そのころ、クラスメイトたち③

 ファルーン王国の勇者たち。

 宗谷為朝をリーダーに、深い絆で結ばれた二十五人の『勇者』たちは、アグニルーン王国を迂回し、魔王四天王の一人『棺桶』のツァラトゥストラの居城前にいた。

 為朝は、着物を着てマゲを結び、着物で見えないがマワシをしている。

 居城から少し離れた崖の上で、副官に命じたアリアに言う。


「ふむ、あれが魔王四天王の一人、『棺桶』のツァラトゥストラの城か」

「為朝。本当に攻めるのか? アグニルーン王国の援軍もまだ……」

「ほっほっほ。大丈夫!! 我らの平均レベルは25。斥候の報告では、敵の兵の数は千ほど……うむ、いける!!」

「いや、どういう根拠……」

「ふっ、異世界ではありがちな『無双』ってやつですよ」

「…………???」


 アリアは意味が分からず首を傾げた。

 すると、クラスメイトで『勇者二十五人衆』の一人、『釣人』の木村守次郎が来た。


「おーい為朝、みんなメシ食って準備万全だぜ。でも、マジで行くのか? オレら、ファルーン王国の兵を合わせても百人いないんだぞ?」

「木村っち。『勇者二十五人衆』の一人とは思えんセリフだな」

「……あのさ、勇者二十五人衆って何なんだ? オレらクラスメイト、抜けた連中外せばちょうど二十五人じゃん」

「まあまあ、十二神将とか七人衆とか十天君とか四天王みたいなカッコいい称号欲しいじゃん? でもワイらの中で分別したくないし、だったら二十五人衆とかのがカッコいいかなーって」

「それ、女子に不評だからやめとけよ」

「そんな!!」


 愕然とする為朝は崩れ落ちた。

 アリアはクスっと微笑み、為朝に手を差し出す。


「あ、アリアさん……やさしい」

「騎士だからな。それより、本当に行くんだな? 犠牲も覚悟しなければ……」

「いや、犠牲は出さない!! ふっふっふ……作戦があるのだよ」

「作戦?」

「うむ。名付けて『四天王の居城に攻め込むが倒すのが目的じゃない大作戦』だ!!」

「長いしだせぇ……」


 木村が半眼で為朝を見る。

 為朝は「ふふふ」と怪しく笑った。


「まあ、アグニルーン王国から近いのに、アグニルーン王国の勇者はここに手ぇ出さないじゃん? だから、ワイらでできる限りここをツツいて撤退。キレた四天王……ツァラトゥストラ。くそツァラトゥストラって名前カッケェ!!……が大暴れするだろうから、あとはアグニルーン王国の勇者に任せるって戦法だ!!」

「「うわあ……」」


 アリア、木村もドン引きしていた。

 要は、レベルが足りないし、敵の数も多いので、敵を刺激だけしてあとは高レベルのアグニルーン王国の勇者に任せようということだ。

 木村は言う。


「ってか驚いたよな。オレらファルーン王国以外にも勇者っているなんて」

「甘いな木村っち……ファルーン王国が勇者を呼べるんだ。他の国が呼べると考えるのは至極当然の発想だろう?」

「その言い方ムカつくぞ……でも、他の国は少数精鋭らしいぜ。みんなレベル60超えの怪物ぞろい。なんで四天王の居城攻めないのかね」

「ふむ。他国には他国の理由があるのだろうな」


 アリアが言うと、木村は「確かに」と肩を竦めた。

 そして、木村は言う。


「なあ為朝。マジで有馬は呼ばなくていいのか?」

「うむ。恐らく慧くんは、美少女を侍らせてハーレムを満喫しているだろうから」

「意味わからん。ってかマジだったらムカつくぞ……」

「とにかく!! 慧くんにはスローライフを満喫してもらい、魔王討伐は我らファルーン王国の勇者でやろう!!」


 為朝がそう言い、集まっている仲間たちの元へ。

 作戦を伝えると、ほぼ全員が「うわあ……」という顔をした。


「なんか卑怯くせえ……」「オレ、レベル上げたいんだけど」

「痛くないならいいかも」「でも、怖いかな……」


 クラスの反応は様々だ。

 すると、為朝が肥大化……着物を脱ぎ、その場で四股を踏む。


「皆、聞いてくれい!!」


 ズズン!! と地面が揺れる。

 完全な相撲取りとなった為朝は、両手を広げパチンと手を叩く。


「確かに、人任せの作戦。というかアグニルーン王国に抗議されるかも」

「その通りだぞ……なぜアグニルーン王国を経由せず迂回するのかわからなかったが……というか国際問題になる……うう、今から頭がいたい」


 アリアが頭を抱えていた。

 だが為朝は言う。


「ワイは思った!! 異世界あるある……高レベル勇者が何もせずに四天王の居城を放置している……そこには重大な意味がある!! 裏では何かあるに違いない!!」

「「「「「…………」」」」」

「なので!! ワイらでそれをひっかきまわして、戦わざるを得ない状況を作る!! くっクック……アグニルーン王国の勇者め、遊んでいられるのも今のうちだ!!」

「「「「「…………」」」」」

「というわけで作戦。城の前で大暴れしてレベル上げ、ツァラトゥストラが出て来たら逃げる!! これしかねぇ!!」

「「「「「…………」」」」」

「というわけで、みんな!! ワイらの力を見せてやろう!!」

「「「「「…………」」」」」


 為朝たちはなんとも微妙な空気のまま、戦いに挑むことになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 アグニルーン王国の勇者が四天王の居城を放置していたのには理由がある。

 まず、四天王ツァラトゥストラがアグニルーン王国の王と繋がり、定期的に魔獣を送るから勇者に倒させろと命令を出していたこと、そして勇者たちはそれを知らずに、勇者たちがやや苦戦するレベルの魔獣を相手したりしていたことだ。

 こんなことをする理由。それは、魔王デスレクスこと、悪女神フォルトゥーナの眷属ファルザークが、フォルトゥーナを楽しませるため。

 

 なぜファルーン王国がその事実を知らないか? 

 その理由は「その方が面白いから」というフォルトゥーナの指示。

 だから、こうして為朝たちが四天王の居城に攻めてくるのは予想外であり、悪女神フォルトゥーナにとっては「楽しいハプニング」に過ぎない。


 そしてさらにもう一つの事実。

 現在、アグニルーン王国の勇者たちは、慧にたっぷり懲らしめられたせいで寝込んでいる。

 その事実を知らない為朝たち……さて、勇者の運命やいかに。


 このハプニングも、悪女神フォルトゥーナにとっては「楽しい出来事」なのだった。

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