情報過多!!

 というわけで、黒鉄レオンにいろいろ言われ、なぜか『魔王』認定されて剣を向けられました。

 現在、俺は黒鉄レオンと剣戟を繰り広げている。


「はぁぁぁぁぁぁ!!」

「おおお、ちょ、おい俺の話聞けって!! おい!!」

「負けない、オレはぁぁぁぁぁぁ!!」


 ダメだこりゃ。

 レベルは俺のが高いし、攻撃も見えるし聖剣の質も俺のが高いから何とかなってるが……うむむ、こいつこんな話聞かないヤツだったか? 


「レオンくん、負けないで!!」

「ああ!! 鎧塚、相川!! 援護頼む!!」

「おう!!」

「任せて!!」


 鎧塚が格闘家みたいな恰好で、相川が弓士みたいな恰好をしているのが見えた。

 そして、鎧塚が接近するが───その間にエリが割り込む。

 相川が弓を射るが、ミュウの放った矢で相殺された。


「悪いけど、ケイは一対一で戦わせるから」

「そーゆーことっ。旦那様の邪魔させないしっ」


 これ、バトル漫画でありがちな一対一のバトル? ってかそんなの望んでないんだが……ってか、マオやケルベロスは何してんだ? あ、天仙猫猫がマオ抱っこしてネコミミすりすりしてる。

 ケルベロスは……めっちゃ腕組みしてこっち見てるだけ。え、なんで手ぇ貸してくんないの!?


「一対一。ふ……主も戦わねばならぬ時があると、エリが言っていた」

「ふふ、男同士の戦いを邪魔するほど、野暮じゃあない」


 頼んでねぇしいいいいい!! ってか卑怯でいいから助けてほしい。

 仕方ない。とりあえず……黒鉄レオン、いい加減にしろ!!


「黒鉄レオン、いい加減に───しろっ!!」

「ぐぁぁっ!?」


 俺は少し強めに聖剣を振ると、剣が輝きオーラが飛んだ。これ『勇者の闘気』ってやつか。

 レオンの聖剣が砕け地面を転がる……しまった、血ぃ出てるじゃん。

 すると、夢見レイナが近づいてレオンの治療に入る。


「負けないで!! 真の勇者なら悪の魔王は絶対倒せるんだから!! 私の勇者様、頑張って!!」


 な、なんか眼が赤くギラギラ輝いてるんだが……夢見レイナってあんな奴だっけ。

 すると……俺とレオンの間に割り込むように、妙な女が現れた。

 エルフなのか耳が長い。エメラルドグリーンの髪に、モノクルを掛けている。

 スタイルもめちゃくちゃいい……スリットの入ったスカートってかなりエロい。

 

「……へえ」

「……なんだあんた」


 でも、俺を値踏みするような視線は……正直、恐怖を感じた。

 レベルとかじゃない。なんというか……俺は今勇者で、この世界の魔獣とかでも倒せる。でも、遊園地にいるライオンの檻に入れられたら怖くて動けないだろう。

 そんな、本能に訴えるような恐怖……ごめん、わかりにくいよな。


「私はファルーン王国勇者一行のエルフ、ラーズハート。よろしくね、真の魔王」

「いや魔王じゃないし。ってか魔王は『デスレクス』とかいう奴だろ」

「デスレクス? ああ、人間用に名乗ってる名前ね。あなたはアリマ……だったかしら」

「有馬慧。ケイってみんな言ってる……じゃなくて。あんた黒鉄レオンの仲間なんだろ? 俺、そいつと同郷の異世界人なのよ。だから、妙でアホな勘違いしてるだけだから、戦う理由はないんだ」

「そう? でも、面白そうじゃない? ……異世界の人間が新しい『魔王』になるなんて」

「……は?」


 エルフの女……ラーズハートはクスクス笑った。

 ラーズハートが指をパチンと鳴らした瞬間、周囲の色がセピア色になった。


「へ……?」


 時間停止したような、周りがピタッと止まった。

 俺、ラーズハートだけが動いている。


「改めて自己紹介。私はフォルトゥーナ……お姉様から聞いてるかしら?」

「……マジ? あの、悪女神?」

「正解。ふふ、今はエルフ族で、怖いお姉様たちから追われる身。ねえ……あなた、私のために戦うつもり、ない?」

「はい?」

「ふふ、権能を取り上げられて五百年。お姉様たちにバレないように力を取り戻して、この世界で遊んでいたけど……ついにバレちゃった。魔王を生み出し、人間と争わせて見物していたけど、だんだんと飽きてきたのよねぇ……お姉様に追われるし、私の干渉がなければ数年以内に魔王は倒されて平和になっちゃう」

「いや、いいことじゃん」

「世界が平和になれば、お姉様たちは『異世界召喚』のシステムを廃棄しちゃう。もう異世界から勇者は呼び出せないし、退屈な世界に逆戻り……そんなの嫌じゃない?」

「呼び出される方はたまったもんじゃないぞ」

「そうね。でも、そんなの知ったことじゃないわ。私が楽しむためには、魔王に力を与えて、現地人じゃ手に負えないくらいの強さにしないとねぇ……」

「…………」


 なんだこいつ……自分が楽しむためだけに魔王に肩入れ……いや、魔王を操ってんのかよ。

 無意識に聖剣を向けると、フォルトゥーナがクスクス笑う。


「この地は、お姉様たちの力で満ち満ちているわ。私ですら、長くは干渉できない。それに……ここで力を使ったせいで、お姉様たちに居場所がバレちゃった。まだ受肉して間もないお姉様たちに負ける気はしないけど、それでもめんどくさいの……だから、私の『摸倣コピー』を持つあなたを連れて行こうと思ってね」

「いや、あの」

「新たな魔王。ふふ、実にいいじゃない。今いる魔王を配下にあげる。強いスキルを山ほどコピーして、最強の魔王にならない? お姉様たちも敵じゃないし……あなたの寿命が尽きるまで百年くらいかしら? 異世界の勇者とあなたを戦わせて、私が楽しめるわ~」

「…………」


 えっと、つまり。

 俺を連れていって、自分の暇つぶしのために魔王になりませんか?……ってこと? 

 は? いや、なにそれ。俺の意思は?

 ああ、こいつ……めちゃくちゃ、超、究極の自己中だ。


「いや無理。ってか、俺はここで魔王が勇者たちに、そしてあんたが女神に倒されて平和になるまで、のんびり廃村開拓しながらスローライフするってことになってるから」

「あらそう。じゃあいいわ。私のスキル、返してもらうから」

「……は?」

「全てのスキルは私が生み出した力よ? 与えるのも、没収するのも私の自由。あなたの力を黒鉄レオンに与えて、特別に力を注いだ夢見レイナを眷属に、魔王として育てようかしらねぇ」

「え、あの」

「じゃあ、あなたは用済み……没収~」


 フォルトゥーナは俺に手を向けて指パッチンをした。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「…………」

「…………」

「…………あの」

「…………あ、あれ?」


 パチン、パチン、パチン……と、フォルトゥーナは何度も指パッチンをする。

 だが、俺に特に変化はない。聖剣もそのままだし。


「な、なんで!? スキルは私が創造した力よ!? 今はお姉様たちが管理しているとはいえ、私の手から完全に離れるなんて……!?」

「えーと……とりあえず、あんたを斬れば女神様は喜ぶかな?」

「ま、待ちなさい!! あっ」

 

 と、セピア色の景色に色が付き、時間が動き出した。

 俺は聖剣をラーズハート……いや、フォルトゥーナに向ける。


「ど、どうして!? あなた、何者!?」

「いや、ふつーの異世界人だけど……」

「くっ……あ、あれ? な、なにこれ? わ、私以外、ううん、女神以外の干渉を受けている!? うそ!? どういうこと!? この力、どういう───」


 なんか動揺しまくってるな……演技なのか?

 そろそろ攻撃しようか迷っている時だった。


 ◇◇◇◇◇◇


「───見つけたぞ」

「ここまでね、フォルトゥーナちゃん」


 ◇◇◇◇◇◇


 と、いきなり俺の両隣に人が現れた。

 一人は刀を腰に差した黒髪の女刀士、もう一人は巨乳の金髪牛獣人のお姉さん……え、なになに。もうマジで俺じゃ理解できないんだが。


「ふ、フリアエ姉さん、フィディス姉さん……!!」

「言葉はいらんな。では斬る」

「待ってフィディスちゃん。フォルトゥーナちゃん……最後にもう一度だけ聞くよ。一緒におうちに帰りましょう」

「……嫌よ。悪いけど、受肉したばかりのお姉様たちじゃ、私に勝てないわ。でも……今は引かせてもらうから!! レイナ!!」

「はい!! 鎧塚くん、セイラちゃん!! ここは引くよ!!」


 夢見レイナが杖から閃光を発する。そして、姿が綺麗さっぱり消えていた。


「チッ……逃がさん!!」


 黒髪女刀士さんは走り出す。そして、巨乳獣人お姉さんは俺を見た。


「ごめんね。今は説明してる暇ないから……フェローニアちゃんに聞いてね」

「え、あの」


 そう言って、みんな消えた。

 残されたのは俺、エリ、ミュウ。そして最後まで傍観していたケルベロスたち。

 情報過多……意味不明な展開が続き、俺はポカンとする。

 するとエリが来て言った。


「で、どうなったの?」

「お、俺にもわからん……」


 マジでどういうこと? ってかフェローニアって誰? 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る