人は見かけ通りじゃない
「おおお、ついに完成したか!!」
念願のシャワールームを手に入れた!!
ノームに掘ってもらったため池には川の水が引かれ、中には魔石が入り常にお湯が沸いた状態だ。雨やゴミなどが入らないように、ため池を囲うように壁や屋根も作ったし安心だ。
そして地中に埋めたパイプを通り、すぐ近くにある横長の大きな家……シャワールームに湯が引かれる。
シャワールームは男女別で個室。
俺が考えた通りのシャワーヘッドが付けられ、バルブを捻るとお湯が出てくる仕組みだ。
温度管理とかは、ため池の管理人……いや、管理を任せたデブ猫のゴンベエに任せた。どうやってるかは知らないが、ゴンベエに管理を任せたおかげでお湯は適温である。
俺はドワーフのゾップさんと握手。
「ゾップさん、ありがとうございます!! 日本人といえばシャワーですよ!!」
「お、おう……よぉわからんが喜んでくれたなら嬉しいぜ」
感激していると、エリとミュウ、マオと天仙猫猫、ケルベロスが来た。
「しゃわー、だっけ? お風呂の代わりらしいけど……いいの、これ?」
「アタシはケイが嬉しいなら嬉しいかもっ」
エリは半信半疑、ミュウはとにかく喜んでくれた。
ふん、シャワーの素晴らしさを知らんとは損してるぜ。
「主。個室では危険から守れん……オレも同席していいか?」
「ふふん、それなら妾もじゃな」
「にゃあ。わたしもご主人さまと一緒がいいー」
悪いがダメだ……男二人で個室のシャワーとか地獄すぎる。
天仙猫猫とマオもダメ。女の子だしな!!
「さて、とりあえず……早速シャワーを浴びるかな!!」
「じゃああたしも」
「アタシもっ」
「にゃうー」
「ふむ……濡れるのは好きではないんじゃがの」
「おい猫。濡れるのが嫌なら引っ込んでいろ」
ケルベロスと天仙猫猫、相変わらず仲が悪い。
俺は二人をなだめ、ケルベロスと一緒に男シャワールームへ。
脱衣所で服を脱ぎ、そのまま個室シャワールームのドアを開ける。
バルブを捻るとお湯が出てきた……おおお、これこれ。
「はぁぁ~……気持ちいい」
シャワーを全身で浴びる……至福。
異世界テンプレでは『温泉!!』とか『風呂だ風呂!!』なんて言うが……俺からすれば年寄りの発想だ。現代人はシャワーでいい。
シャワーヘッドから出る強めの湯を浴びると気持ちいいし、頭をガシガシ洗うとサッパリする。
あとはシャンプーとか欲しい……でもまあ、そこまでは望まない。
今度、フォルテに石鹸とかシャンプーとか聞いてみるか。
「にゃうー」
ん、猫?
そう思い、振り返ると。
「にゃあ、ご主人さまー」
「ぶっ!? おま、マオ!?」
マオがいた……裸で。
やばい。幼女はやばい!! そう思っていると。
「これこれ猫娘。主に迷惑をかけるでない」
「ぶっひゅ!? ちょ、天仙猫猫まで!?」
天仙猫猫もまずい!!
やばい、お姉さんの裸もまずい!!
「貴様!! 主から離れろ!!」
「げっ!? けけ、ケルベロスまで!!」
ケルベロスはある意味まずい!!
褐色イケメン美男子の裸……いや、これに反応するわけないな。
すると、全裸のケルベロス、全裸の天仙猫猫が隠しもせずに向き合い睨み合っている!! なんだこいつら羞恥心ないのかい!!
「猫め。主を誘惑するつもりか?」
「はっ、想像力が貧困じゃの。その粗末で醜いモノを斬り落としてやろうか?」
「ふん、猫の爪ごとき。オレの牙で噛み殺してやろうか」
「にゃあ」
「ま、マオはこっち。タオル巻いてな」
「にゃ、ご主人さま、髪の毛あらってー」
えー……全裸のイケメンと美女がにらみ合う中、俺はネコミミ幼女の髪を洗うという妙な体験をするのだった……というか、シャワールーム狭い。
◇◇◇◇◇◇
ひどい目にあった。
とりあえず、ケルベロスと天仙猫猫は喧嘩禁止。今度喧嘩したら問答無用で召喚を解除し二度と呼ばないと言ったら大人しくなった。
今は反省のため、二人を同じ部屋に閉じ込め、ケルベロスには猫、天仙猫猫には犬のブラシがけをやってもらっている。
その間、護衛はエリとミュウに任せることにした。
「あんたも災難ねー……あの二人、大丈夫なの?」
「犬猿の仲。犬と猿っていうか、犬と猫だけどな」
「ケイってば面白い言葉使うね。ふふ、おもしろいわー、ねえエリ」
「そうね。あれ? マオちゃんは?」
「猫と犬のブラッシング手伝いしてる。ケルベロスと天仙猫猫の間に入れれば喧嘩しないかなって思って」
とりあえず、シャワールーム完成したし俺の快適ライフに一歩近づいた。
今は村の散歩中……ドラゴニュートたちがデカい丸太を担ぎ、ドワーフたちが加工、建築。犬たちはその補佐をして建物を作っている。
その様子を三人で眺めていると、ミュウが何かに気付き、耳を澄ませる。
「……ケイ。お兄ちゃんから連絡。三日後くらいに物資届けに来るって」
「そっか。というか、どういう連絡方法だそれ?」
「お兄ちゃんが使役するシルフが風で教えてくれるの。盗聴されないように、魔法で隠蔽してさらに暗号浸かってるけどね」
「ほお、便利だな」
「それと、もう一個情報……なんか、奴隷商人がシャオルーンに向かったらしいわ。たぶん、そっちに向かってるって」
「はあ?」
奴隷商人? そう聞き返そうとした時だった。
猫一番の俊足であるハヤテが俺の元へ。
『ご主人様!! 子供を大量に連れた大人が来ました!!』
「タイムリーな話だな……まあいいや、行ってみるか」
エリ、ミュウを連れて村の入口に向かうと……そこにあったのは大きな馬車。
馬車には子供たちが載っている。そして、御者席に座っていた身なりのいい男が降りて来た。
「初めまして……ぐふふ、あなたが噂の『王』ですかな?」
「う、噂?」
というか……な、なんだこいつ。
典型的な『奴隷商人』って感じだ。身なりのいい恰好に、脂ぎった顔、イボだらけで、薄い頭皮、短い髪をオールバックにして、ガマガエルみたいな声をした男だ。
「私、奴隷商人のデップリッチと申します。ぐふふ……捨てられた地であるシャオルーンで新たに建国をした異世界の王とは、あなたのことですかな?」
「…………はい?」
なんじゃそりゃ……というのが俺の反応だった。
建国? 王? なにそれ初耳。
するとミュウが前に出た。
「そうよ!! そしてアタシは第一夫人のミュウ!! あなた奴隷商人ね? 何の用?」
「もちろん、商売でございます……こちらの商品、買い取っていただきたく」
馬車から下ろされたのは、子供たち……だが、なんか妙だ。
子供たちは全員、獣人みたいだった。
尻尾やツノ、ネコミミ、イヌミミ、牙の生えた子供や爬虫類みたいな子、翼の生えた子供なども多い。
エリが言う。
「……ハーフの子たちね」
「ハーフ?」
「ええ。ケイも知ってる通り、ハーフってのは忌み嫌われるのよ。金持ちや貴族が道楽で獣人を抱いて産ませた子供で、人間でも獣人でもない子は、その子を産んだ親ですら忌避する。そして、捨てられる……そういう子を奴隷商人は拾って安く売りつけるの。労働力でも、愛玩具でも、自由に使えるからね」
「…………」
異世界あるある……『命は軽い』ってやつだ。
聞くだけで胸糞悪い。というか、そんな子供を俺に売りに来たのかよ。
奴隷商人……デップリッチは頭を下げる。
「どうでしょうか。ぐふふ、きっとお役に立つと思いますよ」
「…………」
「……お代はお客様が決めていただき結構です。お金がなければ品物でも構いません。ぐふふ、アグニルーン王国を脅した時のように『力』で手に入れるというやり方は遠慮してほしいですな」
アグニルーン王国を脅したってのはわからんが……こいつはきっと、俺が拒否すれば別の場所へ売りに行くだろうな。
嫌なやり方だ。どういう扱いをしようが、きっとこいつは俺が買うと思っている。
魔獣の素材は山ほどあるし、金になるってフォルテは言ってた。
労働力はまだ足りないし、人手は欲しい。
子供の数は二十人くらいか……ああ、もうこんなことばかりだな。
「わかった。全員買うよ。金はないから魔獣の素材でいいか?」
「ええ、構いません。ぐふふ、お買い上げありがとうございます」
「……その代わり、二度とここに来るな」
「……かしこまりました」
子供たちを馬車から下ろすと、デップリッチは馬車に乗り込もうとする。
すると、子供の一人がデップリッチに向かって走り出した。
「おじちゃーんっ!!」
「うおっ……こ、こらレドル。もうわしはお前の親じゃない!! 向こうに行け!!」
「やだあ!! おじちゃんだけだもん、おじちゃんだけがぼくらに優しくしてくれて……どうして、どうして売るの? ぼくたち、じゃまなの!?」
「「「「「おじちゃーんっ!!」」」」」
なんと、子供たちがデップリッチに飛び込んでいく……え、なにこれ。
デップリッチは困ったように、でも泣きそうな顔になった。
「……何度でも言うぞ。いいか、ファルーン王国ではお前たちは幸せになれない。なら、人と魔族が住まうこの地でならやり直せる。国王陛下ならきっと、お前たちを幸せにできる」
「でも、でも……」
「ぐふふ……わしはお前たちの幸せを祈っておるよ。しっかりと、強く生きろよ」
えええ……デップリッチ、いいヤツじゃん。
いかにも『悪徳奴隷商人』って感じの見た目なのに、メチャクチャいい人。
エリとミュウもポカンとしているし……なんか異世界テンプレって役立たない時あるな。
俺は決めた。
「あの、デップリッチ……さん」
「……何でしょうか」
「そのー……さっきの撤回で。やっぱ来ていいです。それと、奴隷商人っていうなら、まだこういう子供たちとか、行き場のない人たちいますよね?」
「え、ええ……」
「そういう人たち、連れてきてください。見ての通り開拓始まって人手が足りないので」
「……こ、国王陛下」
「あと俺、国王陛下じゃないっす。いいですか?」
「わ、わかりました。お望みのままに」
「それと……今日は泊まってください。子供たちと一緒に」
「……ありがとうございます」
こうして、村に『ハーフ』の子供たちを受け入れることになった。
仕事はいっぱいあるし、みんなやる気ありそうだし、こっちとしても大助かりだ。
というか、国王陛下とか建国とか、どういうこった?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます