔族や魔獣、異世界の召喚者と比べたら低い。

 そして、今日は同行者……ガイアルーン王国の勇者、藍音がいた。

 魔獣を狩り終え、犬猫たちに解体を任せている間、二人は話をする。


「あのさ、エリ……なんで慧に辛く当たってんの?」

「…………」


 絶対に、言われると思っていた。

 

「……わかんない」

「それ、あたし関係ある?」

「……ある、かも」

「あんた、最初に慧と一緒にここに来たんだもんね……後から来たあたしが婚約者とか、面白くないよね」

「…………」


 図星だった。

 好きとか嫌いとかはまだわからない。だが……隣を取られたような、妙な気持ちでいっぱいだった。

 だから、辛く当たってしまう。

 レベル14という、二桁レベルに上がっても全く嬉しくなかった。


「あたしさ、成り行きの婚約者だけど……まあ、あいつなら結婚してもいいかなって思ってる」

「…………」

「優華……あたしの友達もさ、ガイアルーン王国で宰相やってるんだけど、そこの王様が同い年で、二年くらい前に即位したんだけど……まあ頼りなくてねえ。優華がアレコレ世話してるうちに、いつの間にか恋仲になってたのよ。優華も、気付いたら好きになってたとかノロけるし」

「…………」

「まあ、恋とか好きとかまだわかんないけど、慧って強いんだか弱いんだかわかんないし、いてもいなくてもいいようなヤツだし、やる気あるんだかないんだかわかんないけど……なんかさ、放って置けないというか、一緒に馬鹿やってもいいかなーって思うヤツなのよね」

「…………」

「だから、とりあえず婚約者。それで、一緒にここで暮らして、好きになったらいいかなって思ったの」

「…………」

「エリ、あんたは? あんたも同じなんじゃない?」

「…………」


 エリは何も言わないが、口を尖らせ、認めたくないような表情だ。

 同じなのだ。エリも、藍音も。

 まだ好きじゃない。好き未満でもない。

 一緒にいれば楽しい。そこからもしかしたら、何かが芽生えかもしれない。


「エリ、あんたも一緒に楽しもうよ。それであいつのこと好きになれば、一緒に結婚しちゃえばいいじゃん」

「い、一緒?」

「うん。あいつ国王だし、側室とかアリっしょ?」

「…………」


 慧がいれば『異世界あるある……側室とかいつの時代だよ』とか言いそうである。

 エリは顔を赤く染め、大きく息を吐いた。


「ま、いいや」

「え?」

「ごめんアイネ。アタシさ、ケイに謝る。で……今夜はさ、みんなでご飯食べよっか」

「うん!!」


 エリが立ち上がり藍音に手を差し出すと、藍音はその手をパシッと叩く。


「いった!? な、なにすんの!?」

「え? ハイタッチじゃないの?」

「違うし!! 全くもう……」


 エリと藍音は顔を見合わせ、思い切り笑うのだった。

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