第八章

ガイアルーン王国の勇者たちがやって来た①

 早朝。マオのネコミミが俺の顎に当たり、ふわふわして気持ちいい。

 目を覚ますと、マオが俺に抱きついていた……いつものことだが、幼女と寝るのはアウト? セーフ? でも潜り込んでくるなら仕方ないよね。


「にゃあ……」

「ん~……マオ、朝だぞ」

「にゃうう」


 とりあえず起きる。

 着替え、マオと一緒に一階へ……すると、猫のチェリッシュが朝食を用意してくれた。


『おはようございますご主人様。朝食ができましたよん』

「ああ、ありがとな、チェリッシュ」


 チェリッシュ。高貴でシュッとした白猫だ。猫の中でも一、二を争うほどの料理上手。最近はチェリッシュがメインで朝飯を作ってくれる……猫の肉球でどうやってパンとか焼いてるのか知らんけど。

 猫毛が混入していることもないし不思議だ。


「にゃあ、ねこー」

『こらこら。おさわりはダメよん。ささ、座って』


 チェリッシュを触ろうとするマオ。俺はマオを抱っこして椅子に座らせ、朝食を食べる。

 相変わらず美味い。スープの絶妙な塩加減といい、俺好みだ。

 朝食を終えると、紅茶で一服……はあ、この時間が心地いい。

 一つ不満があるとすれば……スマホをいじれないこと。

 これ、現代人にとってかなり深刻な問題……異世界あるある、いきなり転移してスマホ使えなくなったらかなりショックだよね。ソシャゲとかネット情報とか見れないし。現代っ子がいきなり異世界転移するのはいいが、世界に順応しすぎってのもご都合主義だよな。


「ご主人さま。今日は何するの?」


 マオが聞く。

 すでに食事を終えたようで、遊びに行きたいようだ。

 家の外に出て、近くのベンチに座る。


「そうだなー……エリもミュウも狩りに出かけちまったし、住人たちはみんな仕事で忙しいし」


 ハーフの子供たちはいるが……みんな仕事してるんだよな。

 奴隷商人のデップリッチさんの子供たち、みんな奴隷商館で勉強していたのか品があるし、みんな『技術や知識を得たい』って言ってドワーフの鍛冶や建築を学んだり、金華さんのところで仕事の手伝いなんかもしている。


 異世界あるあるの奴隷商館では、不衛生な小屋にボロを着せられ、栄養失調っぽい奴隷たちが床に転がって『こいつらは使えない奴隷でして……』って商人が言い、主人公が「こいつは……!」ってとんでもない可能性秘めた奴隷を格安で手に入れる展開がよく浮かぶ。

 でも、実際は違う。奴隷は商品なのだ。商品である以上、見てくれはもちろん、健康状態やある程度の知識なんかも大事になる。以前、デップリッチさんに俺の思ったことを話したら『そんな奴隷商人なんて存在しませんよ』と笑われた。

 

 というわけで、奴隷だった子供たちはみんな向上心の塊。

 男の子も女の子もみんな、知識や技術を一生懸命身に付けようと努力しているので、広場でボール遊びとか鬼ごっこやってる子なんていない。

 つまり……マオの遊び相手がいない。

 俺ばかり相手にしてたんじゃ、なんか可哀想だな。


『にゃあん』

「ん……なんだクロか。久しぶりだな」


 いつの間にか、足元に黒猫……クロがいた。

 俺の足に身体を擦り付ける姿は猫にしか見えない。いや猫だが。


『ケイ、悩み事?』

「……シロもだけど、お前たちって俺が微妙に悩んでる時によく来るよな」

『ウフフ。褒めないでよ、照れちゃうわ』

「……まあいいけど」

「ねこー」


 マオがクロを抱っこして撫で始める。

 俺は、マオの遊び相手について話をした。


『それなら、猫又を召喚したら? その子、マオと仲良しの子よ』

「猫又……そういや猫召喚でいたな」


 ◇◇◇◇◇◇

 〇猫召喚

 ・猫又・金華猫・猫娘

 ・猫将軍・ケットシー・天仙猫猫

 ◇◇◇◇◇◇


 スキルをセットして確認……あった。

 猫又。猫又って妖怪だよな……猫娘もある意味では妖怪だけど。

 マオを見ると、首を傾げている。


「マオ。猫又って知ってるか?」

「にゃあ。しってる」

「じゃあ、これから呼ぶぞ。一緒に遊ぶといい……召喚、猫又!!」


 俺の足元に黒い魔法陣が展開……そして、マオと同じくらいの少女が現れた。

 

「……ふにゃ。なに」


 か、かわいい。

 セミロングの黒髪。黒いネコミミ、黒い尻尾だ。あれ……よく見ると尻尾は二本ある。

 着ている服は着物で、マオと色違いだ。なんか俺を見る目が少し冷たい。


『その子、気分屋であまり懐かないから、頑張ってね~』

「あ、クロ……行っちまった」

「にゃあ。ねこまた」

「ねこ娘……あなた、ご主人?」

「あ、ああ。初めまして……猫又」

「……ん」


 なんかツンツンしている。そんな姿も可愛いけど、どうすっかな。


「にゃあ。ご主人さま、ねこまたにも名前あげてー」

「名前?」

「ふみゃ……名前、くれるの?」

「にゃう。わたしはマオなの。ふふん」

「む……ご主人、名前ちょうだい」

「あ、ああ。そうだな……クロ、はもう付けたし、タマ……は安直すぎる。異世界あるあるではカッコいい名前つけるんだが、俺にそんなこと求められてもな……そもそも女の子だし」


 黒いの……ノワール、ゴマ、コーラ、ブラックウィドー、ベンタブラック、海苔、ヒジキ、ブラックペッパー、ダークナイト、黒猫……ヤマトいや駄目だ。おはぎ……なんか変なのしか思いつかん。

 悩んでいると、猫又がジーっと見てくる……うーん。

 

「よし。じゃあ……ルナっていうのはどうだ?」

「ルナ?」

「ああ。似合ってるぞ」


 昭和世代のアニメで、そんな猫いた気がする。月に代わってお仕置きする系のアニメで。

 猫又は「ルナ、ルナ……」と何度も呟き、嬉しそうにネコミミをピコピコ動かし、二本ある尻尾もゆらゆら揺れていた。


「にゃあ。ルナ!! いい名前ー」

「ふにゃ……うん」

「ルナ、遊びに行こっ!!」

「……まあ、いいけど」


 マオはルナの手を引き、走り出した。

 うんうん。子猫同士、仲良くできるといいな……って、マオいなくなったら俺一人じゃん!!

 

 ◇◇◇◇◇◇


 さて、一人でのんびり散歩している時だった。


『ご主人様!! お客様ですー!!』

「おお、ハヤテ。って……お客様?」

『はい!! 人間が四人です!!』

「…………」


 なんかヤな予感……うーん、まさかまた勇者じゃないだろうな。

 そう思った時だった。

 突如、村の入口で爆破音みたいなのが聞こえてきた。


「な……何だ!?」

『あわわわわっ!! ば、爆破音ですー!!』

「……あんま行きたくないが行くしかないか。ハヤテ、金華さん……なんかもう金華さんなら対策してる気もするけど。とりあえず行ってくれ!!」

『は、はい!!』


 ハヤテはダッシュで消えた。

 さて、俺の嫌な予感……この世界に来て、あんまり外れたことないんだよなあ。

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