勇者が去ったあと
黒鉄レオン、夢見レイナ、鎧塚金治、相川セイラ。そしてエルフにして悪女神フォルトゥーナの名を持つラーズハートは、シャオルーン領地から撤退……一度、エイルーン王国へ避難することにした。
シャオルーンから離れた小さな村の宿屋にて。ラーズハートは歯が砕けんばかりに食いしばり、頭をボリボリ掻く。
「クッソ……!! 私のスキルなのに、私が回収できないなんてどういうことよ!! あのケイとかいうやつ……絶対に許さない!!」
「女神様……」
「ふう……落ち着いたわ。レイナ、仲間たちは?」
「えっと、レオンくんについています。女神様、有馬慧のことは」
「あいつは許さない。あの魔王……対策が必要ね」
「魔王。つまり……奴はシャオルーンで新たな国を作り、女神様を苦しめている、と?」
「ええ、そうよ」
「なら!! 勇者の出番ですね!!」
「……ふむ」
勇者の出番。
ラーズハートはそう考え、一つの妙案を思いつく。
「確かにその通りね……ふふ、勇者が必要なら、手を貸してもらえばいい。それに、私にはまだ手駒がいる……ふふ、レイナ、あなたたちにはまだまだ活躍してもらうわよ」
「お任せください、女神様」
夢見レイナは完全に、フォルトゥーナに支配されていた。
ラーズハートは言う。
「とりあえず、まずは少し休まないとね。姉さんたちを振り切るのに結構な力を使っちゃったし……」
「では!! 肩を揉ませてください!!」
「お願いね。ふふ、素直な子は大好きよ」
「えへへ……」
ラーズハートはレイナの頭を優しくなでるのだった。
◇◇◇◇◇◇
一方そのころ。
真なる勇者為朝は、ファルーン王国の訓練場で四股を踏んでいた。
その様子を、騎士アリアが眺めている。
「そのシコ……だったか? さっきから続けているが、普通のトレーニングをした方がいいのでは?」
「ふっ……甘いな騎士アリアさん。四股は最新最古のトレーニングなんだぜ」
「……そ、そうか」
宗谷為朝。
クラスの新リーダーにして『相撲取り』のスキルを持つ少年。
最初は普通の少年だったのに、今は体重が百キロを超え、マゲを結い、マワシを装備している。
『形から入るぜ』と言い、訓練用の服ではなく相撲取り用の着物まで普段使いしているので、クラスメイトたちからは『横綱為朝』と呼ばれていた。
だが、それは嘲笑の意味ではない。仲間から信頼され、頼りにされている証であった。
「ふう、いい汗を掻いたぜ」
「……」
アリアは、そんな為朝から目が離せない自分に気付いていない。
巨漢の為朝は自分の腹をバシッと叩く……そんな姿を見て、アリアはようやく我に返った。
「っ……わ、私は何を」
「アリアさん?」
「あ、いや……そ、それより報告だ。生徒たちのレベルが全員20を超えた。やはり勇者の成長速度はすさまじい……」
「はっはっは。それはいい……さて、そろそろ会議の時間ですな」
シュルシュルと、身体が普通の高校生ほどの大きさにまで縮み、為朝はタオルで汗をぬぐう。
その凛々しい表情は、かつてクラスの中心だった黒鉄レオンよりも輝いている。
「アリア殿……そろそろこちらからも、魔王軍に仕掛ける時が来たようですぞ」
「なっ……まさか」
「うむ。魔王軍の拠点の一つ、魔王四天王の城を攻めましょう!!」
ファルーン王国の勇者たちは、新たな戦いに踏み込もうとしていた。
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