二重構造壁

「だんねつざい、断……絶つ、熱、材は材料の材……断熱材、か」


 建築ドワーフのバルボンさんに二重構造壁についてそれっぽく説明すると、ウンウン頷いた。

 ちなみに今いるのはドワーフの建築事務所。

 ここで家の設計したり、休憩したり、隣にあるデカい鍛冶場で道具や家具を作っている。

 ちなみに、家や街道の設計はサモエドのマイケル担当だったが、マイケルは金華さんの助手として異動になったので、新たな設計犬としてチャウチャウのフワ太郎が役目を引き継いだ。

 フワ太郎は尻尾を揺らしながら愛くるしい顔で言う。


『なるほど。面白い発送ですな……二重構造壁ですか。確かにそれなら、冷気を通さない、熱を逃がさない家ができるでしょうなあ』


 おじいちゃんみたいな喋り方のフワ太郎……でもめちゃくちゃ可愛い。

 すでにマオが背後に回り、フワ太郎の頭を撫でまくってる。やばい俺も撫でたい。


『問題は、熱を遮断する素材を何にするか……ふむ』

「綿とかでいいんじゃねぇか?」

『それもありですが、もっといい素材があるかもしれませんな』

「ふむ……ただ板を挟むんじゃなくて、伸ばした鉄板とかで補強すればもっといけるかもな」

『考えたのですが、その二重構造壁の仕組み、ガラス窓などにも応用できるかもしれません』

「お、いいな。ガラスの材料は近くの川で腐るほど手に入るし、試作を若いモンに作らせてみっか」


 なんかもう職人っぽい話になってる。

 あーだこーだと話しているし、あとは任せていいか。

 異世界あるある……得意げに『現代知識』をひけらかしてキャーキャー言われて驚かれるが、ぶっちゃけそんな専門知識クソの役にも立たない。というか都合よく知識なんてねえぞ!!

 悪いが俺には醤油もマヨネーズも作れん。マヨネーズは卵が原料、醬油は魚?とかくらいだ。焼いた肉に塩振って食うの最高だぜ!!


「ギルティアスさん、他にも家で注文あればこの二人……一人と一匹に言ってください。バルボンさん、フワ太郎、いいか?」

「おう。種族の生活に合わせた家は必要だしな。それに、そーいう家を作るのもおれら大工の楽しみの一つよ」

『これからも様々な種族を受け入れるために、いろいろな案を出してくれればありがたいですな』

「……かたじけない。では、遠慮なく言わせてもらおう」


 さて、家は何とかなりそうだ。

 ギルティアスさんを置き、フワ太郎の頭を撫でまくってるマオを連れ、俺たちは事務所を後にした。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、村の開拓は順調に始まっている。

 仕事はみんな頑張っているのだが……ある日の夜、ちょっと問題が起きた。


「きゃああああああああああああ!!」


 深夜の絶叫。

 俺はびっくりして飛び起き、いつの間にか傍で寝ていたマオの尻尾を握ってしまう。


「ふにゃ!!」

「あ、ごめん……」

「にゃあ~……ご主人さま、どうしたの?」

「いや、声が……マオ、寝てていいぞ」

「にゃ……」


 マオはすぐ寝てしまった。

 俺は一階へ降りると、外へのドアが開いていた。

 ランプを手に外へ出ると、寝巻姿のエリがへたり込んでいた。


「エリ、お前なあ……こんな深夜にデカい声出すなよ、近所迷惑だぞ」

「…………け、ケイぃぃぃ!!」

「ぬぉぉ!?」


 なんとエリが俺に飛びついて来た。

 そして妙な違和感……なんだエリが濡れてる。しかも下半身……ま、まさか。


「お、おま」

「うえええええええん!! 怖かったよおおおおおお!!」

「…………」


 こ、こいつ……漏らしてやがる。

 するとようやくランプを手に、大あくびした天仙猫猫とレクス、ケルベロスが出てきた。

 レクスは子供だから仕方ないが、天仙猫猫とケルベロスは俺のピンチじゃないから出てこなかったのか……まあ今度からは俺以外の声でもちゃんと反応してもらおう。

 俺はエリの頭を撫でる。


「よしよし、トイレ失敗したのか? シャワー浴びるか?」

「ううう……は、はたけ」

「はたけ? 畑がどうした?」

「……こわかった」

「……?」


 よくわからん。

 とりあえず天仙猫猫にエリを任せ、俺はケルベロスとレクスを連れて家の近くにある畑へ向かう。

 すると、ザクッ……ザクッ……と、何か聞こえてきた。


「な、なんだ……?」

「な、何か聞こえますね……」


 レクスと顔を合わせる俺。

 ケルベロスは無言。俺の護衛であるケルベロスは、護衛中は不用意な会話をしない。

 そして、畑に到着……星明りが照らす畑に映ったのは。


「……ひゅっ」


 空気を飲んでしまった。

 そこにいたのは、横一列に整列し、規則正しい動きで畑を耕す骸骨集団だった。

 ザクッ……ザクッ……ザクッ……と、規則正しい動きで鍬を振り下ろす骸骨たち。あまりの光景に声が出ず、自然と口がカタカタ震えてしまった。

 すぐ隣で、ジョロジョロ……と、レクスが漏らした。顔を真っ青にし、今にも気を失いそうである。

 すると、骸骨の一体が俺に気付き、俺も漏らしそうなくらい背中が冷たくなった。


『ア、ケイ様……コンバンワ』

「え」


 骸骨が手を振っている。

 そしてようやく俺は、畑作業をしているスケルトン族だと気付くのだった。

 俺に声を掛けたのはスケルトン族の『骨長』であるキスティスさん。


『ケイ様、深夜ノオ散歩デスカ? 今夜ハイイ夜デスネ』

「……え、ええ。あの、何をしているんですか?」

『畑仕事デス。日中ハ肉ガ付イテルノデ、アマリ動ケナクテ……ナノデ、本来ノ姿デアル、骨ノ姿デ、畑作業ヲ行ッテイマス』


 目の前の骸骨は恥ずかしそうに身をよじる。

 そういや、日中は受肉するから疲労があるとかで、真の姿である骸骨なら疲れないし夜通し作業できるとかなんとか……いやでも、さすがに。


『ドウシマシタカ?』

「い、いえ……できればその、ちゃんとお休みして欲しいな、って」

『ケイ様……オ気遣イ、アリガトウゴザイマス』


 ってか、怖すぎるんだよ!!

 骸骨たちがみんな揃って深夜に畑作業してるなんて、何も知らない人が見たらクソ怖いわ!!

 って……言えないのが俺。

 深夜の畑仕事をする骸骨……マジでトラウマになりそうだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 結局、気絶したレクスをシャワールームまで連れて行くと、エリもいた。

 そしてスケルトン族のことを説明し納得。

 そして、俺に漏らしたところを見られたのが恥ずかしかったのか「思い出したら殺す」と真っ赤な顔で、しかも涙目で言われてしまった。

 そして、猫や犬たちに頼んで、『深夜にスケルトン族が畑仕事をしている』と報告……これで少しは驚く人が減るだろう。

 それと、行商に来たフォルテに『樹液』が欲しいと言うと。


「じゅ、じゅえき……って、樹の?」

「ああ。蟲族の皆さんの主食なんだ」

「……六百年ほど商会を営んでいますが、初めての注文ですねえ」

「いろんな種類の樹液よろしく」

「は、はあ……」


 とりあえず、蟲族の皆さんの生活も何とかなりそうだ。

 二重構造壁も試行錯誤して完成させ、俺の家も二重構造壁にするからとまた改築が始まった。

 俺にもっと知識があれば『異世界知識無双』できたかもしれんけど……いやー、高校生の俺にあまり期待しないでくれよ!!

 こうして、蟲族の皆さんが満足する生活ができるようになりましたとさ!! さて、次はどんな種族が来るのか、そしてファルーン王国の為朝たちはどうなってるのかな。


 為朝よ、俺は毎日楽しいぞ!! 

 そっちはどうなってる? 魔王は倒したかなー?

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