第七章

そのころ、クラスメイトたち④

 命からがら逃げられた。

 魔王四天王『棺桶』のファルザーク。その居城前で暴れてアグニルーン王国の勇者を引きずり出そうとしたのだが……暴れる以前に、ただの守衛がレベル30オーバーだった。

 しかも、守衛の中で一番下っ端っぽいガリヒョロ守衛が、為朝の『張り手』を軽く弾き、でっぷりした為朝の腹に強力な蹴りを入れて吹っ飛ばした。

 しかもしかも……守衛の数は三十以上。クラス全員の平均レベルは25……勝ち目はゼロ。

 なので為朝は叫んだ。


「作戦中止、勇者二十五人衆『煙幕』の霧山ぁぁぁぁ!! 出番んんんん!!」

「お、おおお!!」


 スキル『煙術士』の霧山切彦が、お手製の『煙幕玉』を大量に投げて煙幕を張り、クラス一同と兵士たちは撤退……命からがら逃げることに成功した。

 そして、棺桶城(為朝命名)から数キロ離れた岩場で、為朝は殴られた腹をさする。


「い、痛ぁああああ……なにあれ何あれ、ガリヒョロ守衛がクソ強いいいいい!!」

「……なあ為朝。作戦大失敗ってことでいいんだよな」


 為朝の親友であり副官その二の木村が、息を切らしながら言う。

 幸いなことに、犠牲は出なかった。

 為朝が先陣を切ったおかげで、後方部隊が『鑑定』を使って守衛を、そして周囲の雑魚魔獣のレベルを測定し、その脅威を知ることができた。

 アリアが息を切らしながら言う。


「さすが、魔王四天王の精鋭……くそ!! アグニルーンの勇者は何もしないんじゃない、何もできないんだ……!! 守衛でされレベル30超えだと? 神話の世界じゃあるまいし……」


 悔しがるアリア。

 為朝は歯を食いしばる。そして、聞こえてくる周囲の声。


「おいおい、どーすんだよ」「あたしレベル22だけど……」

「ファルーン王国じゃ敵なしだけど……」「井の中の蛙って言うんだよな……」


 周囲から聞こえてくるのは、落胆の声。

 ファルーン王国の勇者。国内では敵なしだが、そのレベルがいかに低く、どうしようもないのかよくわかった。

 異世界召喚され、スキルを手にし、ファルーン王国の精鋭たちに鍛えてもらっても、四天王の守衛一人に勝てないレベルなのだ。

 なんとなく、木村は察していた。


「……オレさ、考えてたんだ。もしかしたらオレら異世界人って……現地人よりレベル上がりやすいだけで、別に特別でも何でもないって」

「木村っち……」

「為朝……やっぱこのままじゃまずいって。アグニルーン王国の勇者に頼るんじゃなくて、もっとオレらがレベル100超えるくらい強くならねーと」

「……木村っち。そんなモブにあるまじき正論を……」

「んだとてめえ」


 為朝は、心が折れかけているクラスメイトたちを見る。

 そして、自分の心も折れかけていることに気付いた。


「……うむ。そうかもしれん。異世界あるある……真の主人公には二種類いる。無自覚チート俺なんかやっちゃいました系、そして血反吐を吐く努力をして力を手にして無双する系……読者受けがいいのはやはり、血反吐系」

「おい為朝、日本語で頼むわ」

「木村っち!! よく言ってくれた。よし……アリアさん!!」

「ひゃっ!? な、なんだ?」


 いきなり声を掛けられ驚くアリア。

 そして為朝は全員に言う。


「みんな、聞いてほしい!! ワイの考えが甘かった……ワイらは『井の中の蛙』だった!! レベル平均25じゃ守衛にすら勝てない……」


 落ち込む為朝。クラスメイトたちも落ち込んでいる。


「でも!! ワイらには現地人にはない『成長速度』と、スキルがある!! ワイらはもっと成長して……強くならねば!! だから……ここからがハイライトだ!! じゃなくてスタートだ!!」

「「「「「…………」」」」」


 つまり、どういうことか?

 為朝は改めてアリアに向く。


「アリアさん。レベリングに最も適した場所を……教えてくだせえ!!」

「え?」

「あるでしょ? こう……ラスボス前に解禁されるダンジョンとか、序盤から存在するけど高レベル魔獣ばかりで踏み込んだらヤベー場所とか!!」

「……えっと」

「現地の人も近づかない魔境!! そこでレベルを上げたい!! いい場所プリーズ!!」

「……な、なんとなく理解した。レベル上げ……あることはあるが」

「おお、ナイス!!」

「……シャオルーンだ」

「え」


 アリアは言う。


「シャオルーン領地。あそこは、魔族ですら迂闊に近寄らない魔境と化している。情報規制されているから一部の人間しか知らんが……シャオルーン領地は、最強種と呼ばれている『八王種族』の六種族が住んでいる」

「なにそのカッコいい種族!! ん……待った。じゃあファルーン王国って、そんなヤベーところに慧くんを?」

「…………すまない」

「……マジか。でもまあ慧くんなら平気かな」

「え、あ、あっさりしてるな」


 責められると思ったアリアだが、為朝は全然心配していないようだ。


「それより、八王種族ってなに? ワイのワクワクに答えて欲しい!!」

「あ、ああ」


 エルフ族、龍人族、魔族、骸殻族、赤燐族、ラプラス族、ミスト族、仙族。

 八大精霊に愛された種族であり、五百種以上存在する種族の中で最も強い力を持つ。


「八王種族の中で最も活発に動いているのが魔族……魔王の種族だ。今では八王種族をまとめて『魔族』と呼んでいる。その魔族ですら手を出さないのが八王種族。シャオルーンにはそのうち六種族が住んでいると言われている」

「お、おお……すげえ!!」

「シャオルーンには水の大精霊『ピュアラプラ・リプス』の寵愛を賜ったラプラス族の隠れ里があると噂されている……シャオルーンに住む魔獣の魔獣の平均レベルは30以上、場所によっては50以上、噂では100オーバーの怪物も住まうとか……」

「そこ以外で!!」

「え……」

「いやそんな裏ダンジョン的なところはさすがにヤバイ。そーいうのは慧くんに任せる」

「あ、ああ……じゃあ」


 こうして、為朝たちは強くなるためにレベリングを開始することになった。

 まずは、平均レベル20ほどの魔獣が住まう、ファルーン王国屈指の危険地帯へ。

 そんな中、アリアは思った。


「タメトモ。これだけの大敗退をしていながら、自らの過ちを認め、仲間に謝罪……驚いたことに、仲間たちの誰も、タメトモを責めない……不思議な男だ」


 アリアの評価がぐんぐん上がっていることに、為朝は気付かないのだった。

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