第六章

スケルトン族


 当然だが、全員起きた。

 エリの絶叫は思ったより響き、部屋にいたみんなはもちろん、寝間着姿のレクス、外で寝ていた犬猫たちなんかも飛び起きた。

 俺はというと……エリに思い切り抱き着かれていた。

 いや、いい匂いするな……俺と同じ湯シャンのはずなのに、なんかいい匂い。

 それにやわっこい……胸、ミュウよりは小さいって喧嘩売られてたけど、かなりあるじゃん。


「ががががが、ガイコツ、ガイコツ……!!」


 って、そんな場合じゃない。

 マジモンの骸骨。骨格標本がそのまま二足歩行してる。

 いや、俺もビビってる。でも、真に恐怖すると逆に声が出なくなるんだよ。


「にゃあ」

「ままま、マオちゃん!!」

「うおっ」


 エリはマオを見つけると、俺から離れて抱き着いた。

 ネコミミに顔を埋めて落ち着こうとしているのか……って、そんな場合じゃない。


「主、下がれ」

「ふむ……もののけめ」


 ケルベロスが拳を構え、天仙猫猫が扇をバッと開く。

 こりゃ任せた方がいい。正直、怖くて魔法とかスキルとか何も浮かばん。


『マ、待ッテ、待ッテクダサイ!! アノ、オ話ヲ!!』


 骸骨が手をブンブン振る。そして、別の骸骨がみんな土下座し、一人が白旗を振っていた……白旗って、完全敗北とかの意味だよな。

 すると、どこにいたのかシロが足元へ。


『ケイ、待った。この子たちスケルトン族だね』

「す、スケルトン……」


 知ってる。骸骨だよな。

 アンデット系で、異世界あるあるでは不死の怪物。

 実際に見るとクソ怖い。トラウマ確定の生物だぞ。


『とりあえず、話を聞いてあげたら? 彼……いや、彼女に敵意はないよ。そもそもスケルトン族は人前にはあまり出ないけど、穏やかな種族だしね。しかも、レベルに関わらず夜は無敵だよ』

「マジか」

『でもまあ、死なないって意味で無敵なだけ。戦闘力は勇者レベル7くらい……犬と同じくらいだね』

「言っておくけど、勇者レベル7って異世界人除けばかなり強い部類だからな」


 ちょっと落ち着いてきた。

 改めて、土下座する骸骨たちを見る……うん、完全な人間の骨格標本だ。

 よく見ると、一人はデカい荷物を持っている。旅でもしてるのかな?


「主!! こ、これは……おのれ怪物め!! 今助けますぞ!!」

「ま、待ったザレフェドーラさん!! ちょっと待った!!」


 ドラゴニュート族のザレフェドーラさんが、ドワーフのバルボンさんに作ってもらった新しい剣を抜いて威嚇する。

 とりあえず!! かなり怖いが話を聞くしかなさそうだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 えー、俺とマオ、ザレフェドーラさん、天仙猫猫とケルベロスは、屋敷の一室で骸骨さんたちを全員入れた。

 この部屋、会議室というか、こういう話し合いをするための部屋だ。かなり広いし、ソファもある。

 俺の隣にマオを座らせると、すぐに寝てしまった……そりゃそうだ。もう深夜超えて朝が近いし。

 エリは怯えて逃げてしまい、ミュウはそんなエリをからかうために出て行った。

 猫と犬数匹に事情を説明し、集まって来た住人たちも帰るように言った。

 つまり……ようやく、まともに話ができる。

 俺は挙手、さっそく切り出した。


「で……その、何か用ですか?」

『ハイ。ソノ……噂デ聞キマシタ。魔族ヲ受ケ入レルタメノ村ヲ作ッテイル『王』ガイルッテ』

「……お、王?」

『ハイ。魔族ノ王……魔王様。真ナル魔王ガ現レタ、ト』


 デマだな。

 魔族を受け入れるってのはまあ本当だが。でも、魔族だけじゃない。

 うーん……そりゃ女神様との約束で魔族の保護するって言ったが。


「……」

『ア、アノ……ソンナニ見ラレタラ、恥ズカシイデス』


 骸骨だぞ。

 一応、女性らしいが……周りの骸骨と全く同じ。服とかも着てないし見分けつかん。

 混乱しか招かないような気もするが。


「あのー……スケルトン族、ですよね? どういう種族なんですか?」

『エット……』

「あ、その前に。俺は有馬慧。ケイでいいです」

『キ、キスティス。ソウオ呼ビ下サイ。生マレテマダ十六年ト若輩デスガ……スケルトン族ノ『骨長』ヲ任サレテオリマス』

「……こつちょう?」

『スケルトン族ハ、最モ美シク硬イ『骨』ヲ持ツ者ガ、一族ヲ率イル掟ナノデス』

「そ、そうなんだ」


 異世界あるあるでもそんな決まり初めて聞いたぞ。

 じゅ、十六歳……この骸骨、キスティスさんが、十六歳。

 すると、ドアがノックされレクスがティーカートを押して入ってきた。


「あ、あの……お茶は飲め……ますか?」

『アリガトウゴザイマス。イタダキマス』


 めちゃくちゃ緊張してる。ってかスケルトン族飲めるんかい!!

 ツッコみ追いつかん。とりあえず、これだけは聞いておこう。


「えっと……スケルトン族の皆さんは、村に住みたいってことで?」

『ハイ……』


 ここで、キスティスさんたちの過去をチラッと聞いた。

 なんでも、住んでいたのはガイアルーンにある魔王の住む領地に近い場所だったが、ガイアルーンの勇者たちによる『魔族狩り』でスケルトン族は散り散りになったそうだ。

 そして、風の噂で『新たな魔王アリマが誕生した。魔族の保護をシャオルーン領地でしている』と聞き、それだけを頼りに来たらしい。

 いや……そんな話聞いたらダメなんて言えんぞ。


「わ、わかりました。スケルトン族の皆さんを受け入れます……」

『ア、アリガトウゴザイマス!! アノ、他ノ同胞タチモ……』

「今は散り散りなんですよね? 見つかったら、受け入れますんで。あー……村に住む以上、仕事とかしてもらいますけど」

『モチロンデス!!』


 夜間の見回りだけは絶対にさせないようにするか……トラウマになる。

 さて、けっこう話が長引いた……窓を見ると、いつの間にか空が明るくなってきた。

 もう夜明けだ。なんかすげえ眠くなってきた。


『ア……夜明ケ、ですね』

「えっ」


 窓から光が差し込むと───なんと、とんでもないことが。

 光がキスティスさんたちの身体を包み込み、えっと……え、に、肉が付く。

 肉というか、素肌。え、え、え……ま、マジ。

 俺の目の前には、綺麗なプラチナヘアの美少女が……全裸で座っていた。


「あ……申し遅れました。スケルトン族は日中、光を浴びると肉がついてしまう体質で……申し訳ございません」

「…………」

「……ケイ様?」

「…………えっと」


 胸、でっか。

 いや羞恥心ないの? ってか後ろにいたスケルトン族たちも全裸。みんな若いし、男も立派だけど隠そうともしていないし!! 

 き、キスティスさんも……やばい、目が離せん。

 すると、スケルトン族の一人が荷物から服を出す。


「すみません。少々、着替えの時間をいただきますね」

「…………どうぞ」


 えー……スケルトン族、光を浴びると人の姿になるということがわかりました。

 うん、夜は怖いが、日中は問題なさそうだ。


「にゃ……ご主人さま」

「あ、ああマオ。起きたか」

「ご主人さま。はなぢ出てる」

「…………」


 裸体を見て鼻血出す……迷信かと思ったが、マジでした。

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