超カッコいい種族

「きんちゃん!」


 ある日、俺はマオと天仙猫猫を連れ、突貫工事で作った家にやってきた。

 家の中にいるのは、半透明の『猫』が数十匹、そして大量の書類に囲まれた金華猫、そしてサモエドのマイケルだ。

 きんちゃん……そう、金華猫こと金華さん、そしてマオが呼んだ人。

 眼鏡を掛けたクール美女こと金華さんは、俺たちを見るなり顔を上げる。


「ご主人様。それに、猫娘と天仙猫猫……」

「久しいの、金華猫」

「きんちゃーん」


 金華さんは立ち上がると、走ってきたマオを受け止め抱っこした。

 マオは金華さんの胸に顔を埋め、ネコミミをぴこぴこ動かしている。

 俺は金華さんに聞いてみた。


「忙しいみたいだけど……」

「ええ。ここを『村』として機能させるため、この世界における最低限の手続きの最中です。今は『村』ですが、いずれ『国』になるなら、今からすべきことは山のようにあるので」


 俺の足元に、半透明に輝く金色の猫がいる。

 これ、何なんだろう……金華さんの能力なんだろうけど。

 すると天仙猫猫が言う。


「ご主人。その猫は金華猫の『仙術』で作られた猫じゃ。害はないから安心せい」

「あ、はい」

「天仙猫猫。もっと言い方はあるでしょう。害とはなんですか害とは」

「ほほほ、すまんすまん」

「……あの、やっぱ知り合い……って言っていいのかわからんけど、知り合いなんですね」

「まあの。我ら『仙獣』は一つの意思から産まれた同種……ご主人の言葉で言えば、姉妹……家族……うーむ、難しいの」

「あ、とりあえず知り合いってことで大丈夫っす」


 難しいのはごめんだ。

 さて、こうして村に超頼れる事務担当のお姉さんが来てくれた。

 運ばれてくる物資の振り分け、管理、ついでにフォルテとの交渉や、マイケルの『国建設計画』について話をしたり、金色の半透明の猫……正式名称は『火猫クハシャ』っていう使い魔みたいな猫が村を回って住人たちの要望を聞いたりと、一気に村っぽくなった。

 さて、ここまで来ると俺の存在意義がない。


「あの、金華さん。その~……俺、何かやることない?」

「何か、とは?」

「にゃうー」


 まだマオを抱っこしてる金華さん。頭を撫でている姿はどこかお母さんに見えなくもない。

 そう……俺、なんにもしてない。

 異世界あるある……こういう開拓系の主人公って、普通はチートを駆使して村を広くしたり、困りごとをチートで解決したり、チートで近くの超強い魔獣を狩ってみんな驚かせたりするモンじゃないのか?


 俺、みんなを召喚してから何もしてない。

 ドラゴニュート族、ドワーフ族は家を作ったり街道を広げたりしてる。

 ハーフの子供たちはドワーフに弟子入りしたり、編み物とか縫物始める子もいる。

 エリやミュウは猫たちと狩り、犬たちも建設で頑張ってる。

 

 さすがに微妙なやる気の俺でも、何もしてないと心苦しい。

 そりゃスローライフしたいけど……頑張ってるみんなを横に、ビーチチェアに寝そべってトロピカルドリンクを飲むみたいな真似できないぞ。

 そう思っていると、金華さんが言う。


「ご主人様には、この村に来る種族との交渉などをお願い致します。これから更なる住人を迎え入れる場合、この地の主であるご主人様の許可が必要なので」

「は、はあ……」


 ここ、俺の地なんだ……うーん。

 まあ、俺にできることは頑張るけど……もっと肉体的に頑張りたいな。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、俺がこの地に来て一か月ほど経過。

 廃村から始まったここも、少しずつにぎやかになっていった。

 アグニルーン王国の勇者や、黒鉄レオンたちの襲撃事件もあったが……今のところ、再襲撃とか、別の勇者の襲撃とかもない。

 俺は食っちゃ寝生活……いやいやいや、そんなことない。ちゃんと頑張ってる!!

 そう思いながら起床。調理担当猫のミザリーと執事見習いのレクスが作った朝食を食べ終え、さっそく村の見回りにでかけようとした……ちなみにエリとミュウ、この二人は俺の護衛のはずなのだが、最近は二人で猫たちと狩りしまくってる。

 と、家を出るなり、村で最速の猫であるハヤテが俺の元へ。


『ご主人様!! 虫がいっぱい来ました!!』

「…………は?」


 むし……虫だよな。

 来るって、虫? 


『おっきな虫さんたちが来たんです!!』

「…………」


 おい、おい。

 嫌な予感してきた。いや、デカい虫……虫は嫌いじゃないが好きでもない。

 カブトムシとか眺めるのはいい。でも触るのとかちょっと怖い。

 

『ささ、案内します』

「えと、まあ、その……う、うん」


 くそう……『俺にも何かできることない?』って言った手前、行くしかない。

 ハヤテと一緒に村の入口に行くと、そこにはケルベロス、天仙猫猫、ドラゴニュート族の警備隊さん、犬猫たち、エリにミュウもいた。

 そして金華さんが……え、なにあれ。


「ご主人様。早速ですが移住希望です。こちら、『蟲族』の方々です」

「……よろしく頼む」


 頭を下げたのは……確かに、『虫』だった。

 いや、ちょっと待て。

 こ、これは俺の想像をはるかに超えていた。


「オレは蟲族代表、コーカサスオオカブト種のギルティアス。ガイアルーン王国の勇者たちに迫害され、この地に逃げてきた……どうか、オレたちを受け入れて欲しい」

「…………」


 俺の目の前にいたのは、滅茶苦茶カッコいい『虫型の人』だった。

 人の骨格に昆虫の外殻を纏った人、みたいに言えばいいのか?

 二足歩行の虫を想像していたが、その姿を数千倍カッコよくしたような、人がベルトを装着して昆虫型のキーアイテムを掲げて『変身!!』って叫んだあとの姿みたいな……『昆虫型アーマーを纏った人』みたいな、とにかくカッコいい人だった。

 すまん。実は俺……ニチアサは見てるんだ。


「……すまん、蟲族に偏見を持つ気持ちはわかる。村の片隅でいい、どうか我らに慈悲を」


 コーカサスオオカブト。

 頭にツノが三本生えてる。身長も二メートル以上あるし、とにかくカッコいい。

 というか、人間の勇者に負けないくらいカッコいいし強そうなんだが……って、見惚れてる場合じゃない!!


「あの!!」

「っ、な、なんだ?」

「偏見とかないです!! 蟲族……めちゃくちゃカッコいいです!!」


 為朝いたら興奮しそうなビジュアルだぞ。

 腰を見たが、ベルトが巻かれてるわけじゃないし、バックルもない。人間が変身している可能性はないな……安心したような、残念なような。


「か、かっこ、いい?」

「はい。俺……上手く言えないんですけど、蟲族の皆さん滅茶苦茶カッコいいと思ってます!! マジで!!」

「あ、ありが……とう? えと」


 ギルティアスさん、ちょっと返答に困っているのかザレフェドーラさんを見た。

 

「か、カッコいい……くっ、我も主にそう言われたいものだ」


 すみませんザレフェドーラさん。これは好みの問題です。

 すると、エリが俺の隣に。


「で、受け入れんの?」

「当然だろ。むしろ、こっちからお願いしたいレベル」

「意味わかんない……」

「うるさい。金華さん、いいですよね!!」

「もちろんです。では、それぞれの名前と種を教えていただけますでしょうか」


 金華さんにあとは任せよう。

 すると、ギルティアスさんが数人連れて俺の元へ。


「感謝する、シャオルーンの王よ」


 全員、跪いた!! 

 こんなカッケェ人たちが俺に……!! なんだこの気持ちは!!

 

「王よ、紹介したい。こちらはオレの弟だ」

「初めまして。ヘラクレスオオカブト種のヘグドと申します」

「おおお……」


 へ、ヘラクレスオオカブト!! かっけえ!!


「そして、オレの妻と息子です」

「初めまして。同じくコーカサスオオカブト種のミグネルです」

「初めまして。コーカサスオオカブト種ギルティアスの息子、ヘイザムです」


 くぉぉ……コーカサスオオカブト種っていちいち言うところもいいな!! 

 息子さんはツノが少し短い。これから成長するのだろうか。

 

「ケイ、あんた何興奮してんの?」

「あ、いや……と、とにかく皆さん、よろしくお願いします!!」


 こうして、村に新たな超カッコいい種族、蟲族の皆さん総勢四十名を受け入れることになった!!

 うーん、かっこいい。いつか為朝に見せてやりたいぜ!!

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