村の現状~悩む主人公~

「ふ、ぁぁぁ~……ん」


 早朝。

 ベッドから起き、窓を開けると日が差し込んでくる。

 昨夜は少しだけ雨が降った。今は朝日がまぶしく、朝露に濡れた庭木がキラキラ輝いている。

 シャオルーンの朝は暖かく、風は心地よい……なにこれ、マジ平和。


「はあ、朝はいいな……甘いカフェオレ飲みたい。コーヒー豆ないけど」


 異世界あるある……コーヒーはあるかないか、この世界にはない!!

 タンポポで代用しよう!! っていうかタンポポもねえし、あっても都合よく作り方なんて知らねえし。というわけで、飲むのはオレンジっぽい果汁を絞ったジュースだ。

 冷蔵庫もないので、水を張った桶に浸してある瓶を取り出す。ちなみにこの世界、瓶はある。


「にゃうー」

「お、マオも起きたか。飲むか?」

「のむー」


 コップにオレンジもどきジュースを注いで飲んでいると、もう俺のベッドで寝るのが当たり前になったマオが起きた。コップに入れて渡すとチビチビ飲み始める。

 再び窓から外を見ると……ん?


「主、おはようございます」

「おはようございます。わが主」

「あれ、ザレフェドーラさんに、ギルティアスさん……?」


 見回りでもしているのか、ドラゴニュート族のザレフェドーラさんと、蟲族のギルティアスさんが並んで歩いていた。

 よく見ると二人ともボロボロだ。


「あの、何かあったんですか?」

「いえ。ザレフェドーラ殿と軽く手合わせを」

「ギルティアス殿は蟲族でもかなりの強者。我にとって最高の相手ですな」

「ははは、褒めすぎですぞザレフェドーラ殿」


 仲良しじゃん。

 ドラゴニュート族の戦士ザレフェドーラさん、そしてコーカサスオオカブト種のギルティアスさん……この二人が摸擬戦するとなると、かなりの戦いになるだろう。

 すると、村の中を受肉したスケルトン族やドワーフたちが歩きだすようになった。それに犬猫たちも……ああ、もう仕事始まるのか。


「俺も起きるか……さて、今日は何をしようか」


 一階に降りると、テーブルに朝食が並んでいた。

 数は二つ。俺とマオ用だ。

 マオを子供椅子に座らせ俺も座り、二人で食べ始める。


「いただきます」

「にゃあ」


 さて、そろそろ俺の新しい生活について語らせてもらおうか。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺が考案した『二重構造壁』は、蟲族の皆さんに大変好評だった。

 村の一角を『蟲族区画』として整備し、二重構造壁の家を建築。そこに蟲族の皆さんを住まわせた。

 二重構造壁が好評だったので、俺の家も建て直した。

 今では三階建ての二重構造壁の家。部屋数も増えた。

 住んでいるのは俺、マオ、天仙猫猫に金華さん、ケルベロス。

 最初はエリも住むのかと思ったが。


「いやー……さすがに結婚してない男女が一緒に住んじゃまずいでしょ」


 ごもっとも。

 異世界あるある……こういう時、ヒロインは同居を迫る展開にはならなかった。

 まあマオとかケルベロスは男女というか『召喚獣』扱いだし……いいのかどうかわからんけど。

 それに、新しい家になったが天仙猫猫は部屋にいないことが多い。金華さんも事務仕事で事務仕事用の家にいるし、ケルベロスはいるんだけど護衛なのであまり俺の前に出てこない。

 なので、実際はマオと二人暮らしみたいな生活だ。

 食事などは、猫たちが順番にしてくれる。今日の担当は猫のチェリッシュが作ってくれた。


「にゃあう。ご主人さま、考えごと?」

「いや、ちょっと脳内で経緯説明を」

「にゃ?」


 おっと、さすがにわからんか。

 とまあ、俺の家はこんな感じ。ちなみにエリは近くの家に、ミュウもたまに泊っているそうだ。

 食事を終えると、仕事が始まる。


「…………仕事ね」


 いやごめん、仕事って言いたかっただけ。

 ぶっちゃける。俺、仕事ない。

 

 ◇◇◇◇◇◇


「はあ……」

「ご主人さま、大丈夫?」

「あ、ああ」


 俺はマオと一緒に村を散歩していた。

 住む種族が増えたことで、金華さんが『新体制』を考えた。

 まずドラゴニュート族、蟲族の戦士たちによる『警備部隊』が発足。村の見回り、村の警備が主な仕事で、詰所となる大きな建物まで作った。


 そしてスケルトン族たちによる『農業』だ。

 畑の整備が主な仕事。夜に作業する姿はクソ怖いが、夜のが捗るということで好きにさせた。

 ドラゴニュート族、蟲族の女性たちも手伝っているようだ。


 そしてドワーフたちによる『鍛冶・建築』だ。

 そのまんま、家の建築や家具、鍛冶など行っている。

 ハーフの子供たち、戦士でないドラゴニュート族や蟲族の皆さんも手伝っている。


 そして犬猫たちによる『狩り部隊』だ。

 犬猫たちはドワーフの手伝いをしていたが、全て『狩り部隊』として組織した。

 犬猫一匹一匹のレベルは平均で8だ。人間より強いが、シャオルーンでは低い方に入る。

 でも、数を合わせれば合計で百匹。五匹ずつ、二十チームほどの混合部隊を作り、レベル上げをしつつ狩りをさせた。ここにはエリも加わり、いつの間にか『狩り部隊』の隊長となっている。

 俺がスキルで集めた犬猫たちは、レベルが上がる速度がすごい。今では平均レベルが15で、エリのレベルも7まで上がった。これにはエリも大喜びだ。

 毎日狩りで大量の肉を確保してくるが……シャオルーンの魔獣、全滅しないだろうな。


 そして、金華さんによる『シャオルーン政府』だ。

 シャオルーン領地の中枢……今では村の財政管理とか何やらやってるらしいが、詳しいことはわからない。ただの高校生である俺に政府の何たるかなんてわかるわけがない。

 まあ、物資の管理とかいずれ『建国』した時に必要になるなんたらかんたらを今のうちに……とか言ってた。建国……マジで国を作るのかな。

 サモエドのマイケルを助手に、金華さんの使い魔である『火車』の猫たちが忙しそうにしている。


 とまあ、村はこんな感じ。

 ただの廃村だったころが懐かしく感じるくらい、今は復興している。

 さて……ここで問題がひとつ。


「…………俺の仕事は?」


 ◇◇◇◇◇◇


 えー……俺、何もしてません。

 役割がない。なにかしたいと言ったら。


「ご主人様は『国王』なので、王として振舞ってください。それが仕事です」


 と、金華さんが眼鏡をクイッと上げて言う。

 いや、王……ってか、ニートみたいじゃん。

 

「……はあ、空が青い」

「にゃあ。ご主人さま、あそぼ」

「……うん」


 マオがフォルテからもらったボールを差し出してきたので受け取る。

 異世界あるある……こういう開拓系の主人公って、もっと忙しいモンじゃないの?

 なんで俺、厄介者みたいな気持ちなんだろ……もっと仕事したい!! いや俺高校生だけどこういう疎外感っぽいのなんかイヤだ!!


「ああ~……マオ、どうしよう」

「にゃうー、どうしたの?」

「いや……もっと仕事したいな、って」

「ふにゃ」


 マオに向かってボールを投げる俺……今はこれが仕事なのかな。

 いや駄目だ。開拓系主人公だったら、こんな怠惰は許されん!!


「よし、決めた!!」

「にゃ?」

「マオ。これから村のために何かしよう。せっかくスキルあるんだし、バンバン使ってやる!!」

「にゃあ!! ご主人さまと遊べるー!!」


 遊びじゃないけどね。

 とりあえず……もっと主人公らしいことやらないとな!!

 為朝……俺、頑張るから!!

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