今日こそは

 さ、さて……今日こそ、村のために何かをしよう。

 相変わらず、俺は朝起きて、メシ食って、マオと手を繋いで村をぶらぶらしている。なるつもりなんて欠片もないが「王」としてどうなの、って感じ。

 

「にゃあ。ご主人さま、今日は何してあそぶの?」

「今日は、村のために何かできることをする。マオ……何か思いつかないか?」

「にゃうー……おかし食べたい」

「お菓子か……」


 甘味は大事だよな。

 フォルテが物資を運んで来るが、中にはお菓子や酒などの趣向品もある。

 まだ貨幣が流通していないので、金華さんの指示でミュウの店の倉庫に保管してあり、配給として店で配っている。

 その手伝いもしようと思ったが、猫や犬たちがいるから俺の出番ないんだよな。

 ミュウにも手伝いたいって言ったら。


「んふふ。旦那様は来たるべき日には大いに役立ってもらうから!! お世継ぎとか~……きゃっ」


 なんだ「きゃっ」って。そりゃ男だし、ソッチには興味津々だけどな!!

 まあ、この歳でパパになるつもりはない。快楽だけを味わう……いや最低だな。襲われたら抵抗できないかもしれないが……いやいや、そんな馬鹿な!!


「にゃあ。ご主人さま?」

「な、なんでもない!!」


 無垢なネコ少女に見つめられ罪悪感……俺、汚れてる。

 異世界あるある……ハーレムチート系主人公は性に貪欲な場合と、最終話で子供いっぱい囲まれて経緯をボヤかす場合がある……俺、ハーレムチートなんて望んでないけどね!!

 ああもう、思考がすぐ変な方に行っちまう。


「えーと……住居は建築の真っ最中、食料も……狩り部隊が頑張ってる。畑……も、スケルトン族が頑張ってるし、インフラ関係も金華さんの指示で動いてる」

 

 こうして散歩している今も、金槌の音や木を切る音など聞こえてくる。

 よく見ると、村の通りには柵が設けられているし、花壇とかもある。

 村の中を流れる川には立派な橋まで架けられているし……『チートで開拓!!』が全くできねえ。

 ってか、俺が何かしたら『余計なこと』になりそうだ。

 マジで俺いらねえんじゃ……と、思っている時だった。


『ご主人様!! 金華様がお呼びですー!!』

「おお、ハヤテ」


 連絡係となった俊足のハヤテが呼びに来た。

 マオはさっそくハヤテを撫でる。


『なんでも、ご主人様に相談あるみたいです。中央政府にいらっしゃいますんでお願いします!!』

「ああ、すぐ行くよ」

「あ、にゃんこー」


 要件を伝えると、ハヤテはダッシュで消えた……早い。

 さて、なんの用事だろうか……行ってみるか。


 ◇◇◇◇◇◇


「お疲れ様です。ご主人様」

「あ、ああどうも」


 書類の山に埋もれた金華さん……すげえな、なんの書類だ?

 手が高速で動いてる。何書いてるのかな。

 犬用の机にはサモエドのマイケル。書類を確認し、丁寧に重ねている。


「街道の拡張工事を始めます。周囲の地形を確認したところ、ここから少し離れた場所にも廃村がありまして……そこの整備に取りかかります」

「あ、はい」

「ご主人様にお願いしたいことがありまして……実は、ここから少し離れた場所に湖があります。現在、そちらの湖が汚染されていまして、ラプラス族の方々が絶滅の危機に瀕しています。今後、交流を図るためにもぜひ、ご主人様のお力で湖の浄化をお願い致します」

「あ、はい」

「にゃあ。きんちゃん、わたしも一緒に行っていい?」

「ええもちろん。護衛には天仙猫猫とケルベロスをお連れください」

「あ、はい」


 やっと役目が……と、いろいろ聞きたいことがある。


「あの、ラプラス族って?」

「水の大精霊『ピュアラプラ・リプス』の寵愛を受けた種族です。こちらの世界では八王種族という強大な力を持つ種族ですが、今は精霊の加護が失われかけ、絶滅の危機にあるそうです」

「そ、そうなんですか……あの、なんでそんなことを知って」

「私の『火車』をシャオルーン領地一帯に放ちました。そちらから上がってくるシャオルーン領地の状況などをまとめています」


 なんとこの書類の山、現在のシャオルーン領地がどういう状況なのかをメモっているようだ。他にも建国に関するアレコレとか……まあいいや。

 とりあえず、やっと出番ができた。


「そのラプラス族とかいうのを助けに行けばいいんだね」

「はい。確認ですが……ご主人様は水中で呼吸は可能ですか?」


 なんじゃそりゃ。

 俺を何だと思ってるんだ……思わずジト目で見ちゃったぞ。


「ラプラス族の住処は水中です。陸上でも活動可能ですが、真価は水中で発揮されます。水中に引き込まれた場合の対策を」

「…………」


 俺の『昆虫アーマー』って水中呼吸……無理だな。

 とりあえず、友好的な感じで接して、ラプラス族にコンタクト取るか。

 今の俺なら『ラプラス族』のスキル……というか『特性』をコピーできる。たぶんだけど、水中呼吸できるようなスキルもあるだろ。


「ここから湖までどれくらいある?」

「徒歩で半日程度ですね」

「意外と近いな……よし、久しぶりにモザドゥークに乗っていくか」


 久しぶりの外出だ。せっかくだし、エリとミュウに声かけてみようかな。


 ◇◇◇◇◇◇


「お、いいわね!! モザちゃんと最近お散歩してなかったし、行こうかな」

「行く行く!! 湖でピクニック!!」


 エリ、ミュウは行くそうだ……言っておくが、ピクニックじゃない。

 モザドゥーク。あのデカい犬、最近見ないと思ったら、いつの間にかエリの部下……というか、騎乗動物になっていた。

 そういや召喚してそのまんまのヤツけっこういるな。アースタイタンとか今どこで何してんだ? 召喚した以上俺も責任持たなきゃな……あ、ライラプスも忘れてた。


「にゃあ。ご主人さまとおでかけー」

「ん~マオちゃんは相変わらず可愛い!! にゃんこにゃんこー!!」

「にゃううー」

「あ、エリずるい!! アタシも撫でる~!!」


 エリとミュウがマオを抱きしめ頬ずりするのを尻目に、俺はラプラス族のことを考えるのだった。

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