ファルーン王国の勇者たちがやって来た①

 話は、かなり面倒くさいことになっている。


「……えっと」

「有馬。お前……新たな魔王になるつもりか!!」


 俺は黒鉄レオンと対峙していた。

 レオンは剣を突きつけ、どう見ても俺を殺す気満々。

 俺はさり気なく、一度消した『勇者』のスキルをコピーする。

 

「いや、俺が魔王とかどういうことだよ」

「とぼけるな!! これだけの戦力……お前はファルーン王国から、魔王を退治するまでシャオルーン王国にいろと言われていたじゃないか!! これだけの戦力を集めて、復讐するつもりなのか!!」

「待った待った。復讐とか意味不明すぎるぞ。俺、追放されたこと恨んでないし」

「嘘をつけ!! くそっ……でもオレは負けない!!」

「何一人で盛り上がってんだよ。おーい」

「有馬!! オレは勇者として、お前を見過ごすわけにはいかない!!」

「いや見過ごしていいって。おーい、聞いてんのか?」


 レオンの剣が光る。

 俺はスキルを『勇者』に変更する。


 ◇◇◇◇◇◇

有馬ありま けい

〇スキル『模倣コピー』 レベル25

・現在『勇者ブレイブ』 レベル10

〇パッシブスキル

・勇者の闘気 ・勇者の守護

〇使用可能スキル

・神器解放

〇スキルストック

・蹴闘士・女神の化身(クロ)・女神の化身(シロ)・精霊導師

 ◇◇◇◇◇◇


 よし、久しぶりの勇者だ。

 俺は右手をレオンに突きつける。


「『神器解放』」

「ッ!!」


 俺の手には聖剣。そしてレオンの手にも聖剣……だが、俺の聖剣の方が装飾が凝っているし、輝きも段違いだ。


「負けるかぁぁぁぁ!!」

「おおっ、ちょ、待って待って!!」


 俺はレオンの剣を聖剣で受ける。

 キンキンキン!! と聖剣同士がぶつかって火花が散る。

 やばい、食らうつもりないし、なんとなく受けれるけどフツーに怖い。

 それに、ぶっちゃけるとレオンとかよりもヤバイのが近くにいる。


「レオンくぅぅん!! 負けないでっ!!」


 夢見レイナ。なぜか瞳が赤くなり、聖女っぽいローブではなく黒いビキニを着て素肌にマントを付け、ミニスカートにとんがり帽子を被っている……なにあれ、聖女から魔女にジョブ変更したのか?

 そしてもう一人。


「へえ……まさか『摸倣コピー』にここまで馴染む人間がいるなんて」


 黒いローブ、片眼鏡、エメラルドグリーンの髪、金色の瞳。

 スリットの深いチャイナドレスみたいな服を着た、俺らとタメくらいの女の子だ。エルフっぽいけど……なんだろうか、アレはヤバイ気がする。


「有馬……いや『魔王アリマ』!! オレはお前を倒す!!」

「いや魔王、いや魔王アリマってダサい……ああもう、なんでこうなったんだぁぁ!!」


 さて、そろそろ。

 なんでこんなことになったのか……回想スタートします。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 早朝、俺は修復されたばかりの自室で目を覚ます。

 ベッドにはマオ……この子最近、ミュウやエリじゃなくて俺のベッドに潜り込むんだよな。可愛いし別にいいけど。

 俺はマオをネコミミを揉む。


「にゃう……」

「朝だぞ、起きて朝食にしよう」

「ごはん……」


 マオが起きると、ベッドから降りてフラフラと出て行った。

 俺もベッドから起きて着替えをする。

 ベッドを見て思う……寝具や部屋の調度品、前より立派になった。なんでも『今度はそう簡単に燃えないよう、硬く火の付きにくい木で作った』とドワーフの皆さんが力瘤見せつけながら言ったのだ。

 

「ふぁ~あ……」


 欠伸をすると、ドアがノックされた。


「あの、ご主人様……朝ご飯です」

「ああ、ありがとう。レクス」


 レクス。

 執事服を着たイヌ耳の少年だ。魔族と人間のハーフで歳は十三歳。

 引き取った『ハーフ』の子供たちの中で一番年上で、子供たちを守っていたらしい。

 子供たちは現在、数人のグループに分けて、犬猫たちと一緒に暮らしている。今はまだ身体を癒す時で、動けるようになったら畑や鍛冶、建築や家事手伝いなどの仕事をさせる予定だ。

 まあ、エリやミュウが子供たちの面倒見てるし大丈夫。


 レクスは、俺の屋敷で執事見習いとして働くことになった。

 なんでも『みんなを守るためにご主人様の元で勉強させてほしい』らしい。ケルベロスを見て一目惚れしたらしく、弟子入りまでした。

 まあ、どっちもイヌ耳だし……ケルベロスもまんざらじゃなさそうだ。

 一階に行くと、エリとミュウが食事の支度をして、マオが子供用の椅子に座って船を漕いでいる……朝に弱いのか、マオは眠そうだ。

 俺も手伝おうとしたが、ミュウに「ご飯は妻の仕事!」と言われて手が出せない。エリが手伝っているのは対抗してるからで、決して妻ではないからな。

 朝食は、焼き魚にパン、スープに野菜炒め、そして牛乳だ。

 

「あれ、牛乳……牛なんていたっけ?」

「これ、魔獣のミルクだよ。ブルホワイトバイソンっていう牛で、キレるとめちゃくちゃ強いけど普段は温厚な牛なの。天仙猫猫さんと一緒にお散歩してたら群れを見つけてね、襲い掛かってきたんだけど……なんだっけ、仙術だっけ? 天仙猫猫さんが魔法使ったら大人しくなって、連れてきたの」

「へえ……仙術、便利だな」


 ちなみに、ドワーフたちが速攻で牛舎を作り、今ではのんびり過ごしているらしい。

 ブルホワイトバイソン。白黒ブチのデカい牛……牛乳を飲んでみると、普通の牛乳よりも農耕だ。

 異世界テンプレならチーズやバターなど作るんだが、俺にそんな知識はない。話の都合でたまたまそういう知識持つ主人公いるんだけど、俺は違うので悪しからず。

 朝食を終えて外に出ると……ああやっぱりだ。


「主、おはようございます!!」

「「「「「おはようございます!!」」」」」

「「「「「おはようございます!!」」」」」

『『『『『にゃあ!!』』』』』

『『『『『わおーん!!』』』』』

「うおっ」


 ドラゴニュート、ハーフの子供たち、犬猫たちが揃っていた。

 俺が朝食を喰っている間に集合し、俺が家を出ると一斉に挨拶……ほんとやめてくれ。

 ザレフェドーラさんが今日の予定を説明する。


「メインは住居建築組、農耕組、酒造組と分かれて作業します。他にも街道整備、狩猟、鍛冶と分かれますが……主は何かやる作業ありますかい?」

「そうだなー……とりあえず、みんなの仕事を見ながら手伝うよ。あ、元気になった子供たちも何人かいるんだ」

「へい。まだ動けないモンもいますが、カミさんたちが見ているんで安心ください」

「わかった。じゃあ、子供たちにも希望を聞いて、仕事を手伝わせてやってくれ。ああ、子供たちには休み時間をいっぱいあげて、遊ぶようにもしてくれ」

「へい!!」


 子供は遊ぶのも仕事だしな。

 さて、スマホやゲームもないし……俺でも知ってる遊びを教えるか。

 サッカーとか野球、ボードゲーム……うーん、オセロやチェス、将棋はやったことあるが、盤面とかマスの数よくわからんな。

 まあ、適当にボールでもドワーフたちに作ってもらうか。

 

「では!! 作業開始!! 野郎ども、働くぜぇ!!」

「「「「「おおおおおおおおお!!」」」」」

「ひぃっ!?」


 び、びっくりした……なんか働くというか、殴り込みでも行くような気合いだな。


 ◇◇◇◇◇◇


 作業開始から数時間、俺は見回りを終え、エリとミュウとマオ、そして護衛のケルベロス、天仙猫猫たちと村の入口に来ていた。


「ね、なんで入口に来たの?」

「お兄ちゃんを迎えるためよん。ね、ケイ」

「ああ。精霊魔法だっけ……俺もスキルを得たら、なんかフォルテの声が聞こえるようになったんだよな」

「ふふん。ケイ、エリを抜いて秘密の会話しな~い?」

「はあ!? ちょっとケイ、のけ者したら蹴るからね!!」

「にゃうー、けんかだめー」

「ほほほ、猫娘……これは痴話喧嘩。してもいい喧嘩じゃよ」

「やれやれ。む……主」


 と、ケルベロスが何かに気付く。


「ん、どうした」

「……妙な気配だ」

「え?」

「……これは。ほう、犬も気付いたかの」


 天仙猫猫も気付いた。

 そして俺も。街道のど真ん中を歩いて、数人こっちに来た。

 まさか、また勇者じゃないだろうな……ったく、めんどくさい……って、あれ?

 こっちに来る五人組……すっごく見覚えあった。


「───……有馬」

「え、黒鉄レオン? え、なんでここに?」

「……これは、まさか」


 黒鉄レオン。

 俺のクラスメイトで『勇者』だ。

 なぜかキョロキョロして、俺を見て歯を食いしばり、拳を握る。


「鎧塚、相川、夢見と……あと誰? え、なんでここに。ファルーン王国のお使いか?」

「有馬……!!」


 黒鉄レオンは俺を睨み、俺の質問を無視して叫んだ。


「お前!! 何を考えてるんだ!!」

「は?」


 いきなり現れ、いきなり怒鳴られる俺……え、なにこれ。どういうこと?

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