そのころ、勇者と悪女神たち①
エイルーンから少し離れた森の中。
そこにテントを張り、夢見レイナ、相川セイラ、鎧塚金治、そしてラーズハートこと悪女神フォルトゥーナは野営をしていた。
だが……ラーズハート、夢見レイナを除き、二人はこれまでになく落ち込んでいる。
理由は、テントの奥に布で包まれている、黒鉄レオンの『下半身』だ。
「…………どうする」
鎧塚金治が絞り出すように言う。
そして、相川セイラ。
「なにが……」
「決まってんだろ……これからどうするんだよ」
「……終わりじゃん」
セイラは、どこかやけくそのように笑った。
「有馬の一件で、ガイアルーン王国がアタシらを『逆賊勇者一行』とか認定してさ、ガイアルーン王国じゃ悪人そのもの……しかも、アグニルーン、エイルーンにも通達したようで、完全な犯罪者扱い。当然、ファルーン王国には戻れないし……有馬んとこ行くわけにもいかない」
「…………」
「あはは……異世界なのに、どこにも居場所ないわ」
「みんな、ごはんだよー」
すると、夢見レイナがビーフシチューを作って皿に盛る。
そして、当然のように黒鉄レオンの下半身の前にも皿を置いた。
相川セイラは、ビーフシチューを見る。
「……うっ」
そして、思い切り吐いた。
肉を見ると、目の前で爆死したレオンがフラッシュバックした。
鎧塚も、真っ青になりながら震える手でスプーンを掴む。
だが、夢見レイナは気にせずモグモグ食べていた。
「もう、ちゃんと食べないとダメだよ?」
「……レイナ。あんた、マジで大丈夫なの」
「なにが?」
「だって……レオンくん、死んで」
「死んでない!!」
咀嚼中に口を開けたせいか、肉が飛び散りセイラの顔にかかる。それを見たセイラは再び吐き、鎧塚も耐え切れなくなったのか嘔吐した。
もう、どうしようもないくらい、黒鉄レオン一行は終わっていた。
ラーズハートは、この狂いそうになっている三人と下半身を見て思う。
(このまま狂って壊れるのを見ても面白いけど……まだまだ面白くなりそうなのよねぇ。もう一か月くらい経過したし、お姉様たちも順調に強くなっている。遭遇したら殺されそうだし、そろそろ次の段階に進めちゃおうかしら)
シチューを完食したラーズハートは、三人に言う。
「レイナ。セイラ、キンジ……黒鉄レオンを復活させることができると言ったら、信じますか?」
「「!!」」
「当然。というか、真の勇者様は死なないですよ、ラーズハート様」
驚くセイラ、金治。
そしてレオンの復活を確信しているレイナ。
ラーズハートは言う。
「魔王四天王『天使』アルミサエル……彼女なら、死した人間を蘇らせることが可能です」
「ま、魔王四天王……ま、マジ?」
「お、おいそれって……まさか、オレら」
「決まり!! 行こう!!」
レイナは最後まで聞いていないのに、食器の片付けを始めた。
ラーズハートは頷く。
「黒鉄レオンのために、人間を裏切る。つまり……魔王軍に行くしかないということです」
「「……」」
「迷うことないね。じゃ、行こう!!」
完全な『悪』に染まるしかないということだ。
逆賊。そう言われても否定してきたが、もうそれもできない。
「よ、鎧塚……」
「……もう、それしかねぇかもな」
「ま、マジで言ってる?」
「仕方ねぇだろうが!! ろくに町にも入れねぇ、買い物もできねえ、こんなホームレスみたいな生活しかできねえ!! オレ……家に帰りてぇよ」
「……」
「……もう、なんでもいい。ってかよく考えてみろよ。オレら勝手に召喚されて、お国のために戦えとか……そんなのもう気にする必要ねぇだろ。この国がどうなろうと、オレら関係ねえよ。だったら、魔王に世界を支配してもらおうぜ」
「……最悪。でも、それしかないのかも」
相川セイラ、鎧塚金治は、受け入れた。
そして、旅の支度を終えたレイナは、黒鉄レオンの下半身をぎゅっと抱きしめる。
「レオンくん。真なる勇者様……待っててね、すぐに起こしてあげる」
こうして、夢見レイナ、相川セイラ、鎧塚金治。そしてラーズハートの四人……と、黒鉄レオンの下半身は、魔王軍を目指して旅立った。
全てラーズハートの思いのままなのだが、誰一人として気づかないままで。
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