アグニルーン王国の勇者、襲来
村に戻る途中、モザドゥークが言った。
『……主。血の匂いがします』
「え?」
血の匂いって……鉄の匂いか?
ヘモグロビン臭いって意味なのかわからんが、何か嫌な予感がした。
そして、急ぐこと数十分。ようやく村に戻って来たのだが……なんとまあ。
「……マジか」
「う、うそ……」
村が燃えていた。
建て直した家が燃え、傷だらけのドラゴニュートたちが倒れ、犬猫たちも倒れている。
そして、傷だらけのミュウがヨロヨロと近づいて来た。
「お、おかえり~……えへへ」
「みゅ、ミュウ!! おい、何があったんだよ!!」
「あはは……なんか、変な連中が来てさ」
ミュウが倒れるが、エリがモザドゥークから飛び降り支える。
マオもモザドゥークから降りると、倒れた犬猫たちを抱きしめた。
そして、ドワーフのバルボンさんが血だらけで近づいて来る。
「よ、よおケイ……悪かった、守れんかった」
「ば、バルボンさん!! だ、大丈夫ですか!?」
「ああ……ゆ、勇者だ。アグニルーン王国の、勇者が……」
と、ここで気を失った。
俺はバルボンさんをそっと寝かせ、村を見た。
すると、村の奥から男女が歩いて来る。
「ふう、とりあえずこれだけ焼けばいいだろ。ま、新しい魔族の拠点を一個潰した、ってことで」
誰だこいつ。
二十歳くらいか、俺やエリよりも年上だ。
赤い鎧、赤い剣を持った男。雰囲気でわかった……こいつ、俺と同じ日本人だ。
そして、その仲間であろう四人も合流、入口に集まり、俺とエリ、そしてマオを見た。
「あん? なんだ、まだいたのか」
「……ん? ねえそこの男の子、もしかして……日本人?」
女性が俺を見て言う。
俺は頷き、言った。
「あんたら、日本人……勇者?」
「そうさ。きみもここを潰しに来た勇者かい? どこの国所属か知らないけど、ここはもう潰したから」
「……潰した、って」
「ドラゴニュートだよ。こいつら、オレらが取り逃がした魔族でさ、犬猫を使役して新たな拠点作ってたんだよ。しかも、妙にデカいゴーレムまで引っ張り出してさ。なんかメンテナンスモードとかで動かなかったし、とりあえず後で軍に運ばせる予定。悪いね」
赤い鎧の男は申し訳なさそうだった。
そして、その隣にる黒い鎧の戦士男が言う。
「お前もしかして、最近召喚されたファルーン王国の勇者か? 若いし、そうだろ?」
「…………」
「はは、緊張するな。オレらは四年前に召喚された勇者一行さ。お前らみたいに大勢じゃなくて五人で、今はアグニルーン王国所属の勇者として魔族と戦っている。というか……お前、魔族連れてるのか?」
戦士男の視線がマオに向く。
すると、弓を持った女と、魔術師っぽい女が言う。
「可愛いけど、魔族は駆逐しなくちゃいけないのよねぇ」
「そうそう。アタシらもだいぶスレてきたわ……もう可愛いのが相手でもフツーにヤれちゃうし」
すると、エリがマオの前に立ち構えを取る。
だが、震えているのか青ざめていた。
「ははは、現地人じゃ勝てないよ。そもそも、スキルレベルから違う。知ってるか? 異世界人はレベルの上昇率が現地人とは比べ物にならないんだ。オレは四年で『勇者』のレベル68まで上がったぜ」
赤い鎧の男がそう言い、エリに言う。
「その魔族を引き渡しな。きみも現地人ならわかるだろ? 魔族は、人間の敵なんだ」
「ふ……ふざけないで!! こんなひどい……アタシたちの村を!!」
「アタシたちの村? なんだきみ、魔族に与する現地人か? あー……アグニルーン王国じゃ、そういうのも粛清対象なんだけど」
「っ!!」
さすがに……これはちょっと、言うしかないな。
「あの、おじさんたち……いいっすか?」
俺は挙手。
すると、赤い鎧の男が俺を見た。
「ここの村、俺が責任者なんですよ」
「は?」
「俺、ファルーン王国から追放されて、ここシャオルーンで勇者が魔王を討伐するまで待ってて欲しいって言われて……それでまあいろいろあって、逃げてきた魔族とか、行く場所のない犬猫たちと一緒に、少しずつ開拓始めたんです。それなのにまあ……こんなことしてくれて」
「ああー……で?」
「魔族が悪とか、関係ないっすよ。ドラゴニュートの皆さんは親切だしカッコいいし、ドワーフのおじさんたちもみんな優しいっす」
「ははは。でもなキミ……魔族は悪なんだよ」
俺はまさか……このセリフを真面目な場面で言うことになるとは思ってもいなかった。
考え込むように頭を押さえ、ちょっとおどけて言う。
「でも……それってあなたの感想ですよね? 何かデータあるんですか?」
「「「「「…………」」」」」
いや、真面目に俺は言っている。
五人が黙り込んでしまったので、続けて言う。
「参ったな……あの、アグニルーン王国の勇者とか知りませんけど、勝手にこんなことしていいと思ってます? 開拓とか結構大変なんですよ。あんたらどんな生活してるか知らんけど、優雅にプールで泳いだり、トロピカルドリンク飲んだりバーベキューしたりしながら、国の要請で『魔族倒す』ってのやってるんでしょ? こっちの苦労も知らないで、土足で踏み込んできて荒らして……そんなんじゃ魔王なんて倒せないし、やられちゃいますよ」
「……ははは。で、きみはどうする? さっきも言ったけど……たとえ同郷でも、魔族に与するならオレらが裁くよ」
すると、俺の足元にシロとクロがすり寄って来た。
『ケイ、これが今の世界の現状だよ。異世界人が当たり前のようにこの世界の『力』なんだ。現地人を差し置いてね』
『女神様は言わなかったけど……こういう連中も何とかしてほしいと思ってるわね』
「……俺、こんな役ばっかりだな」
すると、勇者たちの背後からドラゴニュートのザレフェドーラさんが現れた。
血だらけで、片腕を失いながらも目をギラギラさせている。
「待て!! 貴様らは……絶対に、許さん!!」
「あれ、まだ生きてた。ドラゴニュートってしぶといわね」
魔術師風の女が言うと、黒い鎧のロン毛男がダルそうに剣を向けた。
そして、赤い鎧の男が言う。
「まあいいか。きみにわかってもらおうなんて思ってないし。とりあえず、邪魔しないでくれよ」
◇◇◇◇◇◇
さて、やることはきまった。
あんまり気乗りしないが、こいつらやっつけるか。
というか……犬猫たちをイジメて、さらに苦労して建てた家を燃やされた。畑も踏み荒らされているし、ドラゴニュートたちもやられている。
これは温厚な俺でもキレるよ。まあ俺の場合、怒鳴り散らしたり『テメェは許さねぇ!!』ってキレるキャラでもないし、そもそもレベル差あるから俺が向かうこともない。
ならどうするか? そりゃもう、人任せだ。
それに、いい機会だ。
「さて、助っ人呼ぶか」
◇◇◇◇◇◇
〇犬召喚
・魔犬ケルベロス ・霊犬ブラックドッグ
・聖犬ライラプス ・竜犬テジュ・ジャグア
・大犬モザドゥーグ ・神犬イヌガミ
◇◇◇◇◇◇
この中で強そうなのは……魔犬ケルベロスかな。
ついでに、強い猫も召喚してみよう。
◇◇◇◇◇◇
〇猫召喚
・猫又・金華猫・猫娘
・猫将軍・ケットシー・天仙猫猫
◇◇◇◇◇◇
猫将軍に惹かれるけど、天仙猫猫……こいつにしてみるか。
俺は両手を前に差し出す。
「あの、おじさんたち。これ以上やるなら、マジで容赦しませんよ」
「きみが戦うのか? うーん……レベル20ちょいじゃ相手にならないぞ?」
「いや、俺じゃなくて……こいつらです。来い、魔犬ケルベロス、天仙猫猫!!」
スキルを切り替え交互に召喚。
現れたのは犬と猫……あれ、いや違うぞ。
「召喚に応じて参上した。魔犬ケルベロスだ」
「フフフ……同じく参上、天仙猫猫」
……すっげぇクールワイルドの超イケメン男性と、すっげぇナイスボディの超絶美女だった。
ワイルドな男性は浅黒い肌で銀髪、黒いジャケットに黒いジーンズを履いている。手は指ぬきグローブで、頭には犬耳、そして黒い尻尾が生えていた。
美女はまあ……すっごい。十二単みたいな着物を着ているが着崩しており、肩が剥き出しだ。それに大きな胸の谷間も見えるし、大きなネコミミと長い猫尻尾も生えている。
神は綺麗な金髪で、俺を見る目がどこまでも色香に満ちていた……なんじゃこりゃあ。
「にゃあ……にゃんにゃん」
「おや、猫娘ではないか……どうしたのじゃ?」
「にゃんこ、わんこたちが……」
「ふむ……」
マオが天仙猫猫に抱きつき泣いてしまう。
ケルベロスは傷ついた犬たちを見て、小さく息を吐いた。
「主、あれを喰い殺せばいいのか?」
「ふむ……猫娘を泣かせた罪と、猫たちを傷付けた罪、死では温いのぉ……」
「あ、いやその、殺さないで欲しいです。はい」
思わず敬語の俺。やばいやばいやばいやばい、こいつらヤバすぎるかも。
するとエリ、俺の腕を掴む。
「ケイ、アタシも戦うから」
「……そう言うと思った。よし、ザレフェドーラさん!!」
俺は、ザレフェドーラさんとエリに向かって手を差し出す。
「行くぞ、『超越化』!!」
超越魔法発動。
すると、エリの身体が少し大きくなり、胸もボインと巨乳化する。
髪も伸び、十六歳の子供から二十代前半位の美女へ変貌する。
「ち、力、溢れてくるぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「す、すっげ……超越魔法ってこんな感じなのか」
「お、おお……オォォォォォォォッ!!」
そしてザレフェドーラさん。
失った腕がズルズルと水っぽい音を立てて生え、さらに全身が鱗に包まれ、身長も三メートルほどになる。そして、身体中の鱗が鋭利な牙のように変わり……なんというか、全体的に超強化された。
『素晴ラシイ……』
こ、こええ……なんか悪のボスみたいな姿に変わった。
今まではトカゲっぽかったけど、マジモンのドラゴニュートって感じ。
超越エリ、超越ザレフェドーラさん、ケルベロス、天仙猫猫が前に出ると……相手の魔術師が震えながら言った。
「ゆ、雄太郎……や、ヤバすぎるんだけど」
「何? 確かに強そうに見えるが」
「レベル、285」
「は?」
「あのイケメン、レベル285……あっちの猫はレベル283で、女の子は125で、ドラゴニュートが245」
「…………嘘だろ。測り間違いだって」
「あ、あたしの鑑定魔法、外れたことな」
『サテ、借リヲ返ソウカ』
ズドン!! と、ザレフェドーラさんが一瞬で魔術師女に近づき殴り飛ばすと、一瞬で消えた女が近くの壁にめり込んだ。
「ゆ、由美!! テメェ!!」
「だらっしゃあ!!」
「ぐぁっ!?」
そしてエリの蹴りが黒い鎧のロン毛男に命中、鎧が砕け、男が地面を転がる。
そして、ケルベロスが聖女っぽい女に近づく。
「さて……」
「す、すっごいイケメン。しかもケモミミ!! いい!!」
「意味が分からん」
「ぶぎゅ!?」
聖女は殴られ吹っ飛んだ。
あとは弓士と勇者だけど……あ、弓士。
「フフフ、可愛い可愛い……虚ろの世界へ旅立ちじゃ」
「ふぉぉぉぉ……」
弓士、天仙猫猫の尻尾に絡まれ、妙な煙を吸わされていた。
絶対健康に良くない煙だよなあれ……し、死んではいないか?
あとは勇者だけど。
「こ、この、バケモノが!! な、何なんだお前は!?」
「さっきも言ったけど……俺、ここの責任者です」
「ふざけるなぁぁぁぁ!!」
げっ……勇者が突っ込んできた。
主人公っぽく、最後は俺が決めるべきかもだけど……そう思っていると。
「にゃ」
「邪魔だぁぁぁぁぁぁ───あぁ!?」
マオが俺の前に立ち、勇者が振り下ろした剣をジャンプしての回し蹴りで破壊。
バキィィン!! と折れた剣……有名な剣なんだろうが、マオの蹴りで破壊されるくらいの脆さか。
そして、マオが着地し、そのまま膝を落とし……思いっきり、勇者の腹に頭突きした。
「悪いこと───だめ!!」
「おぼっぶぅあ!?」
赤い鎧が砕け、勇者が吹っ飛び、近くの岩に激突……完全に気を失った。
「……俺、特に何もしてないけど……まあ、いいのかな」
こうして、アグニルーン王国の勇者たちを討伐した!! やったぜ!!
でも……一国の勇者をブチのめしちゃったし、これから先どんなことになるのか、今から頭が痛くなる俺であった。
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