第五章

アグニルーン王国の勇者を退けて

 アグニルーン王国。

 砂漠地帯最大の王国。五大国で『火』を司る王国が今、滅亡の危機にあった。

 それは何故か? 

 理由は簡単。アグニルーン王国最大最強の戦力である勇者一行が、ズタズタボロボロのメチャクチャボッコボコに痛めつけられ、アグニルーン王国の正門前に鎖でがんじがらめにされ転がっていた。

 そして、それを運んできたのは……犬。

 

『警告だ、アグニルーン王国よ』


 そのサイズ、一国レベル。

 大犬モザドゥーグ。慧たちの前に初めて召喚された時の数十倍。

 前足を上げて踏めば、アグニルーン王国の十分の一が踏み潰される。

 全長数キロはある巨大な『犬』が、王城に向かって顔を近づけて言う。


『我らの主は平穏を望んでいる。この不届き者たちを差し向け、主を傷付けようとした罪は重い』


 言葉が理解できる。同時に、戦いを挑めば死ぬことも理解できた。

 

『主は国を作る。いいか、我らは何も奪わん、求めない。だから、手を出すな。手を出せば……主が何もせずとも、主の眷属である我が許さん』


 巨大な犬は、口を開け牙を見せつける。 

 ちなみに王城のテラスに王らしき人物がいたが、モザドゥーグは気にしていない。


『シャオルーンは、我らが主の国である。いいか……今回は許す。だが次、このような不届き者を送り込んでみろ……その時はこの牙、爪が全てを蹂躙するであろう』


 それだけ言い、モザドゥーグは顔を引いた。

 そして、巨体のまま、シャオルーン領地へと帰って行った。

 テラスにいた王は何も言えず、自分の足下がビシャビシャになっていることにようやく気付いた……とんでもない量の失禁をしていたのである。

 そして、振り返ると、似たような者たちが大勢いた。貴族、宰相、王妃などである。


「…………ま、まずは着替えだな」


 シャオルーンにいる『何か』に手を出せば死ぬ。それを回避するためにまずは『着替え』をしようと、王たちは歩き出すのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「ふぁぁぁ~……んん、よく寝た」


 アグニルーン王国の勇者襲撃から一夜明け、俺はテントで起床。

 

「……ん? ああ、入って来たのか」

「にゃ……」


 なんか小さな子がいると思ったら、数匹の猫とマオがいた。

 俺の布団に潜り込んできたようだ。かわいいやつめ、このネコミミめ、このこの。


「にゃう……ふにゃぁぁ、ご主人さま」

「おはよう。さ、顔を洗って朝ごはんにしよう」

「にゃうー」


 ネコミミを触りすぎて起きてしまった。とりあえず、犬猫たちのご飯を魔法で用意するか。

 テントの外に出ると、すでに犬猫たちは揃っていた……が、みんな元気がない。

 ドワーフ、ドラゴニュートも全員起きていた。というか、みんな俺のテント前に並んでいるし、なんか俺が起きるの待ってたみたいだ……なんか寝起きで恥ずかしいんだが。


「……我らの主」

「は、はい」


 ザレフェドーラさんが跪く……な、なんだろ。

 ちなみにザレフェドーラさん。『超越化』を解除したらトカゲみたいな姿に戻った。


「我らは、情けない」

「はい?」

「村を守れず、同胞を守れず、同士を守れず生き恥を晒しています。死した者は主によって蘇生し、傷を負った者は主が治し……無能という罰を晒しています」


 お、おっも……何言いだしてんだこの人。

 ちなみに勇者襲撃の後、怪我した犬猫やドワーフ、ドラゴニュートたちは治療した。死んだドラゴニュートもいたけど……蘇生魔法使ったら生き返りました……マジで俺神様みたい。

 でも蘇生は条件があり、死んで一日経つともう蘇生しないみたい。あまりに万能すぎても怖いので、ちょっとだけ安心した俺であった。

 だが、建物はそうじゃない。


「全て、なくなってしまいました。主が築いた物が全て……」

「あ、あ~……まあ、大丈夫ですよ。みんな無事だったし、建物は何とかなりますって。今までは犬猫たちにお任せだったけど、ドワーフの皆さんもいるし、すぐ直りますよ。アースタイタンもいるし」


 ちなみにアースタイタン。勇者襲撃のちょっと前に『メンテナンスモード』に入り、勇者襲撃では完全に動かない状態だった。もしアースタイタンが『迎撃モード』になれば勇者たち殺してたみたいだし……ある意味ではよかった。

 俺は手をパンパン叩く。


「えー!! とにかく!! みんな無事でよかった!! さて、建物も作り直しだし、今日からまた忙しくなる!! みんな、いっぱいメシ食って頑張ろう!! はい終わり!! メシ!!」


 俺がそう叫ぶと、ようやくみんな動き出した。

 あー……アグニルーン王国の勇者連中め、もう二度と来るなよ!!


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、みんな作業している中、俺はエリとミュウとマオの三人を呼んだ。

 エリはマオを抱っこして、ミュウは早朝の狩りから戻ったばかり。

 エリは、俺の後ろに立つ二人を見て言う。


「そういやケイ……その二人、まだいたんだ」

「ああ。改めて紹介する。こっちの背の高いワイルドクール系イケメンがケルベロス、こっちの猫お姉さんが天仙猫猫テンセンニャンニャンだ」

「にゃんにゃん!!」


 マオが天仙猫猫を見て嬉しそうにしていた。

 

「この二人、これから俺の護衛をすることになった……らしい」

「護衛? んー……それ、アタシじゃないの?」

「お前では役不足だ」


 と、ケルベロスが言う。

 エリがカチンとするが……まあ、そうだよな。


「……こいつ、無茶苦茶強いわね。くそ、言い返せないじゃん」

「当然だ。主、これからはオレが身の安全を守る。主の従順な犬となろう」


 その言い方ちょっとやめて欲しい。

 いつの間にかマオを抱っこしている天仙猫猫を見る。


わらわもお主を守ろう。ふふ、猫娘もいるしな」

「にゃうー、にゃんにゃん」

「ふふ、可愛いやつめ」


 うーん、猫美女と猫少女が戯れている姿はなんかいいな。

 ケルベロスがフンと鼻を鳴らす。


「護衛はオレで十分。猫は必要ないと思うがな」

「ほう、尻尾を振るしかできない犬に主が守れるとは思わんがの」

「……試してみるか?」

「やめておけ。自慢の尻尾を刻まれたくはあるまいて」

「ちょ、待った待った!! 険悪になるの禁止!!」


 この二人、相性悪い……護衛としては絶望的じゃね?

 

「エリ、やっぱお前も一緒にいてくれよ……なんかこの二人怖いんだよ」

「いいけど、ホントに戦いだしたらアタシじゃ無理。ってか死ぬ」


 こうして、俺に護衛が付いた。

 身の安全は大丈夫そうだ……だってこの二人、レベル280超えてるしな。

 

「あ、そうだ。二人のスキル……あれ?」


 ◇◇◇◇◇◇

 〇魔犬ケルベロス レベル285

 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇

 〇天仙猫猫 レベル283

 ◇◇◇◇◇◇


 スキルがない。

 名前とレベルだけだ。どういうことだろうか?


『この子たちは召喚獣だから、スキルはないのよ』

『でも、妖術や仙術を使えるから、スキルがないってことじゃないんだ。ケイ、きみがコピーできるのはあくまで、女神が人間に与えたスキルだけ。ま、ボクらは例外だけど』

「あ、クロにシロ」


 俺の足下に、黒猫と白犬がいた。

 二匹を見たケルベロス、天仙猫猫が素早く跪く。


『楽になさい。くぁぁ……ケイ、昨夜はめんどくさいことになったけど、無事に解決したようね』

「ああ。お前らのスキルのおかげだよ。それなければ終わってた」

『そ。じゃあ私は寝るから』

「……お、おう」


 クロは近くの木に登り、スヤスヤと寝始めた。

 俺はシロを撫でながら言う。


「とりあえず、また最初からやり直しだ」

『そうだね。ああ、一つだけ……悪女神フォルトゥーナだけど、人間の子を眷属にしたみたい。ボクやクロみたいな感じの子だね』

「……ああ、悪女神フォルトゥーナね。フォルトゥーナ」


 久しぶりに聞いた名前。ぶっちゃけいろいろありすぎて忘れてた。


『その子、フォルトゥーナの力に染まっちゃってかなりヤバいみたいだよ。しかもその子、ケイを狙ってるみたいで……』

「お、俺? ってか女神ってこのシャオルーンに近づけないんじゃ」

『眷属は別だよ。あと……まあうん、気を付けて』

「お、おう。なんだその歯切れの悪さ」


 なんか、また波乱がありそう……もう俺疲れてきたわ。

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