日本人といえば『風呂』だが俺は断然『シャワー』だね

 さて、ぶっ壊された建物、二度目の修復が始まった。

 今回は犬、ドワーフ、ドラゴニュートたちの三種族スタートだ。修復はもちろんだが、防備も大事ということで、狩り専門の猫たちからさらに警備部隊を発足した。

 警備部隊のリーダーであるハチワレ猫のハッチに俺は言う。


「いいかハッチ。村に近づく魔獣とかなら倒していい。でも、勇者みたいな『強い人間』と遭遇したら、戦う前に『報告』するんだぞ。お前たちが無理することないんだからな」

『わかりました。ご主人様』


 いや、マジでそう。

 猫だぞ猫。こんな可愛いネコを戦わせるとか正直嫌なんだよな……でも、狩人としては優秀すぎるし、シャオルーンに住む魔獣も楽々狩ってくれるから大助かり。

 ちなみにシャオルーン領地。魔獣が増えすぎているらしく、他の四つの領地の国境付近ではかなり苦労しているらしい……毎日が魔獣討伐の日々だとか。

 ハッチは猫たちを連れて村の外へ。狩りメインではなく、警備メインの仕事が始まった。


「おーいケイ、ちょっといいかな」

「ん、なんだミュウ」

「あのさ、お兄ちゃんから連絡あって、必要な物資なんかあれば言ってくれって」

「物資……着替えとか食料かな。畑は荒らされてアースタイタンが耕してるし、酒は無事だったから大丈夫……あ!!」

「わ、びっくりした……いきなりデカい声出さないでよ」

「あのさ、ちょっと聞いていいか? シャワーってわかる?」

「は? なにそれ」


 ……悲報。やっぱこの世界に『シャワー』はなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、シャワーだ。

 異世界あるあるでは『日本人は風呂!!』なーんてお決まりセリフ吐く野郎がいるけど、俺は断然シャワー派だね。

 湯船とかめんどくせえし……まあ、もうちょい歳重ねれば楽しめるんだけど。

 神地魔法を使って『温泉探知』とかできるかもしれないけど、野生の温泉に浸かってそのまま死んだ……なんて話もあるし、絶対に嫌だ。

 そもそも、そんな都合よく温泉あってたまるかよ!! 成分分析してから浸かれ!!


「……ケイ、どうしたの?」

「あ、ああ悪いミュウ。あのさ……この世界でお湯ってどうやってわかす?」

「そりゃ火で沸かしたり、魔石で沸かすじゃん」

「ふむ。ん? 魔石?」

「魔石は魔獣の体内にある物質よ。それ、魔力の塊だから、簡単な命令なら魔力で動かせるの。たとえば、水を入れたポットに魔石はめ込んで『お湯にしろ』って命令すると、魔石の魔力が熱を持ってお湯になったりする」

「ほうほうほう……じゃあ、水を吸い上げろとかは?」

「なにそれ。試したことないけど、できるんじゃない?」

「……ちょっと考え整理する」


 さて、ここで俺にあるアイデアが浮かんだ。

 まず、川を分岐させて流れを作り『ため池』を掘る。そこに魔石を入れてお湯を沸かし、伸ばしたシャワーパイプに魔石をはめて『お湯を吸い上げる』ように命令……シャワーヘッドからお湯を出すという方法だ。

 あとはシャワールームみたいな個室を作って、中でシャワー浴びれるようにすればいい。


「おお、おお!! いいアイデアじゃん!!」

「わ、びっくりした。だからいきなりデカい声出さないでよ」

「悪い悪い。よしミュウ、ちょっと付き合ってくれ!!」

「ふふん。旦那様の頼みならいくらでも付き合うわよん。もちろん、アッチの意味でもね」

「それはまた後日。よし、行くぞ」

「え、え、後日ってマジ? ねえケイ!!」


 俺は鍛冶場で作業をしているドワーフの元へ急ぐのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ドワーフの鍛冶場。

 突貫で作った鍛冶場なんだが……なんかテレビで見たことある刀鍛冶の仕事場みたいなのが村の外れにあった。

 ここも、勇者たちに壊されたけど最初に修復したようだ。金属の釘とか大工道具とか作っているみたいだしな。

 ここ、ドワーフ二十人分の作業場があるみたいだが、今は五人しか作業していない。

 その中の一人、ドワーフのゾップさんが俺たちに気付いた。


「ん? おおケイ、どうしたんじゃ?」

「どうも。あのゾップさん……ちょっと俺のアイデア聞いて欲しいんですけど」

「おお? アイデア?」


 俺は地面に枝で絵を描く。

 シャワールーム。それを見てゾップさんは「ほお」と唸った。


「まあできるだろ。魔石も、猫たちが狩り集めたモンが山ほどあるしな。ため池も穴掘って側面を板で補強すればいい。シャオルーンの木はどれも頑丈だしな。パイプも問題はねえが……よくわからんのがこの『しゃわーへっど?』ってやつだ。なんだこの穴ツブ空いたモンは?」


 シャワー、マジでないんだな……この世界。

 入浴は基本的に貴族の特権。しかも広い湯船ではなくサウナみたいなやつで、身体にはかけ湯するだけみたいだ。

 他の国ではあるかもしれない。そもそも異世界の勇者がいるし、温泉とかシャワーとか欲しいとか騒いでいそうだ。

 少なくとも、俺の周りにはシャワーを知る者がいない。


「まあ作れるだろ。おーい!! ワシは少しケイの用事で抜ける。そっちは任せたぞ!!」

「「「「おう!!」」」」

「ケイ、物はワシが作っておくから、お前はお湯用の穴を掘っておけ」

「了解!!」


 すると、さっそくゾップさんは作業を始めた。

 職人の邪魔しちゃ悪いし、俺は俺にできることをやっておくか。

 まず、サモエドのマイケルの元へ。マイケルはでっかい犬小屋みたいな場所で、羊皮紙を広げて図面を眺めていた。


『おや、主』

「ようマイケル」


 マイケル……犬なんだよな。マジの犬。

 でも器用に椅子に座ってるし、もふもふした身体を机にくっつけ、ペンを咥えて羊皮紙に何か書き込んでる姿を見ると、可愛いとしか感じない。

 俺はマイケルに『シャワールーム』について説明。


『なるほど。それで大きな『湯貯め』の場が欲しいと。ふむ……では、こちらの川を分岐し、この位置に湯貯めを作りましょう。作業は……』

「ああ、そっちは任せてくれ」

『わかりました。では、この地図をお持ちください』


 マイケルから地図を受け取り、ミュウと一緒に現場へ向かう。

 村から離れた位置にある川だ。ここに分岐路を作り、ため池を作る。

 ミュウに地図を見てもらい、先導してもらう。


「えーっと……ため池の位置はここね。けっこう広いわね」

「よし……じゃあ早速やるか」


 ◇◇◇◇◇◇

 〇有馬 慧 

 〇スキル『模倣コピー』 レベル24

 ・現在『精霊導師フェアリーワイズマン』 レベル11

 〇パッシブスキル

 ・精霊視認 ・精霊言語

 〇使用可能スキル

 ・精霊魔法 ・精霊召喚 ・精霊化

 〇スキルストック

 ・蹴闘士 ・女神の化身クロ ・女神の化身シロ

 ◇◇◇◇◇◇


 スキルを『精霊導師』にセットする。

 アースタイタンでやろうと思ったが、あっちは作業中だ。使えば二体目が出てくるかもしれないけど、せっかくだし試してみたい気持ちがあった。


 ◇◇◇◇◇◇

 〇精霊召喚

 ・イフリート ・ノーム ・フェンリル

 ・ヴォルト ・ニンフィア ・ウンディーネ

 ◇◇◇◇◇◇


「よし。じゃあいくぞ、精霊召喚『ノーム』!!」


 大地といえばノーム。ゲームでもおなじみだ。

 召喚の魔法陣が展開。おお、魔法陣の色が黄色だ。

 そして、魔法陣の中心に現れたのは。


『もぐ!』

「…………」


 モグラだった。

 でけえ。二メートルくらいあるデカいモグラ。

 色が黄色のモグラだ。マジでモグラ。異世界っぽい感じがない。地球にいるモグラがただ黄色くなりデカくなっただけ。

 え、思ってたのと違う……そう思って見上げていると。


「だ、大地の精霊王ノーム様!! け、ケイ!! 早く跪いて!!」

「え、なんで」

「精霊王よ!? 六大精霊の一体!! 壁画で見たのと同じ姿!!」

「モグラじゃん」

「なにモグラって!? とにかく跪いて!!」


 ああ、この世界にモグラはいないのか……なんて思っていると、ミュウが俺の袖を掴んで無理やり跪かせた。


「大精霊ノーム様。お初にお目にかかります……私は」

『よい。エルフの娘。我を召喚せし者……貴殿は女神の使徒であるな?』


 黄色いモグラ、メチャクチャ渋い声だった。

 すると、モグラが逆に頭を下げた。


『お立ち下さい。貴殿には我を使役する権限がある。このノーム、どのような命令にも従いましょう』

「だ、大精霊様が、ケイに……人間に従うなんて」

「そんな驚くことなのか……じゃあその、ちょっとだけ触っていい?」

『どうぞ』


 俺は黄色いモグラを撫でる……すっげぇモッフモフ。もう柔らかくて最高。

 すると、ミュウが俺の背中を叩く。


「ば、馬鹿!! そんな気安く精霊王を触るなんて」

「でもモフモフだぞ。お前もどうだ?」

「お、恐れ多いわよ!!」

「ははは。っと……それよりノーム、頼みがあるんだ」

『なんでしょう?』


 俺はため池について説明。するとノーム、可愛らしい前足で地面をポンと叩く。

 その瞬間、地面に丸いラインがシュパッと走り、その円に沿って地面が陥没……すごい、完全な円形に陥没しちゃった。

 円の底を見ると、かなり深くまで陥没したようだ。


『いかがでしょう?』

「ちょ、ちょっと深すぎるかな……」

『では、少し上げます』


 今度は陥没した地面がゆっくり上昇……エレベーターみたいだ。

 そして、俺たちのいる地上からだいたい十メートルくらいの穴が完成した。

 ついでに、側面や地面を固めてもらう。叩いてみると金属みたいな質感となった。これ側面補強しなくても問題ないだろ。

 そして、川からため池までの分岐路を一瞬で掘ってもらう。こちらも魔法の力でやったので、綺麗な分岐路が完成。

 そして、合流したゾップさんが流れをせき止める水門を設置。ため池に水を貯め、水門で閉じた。これで水は溢れないし、お湯にできる。


『では、何かありましたらいつでもお申し付けください』


 そう言い、ノームは消えた。

 ゾップさんもため池を眺めつつ言う。


「野ざらしだとゴミとか雨とか入るな……よし、ここを囲って屋根も付けるか。あとはシャワールームだったか? その建物も作っちまおう」

「お願いします!!」

「おう。ははは、やったことねぇ仕事ってのは楽しいぜ」


 ゾップさんは嬉しそうに去って行った。

 よしよし、シャワールームまでもう少し!! 俺もわくわくしてきたぞ!!

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