そのころの勇者一行

 風の国エイルーン。

 森に包まれた領地内にある国であり、巨大な地面の割れ目にあるという変わった国だった。

 断層の間には常に風が吹いており、背中にグライダーのような物を背負って飛ぶエルフたちが多く見られた。

 レオンたちは、エイルーン王国の入口に立ち、断層にある城下町を眺めている。


「すごい光景だ……まさかこんな地面の割れ目に国を作るなんて」

「それだけじゃねぇぞ。パラグライダーみたいなので飛んでるぜ!! なあなあ、オレもやりたいぜ!!」


 レオンは感心、鎧塚は子供のようにワクワクしていた。

 勝手にファルーン王国を飛び出した身だが、今はもう忘れて目の前にある冒険を満喫しているようだ。

 すると、セイラが言う。


「ねぇねぇ、入国しようよ。アタシお腹空いたー」

「そうだな……あれ、レイナは?」


 レオンがキョロキョロするが、夢見レイナがいない。

 鎧塚は、微妙な表情で言った。


「なあ……夢見の奴だけどよ、最近さらにおかしくなってねぇか? いきなり奇声あげるし、祈ったまま何時間も動かねぇし」

「……それは、まあ」

「エルフって魔法がスゲーんだろ? 一度、医者に診せた方がいいんじゃね?」

「鎧塚にしてはまともな意見じゃん。レオンくん……アタシも賛成」

「セイラもか……」

「レオンくんも同じこと考えてるでしょ? レイナ……やっぱりおかしいよ。正確にはその、有馬の奴にいろいろ言われてからだけど」

「有馬か……あいつが何かしたのか?」


 レオンは拳を握る。すると、夢見レイナが戻って来た。


「みんな!! 入国していいってさ!! それと、王様に謁見できるようお願いしたから!!」

「は? お、王様って……レイナ、何を言ったんだ?」

「わたしたちがファルーン王国の勇者で、エイルーンのためにがんばるって言っただけだよ?」

「そ、そう……なのか?」

「うん。エイルーン王国の勇者たちもいるし、挨拶しないとね!! さ、レオンくん!!」

「あ、ああ」


 レオンだけは、気付いていた。

 最近、レイナの眼が……たまに、赤く輝くことに。


 ◇◇◇◇◇◇


 王国に入るなり、いきなり国王との謁見。

 兵士に案内され、四人がやってきたのは王宮。断層の中心にあり、巨大な鎖で支えられた城だ。

 ファルーン王国よりも古そうな外観の城で、近付いてみるとそれほど大きくない城だった。

 そして、城の入口には四人の男女がいた。


「ようこそ後輩たち、エイルーン王国へ」


 青年だった。

 レオンに手を差し出す体格のいい若者。レオンは何度も青年を見て気付く。


「まさか……日本人、ですか?」

「ああ。エイルーン王国に召喚された勇者、桶川晴臣だ。十六歳で召喚されてもう六年、今は二十二歳の『勇者』さ」

「ろ、六年……」

「こっちは俺の仲間。ファルーン王国のことは聞いてるよ。まさか、クラス丸ごと召喚するなんてなぁ……オレらはたった四人だってのに」

「……でも、すごく強いですよね」

「ははは。まあ、六年も戦い続けてるしな。現在、俺はレベル71の勇者だ」

「なっ」

「大丈夫。きみもすぐにレベルが上がる」


 と、レオンはようやく晴臣が伸ばした手に握手をしようとした……が。


「触らないで!!」

「おっと」


 なんと、夢見レイナが晴臣の手を弾き、威嚇するように唸り出した。

 

「れ、レイナ!! おい、何してるんだ!!」

「フン!! 真の勇者であるレオンくんに気安く触らないで!! あなた程度の勇者、レオンくんがすぐに倒すんだから!! ね、レオンくん!!」

「ば、馬鹿言うな!! す、すみません!! その、レイナが失礼を」

「謝らないで!! わたしの勇者が謝るなんてあり得ない!!」

「お前もう黙れ!! 申し訳ございません。申し訳ございません!!」

「お、おお」


 晴臣も驚いていたが、レオンが何度も頭を下げるので逆に申し訳なくなった。

 なので、とりあえず話を進める。


「国王陛下に謁見だったな。それにしても……どうやって謁見許可取ったんだ? 陛下は多忙で、謁見の順番は二ヵ月後までいっぱいのはずなんだが」

「……えっと」


 レオンは答えられない。

 夢見レイナを見ると、鎧塚に抑えられ、セイラが猿ぐつわを噛ませているところだった。

 晴臣は言う。


「まあいいが……きみの彼女、情緒不安定のようだ。精神的な病気かもしれん……王宮薬師のエルフに薬を調合してもらうよう手配しておくよ」

「申し訳ございません……本当に、ありがとうございます」

「いいさ。はは、若いっていいな……オレも歳を取ったと実感するよ」

「うー!! うー!!」

「おい夢見、落ち着けって!!」

「レイナ、本当にどうしちゃったの……?」


 夢見レイナがおかしくなっている。レオンはもう笑うことができず、不安そうにレイナの傍へ付き添うのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 レイナが大人しくなると、ようやく謁見が始まった。

 ちなみに……どういう理由で謁見をするのか、レオンも鎧塚もセイラもわかっていない。そもそも、エイルーン王国に来たのは仲間を探すためだった。

 謁見が始まると同時に、国王が言う。


「さて、ファルーン王国の勇者よ……そなたたちは何を望む?」

「頭脳明晰なエルフを旅の仲間にしたいんで、誰か紹介してください!!」

「わかった。では、王宮司書であるラーズハート……彼女を仲間にするといい」

「ありがとうございます!!」


 ちょっと待て、とレオンは叫びたかった。

 そもそも、なぜこんなあっさりとレイナの頼みが通る。まるで茶番のような謁見だった。

 鎧塚は首を傾げ、セイラも困惑している。

 レイナと国王の芝居……そう見えもした。そもそも、周りの家臣やエルフの兵士も驚いていた。

 そして、王宮司書が入って来る。


「お呼びでしょうか……国王陛下」

「───っ」


 その女は、黒いローブを纏っていた。

 フードを外すと、エメラルドグリーンの髪がなびき、シンプルな片眼鏡がきらりと光る。

 ローブ下はシンプルなドレスであり、スリットの深いスカートを履いていた。胸も大きくスタイル抜群だが、顔立ちが幼く見えるのでレオンたちと同世代と言っても疑う者はいないだろう。

 美少女……だが、レオンは感じた。


(こ、この子……や、ヤバい)


 恐ろしく冷たい汗が背中を流れる。

 本能が警戒していた。この司書……エルフ族のラーズハートは、危険すぎると。

 だが、レイナは笑って……なぜか跪いていた。


「あなたが、声の方ですね?」

「そうよ。よく聞いてくれたわね……レイナ」

「はい!! これから一緒に冒険できるんですね。うれしいです!!」

「ふふ、私も……そうよね、レオン?」

「っ!!」


 ラーズハートの笑みを見た瞬間、レオンは全身が硬直したような気がした。

 すると、国王が笑う。


「はっはっは!! さあさあ客人よ、今日は王城に部屋を用意した。ゆっくり休んでいくといい」

「はい!! ラーズハートさん、今日はゆっくり休んで、明日から一緒にがんばろうね!!」

「ええ……ああ、私行きたいところがあるの。最初の目的地だけど……私が決めていい?」


 ラーズハートはレオンに言う。レオンは震えないよう、頷くしかなかった。


「シャオルーン……ここに、私の運命の相手がいるわ」

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