とりあえず、仕事するか

 さて、黒鉄レオンたちが逃げて数十分……俺は一人、のんびりシャワーを浴びていた。

 

「はぁぁ~……いい」


 お湯が身体に当たる感覚。

 濡れた頭をガシガシ洗う。フォルテに『石鹸ある?』って事前にお願いして持ってきてもらったんだが……この世界の石鹸って『粉』なんだよな。しかも泡立たないし、匂いも微妙。

 マジで自分で作るしかないのか……でも異世界あるある、『そんな都合よく石鹸だのマヨネーズだの作り方なんて知らん』だ。

 マヨネーズは卵ってことはわかるが……作り方なんて知らん。

 石鹸? いや俺ボディソープ派だし……成分とか知らん。


「為朝ならわかるかなあ……」


 とりあえず、しばらくは湯シャンだ。

 いい感じに温まり、シャワールームから出て身体を拭く。

 シャオルーン領地のいいところ、ここって春が長く、夏と秋が同じくらいで、冬が短いらしい。なので、今日もいい天気で暖かいので過ごしやすい。

 俺は、新しい服に着替え、大きく伸びをしてシャワールームの外に出た。


「あ!! や~っと出てきた。ちょっと、待ってたのよ」

「悪い悪い。シャワーって気持ちいいよな」


 エリが出迎える。

 エリ、マオ、ミュウ、ケルベロス、天仙猫猫、シロにクロ。

 シロは俺の足元に来ると、尻尾をブンブン振った。


『じゃあ女神様と繋げるよ』

「ああ、よろしく」


 シャワールームの外に作った休憩所にて、俺たちは女神様に連絡を取ることになっていた。

 なぜシャワーを浴びていたか? そりゃもちろん、黒鉄レオンたちのせいで汗を掻いたから。

 ちなみに……レオンたちとけっこう激しく戦ったのだが、村の被害はゼロ。天仙猫猫が結界を張り、騒ぎを聞いてドラゴニュート族や犬猫たちが来ないようにしていたらしい。

 まあいい。今もみんな仕事で汗を流しているだろう。

 シロが尻尾を振ると、目の前に空中投影ディスプレイが現れた。


『あー……見てる?』

「ども、お久しぶりっす。女神様」

『あはは。今更だけど、自己紹介してなかったよねえ。私、女神のフェローニアよ。フリアエ姉さん、フィディス姉さんには会ったわよね?』

「ええ、一分くらいでしたけど」

『あはは……いやー、大変だったわね。というか誤算……フォルトゥーナちゃん、まさか力を押さえてシャオルーン領地に入るなんて』

「あのー、そういうのはいいんですけど……ってか何で連絡したんだっけ」

『え』


 そういや用事なんてないぞ。

 シロを見ると、可愛らしく首を振る。


「とりあえず、姉妹の二人には会いましたんで。なんかスキル取られそうになったけど、向こうにも理解できないのか取られませんでした。ってわけで、今日も元気です」

『え、ちょ、スキルって』


 映像は消えた。

 さて、女神様に挨拶も終わったし……今日も一日頑張ろう!!

 すると、エリが俺に言う。


「待ったケイ。あのさ、勇者が攻めて来たことなんだけど……」

「ん?」

「何となくだけど、また来る気がするわ。しかもケイのこと魔王とか言ってたじゃん? なんかイヤーな予感する」

「奇遇だな。実は俺もだ。でもまあ……俺は魔王じゃないし、どっかに攻め込むつもりもないし、女神様に頼まれた通り、ここを開拓してスローライフすればそれでいいや。めんどくさい話とかはパス!!」

「あー……まあ、そうよね。よし!! アタシも気にしないことにするわ」

「にゃあー、ご主人さま、お話おわり? いっしょにあそぼ」

「お、遊ぶなら兄さんがボードゲーム持って来たの。みんなでやらない?」

「いいわね。悪いけどミュウ、手加減しないから」

「あらら? あたしに勝てるとでも? あ、そっちの二人も参加ね」

「ほほう、面白い……そこの犬に上下関係を叩きこむのにちょうどいいの」

「ハッ、猫風情が笑わせる」


 厄介ごともこれからあるだろうし、別の国の勇者も来るかもしれない。

 でもまあ、俺は何かしようとは考えていない。

 とりあえず、傷ついた人たちを受け入れて、のんびりスローライフを楽しもう。


 ◇◇◇◇◇◇


 散々だった。

 フォルテの持って来たボードゲーム……チェスみたいな王取りゲームだったんだが、これがまた奥が深くて……楽しいんだが頭疲れた。

 現在、俺の屋敷の一階ではみんなが疲れ切って寝ている。

 エリとミュウは床で、マオは天仙猫猫が抱っこして、ケルベロスは器用に立ったまま壁に寄りかかって寝ている。

 俺もソファで寝ていると、執事見習いのレクスがそっと毛布をかけてくれた。


「あ……すみません、起こしちゃいましたか」

「ああ悪い……ってか、こんなとこで寝るなって感じだよな」

「いえ、みなさんお疲れのようですし」

「……レクスもそろそろ寝ろよ?」

「はい。おやすみなさい、ご主人様」


 レクスは自室へ。

 俺も大きく伸びをする……外はすっかり暗い。

 ちなみに、この世界にも時計はあるがかなりの高級品で、王様とかしか持てないらしい。正確な時間がわかるような時計、やっぱり欲しいな。

 ドワーフの方々なら作れ……うーん。フォルテに仕入れ……うーん。

 スマホはあるけどとっくに電池切れだし、家の中にコンセントないかなーと見回したが当然ない。

 俺は欠伸をして、なんとなく外の空気を入れようと窓を開けた。


「おー……星が綺麗、月が綺麗、ってか」


 この世界にも星や月がある。

 なんとなく外を眺めて呟く。


「為朝たち……大丈夫かな」


 宗谷為本。黒鉄レオンの代わりにリーダーできてるかな。

 あいつ、異世界馬鹿だけど意外とやるし、問題ないと思う。

 でも……罪のない魔族を虐げたりはしないでほしい。そういうところ、あいつならわかっているとは思うけどな。

 すると、背後でエリが起きる音がした。


「ん~……あれ、ケイ?」

「おお、エリ。起きたか」

「なにしてんの?」

「なんとなく星を見てたのさ……」

「はあ?」


 すまん、意味不明だよな。

 俺もカッコつけてました、はい。

 エリが隣に立ち、外の空気を胸いっぱい吸う。


「あ~~……ボドゲって楽しいわね。すっごく盛り上がったわ」

「わかる。俺も初めてだったけど、楽しかった」

「うんうん。ね、ケイ……アタシも決めたんだ。アタシは難しいことわかんないし、そんな強いわけでもないけど……この村を守るために戦うよ」

「エリ……」

「ふふん。今のどう? カッコよかった?」

「ああ、台無しだけどな」

「はあ? なんでよ!!」

「はいはい。さて……明日の予定は?」

「えーっと、ドワーフたちがブドウの果樹園作りたいって言ってたのと、麦畑の拡張と、畑に野菜を植えるのと、フォルテの商人仲間のために街道整備と……」

「や、やること多い……」

「そーね。まあ、時間あるしのんびり少しずつね」

「ああ、そうだな」


 とりあえず、明日から頑張るとしますかね……ん?


「……おいエリ」

「ん、なに?」

「あ、あれ……なんだ?」

「へ?」


 俺が指差した先にいたのは───こっちに歩いて来る『骸骨』だ。

 骸骨。完全な人骨だった。

 カチャ、カチャ、カチャ……と、大量の人骨が歩いて来る。


「「…………」」


 固まる俺、そしてエリ。

 いつの間にか背中に汗が流れている。

 そして人骨がこちらへ……俺とエリのいる屋敷前に来た。

 人骨。数は十体ほど。え、なにこれ、え、え。


『……アノ』

「「…………」」

『ココ、シャオルーン領地デ、間違イナイデスカ?』


 突如喋り出した人骨……そして、エリの絶叫が夜の村に響き渡るのだった。

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