勇者の襲来

 エリ、マオ、モザドゥークと歩くこと数分。フォルテの店に到着した。

 店の横には大きな馬車があり、いろいろな物資の詰まった木箱が詰んである。そして、馬車の傍で餌を食ってるのは見覚えのある牛、エルダーバイソンだ。

 

「にゃあ、おおきいお店」

「確かにデカい……これで支店なのか」


 店は四階建て、一階部分の入口が広く、店内が良く見える。

 従業員は人間のようだ。店に入ると、笑顔で挨拶してくる。


「いらっしゃいませー!!」

「あ、どうも。あの~……フォルテ、います?」

「会長ですか? えっと、会長はご多忙でして……紹介状などお持ちですか?」

「いやないです。あの、ここにいます?」

「はい。今はお仕事中でして」

「じゃあ……ケイが会いに来たって伝えてくれませんか?」

「……お伝えするだけなら」

 

 そう言い、従業員は不審者を見るように俺を見て店の奥へ。

 

「マオちゃんにはこれに会うかな~?」

「にゃあ。ねこ」

「ふふ、じゃあこの髪留めと猫のぬいぐるみ、買ってあげるね」

「にゃったー!!」


 エリとマオ、いつの間にか買い物楽しんでる。

 モザドゥークは……あ、店の外でお座りしてる。

 ちょっと待つと、フォルテが慌てて店の奥から出てきた。


「こ、これはこれはケイさん!! いやはや驚きました……わざわざこんなところに」

「エリが買いものしたいって言うし来てみた。まあ一時間の距離だよ」

「い、一時間? おかしいな……どう考えても十日位の距離なんですが」

「まあ気にしない。それより、忙しいところ悪かった」

「いえいえ。ケイさんたちも無関係じゃないんで。今、魔獣の素材についての商談してたんですよ」

「そうなんだ。まあ、好きにしてくれ……ああ、お願いあって来たんだ」


 俺はフォルテに『ドワーフたちが飲む酒』と『酒用の麦』をお願いする。

 フォルテは『おまかせを』と自信たっぷりだ。用意させたのは麦の種と、酒樽十本。酒は高級品で、麦もいい物らしい。

 けっこうな荷物になり、モザドゥークに持てるか確認するが……。


『この程度問題ありません。この酒樽があと千樽あっても同じこと』


 自信たっぷりだ。

 エリも、マオと一緒に買い物をしてご満悦。

 まだ午前中だし、一時間で帰れるので、フォルテにお昼をご馳走してもらうことになった。

 やって来たのは国境では一番のレストラン。

 個室を借り、いろいろな大皿料理を注文……すごいな、中華風って言えばいいのか、どれも美味そうだ。

 食事をしながら、フォルテは言う。


「……ああ、ケイさんに伝えておくことがありまして」

「はい?」

「実は、アグニルーン王国から『勇者』が派遣されました。目的は、魔族の討伐です」

「……魔族の討伐ですか」

「ええ。しかも、その魔族がその……ドラゴニュート族なんですよ」

「……マジっすか」

「はい。ケイさんのところにいるドラゴニュート族は、アグニルーンの『勇者』たちによって壊滅させられた者たちです。恐らくですが……狙いは、ケイさんのところにいるドラゴニュート族でしょう」

「……」


 マジか。

 というか、やっぱいたのか勇者……恐らく日本人。

 俺みたいに最近召喚されたとかじゃない、もうこの世界に適応した日本人だろうな。たぶんレベルも高そうだ……うーん、どうすべきか。


「ファルーン王国のように三十名近い勇者を抱えてはいません。アグニルーン、ガイアルーン、エイルーンのように少数精鋭の勇者ですよ。その強さは一国の騎士団を遥かに超え、スキルレベルも五十を超えているそうです」

「バケモンじゃん……ケイ、どーすんのよ」

「どーすんの、って言われても」

「にゃう」


 ちらっとマオを見る。

 そういやこの子、勇者レベル80くらいの強さあるんだっけ。

 でも……こんな可愛いネコミミ少女に『戦ってくれ』なんて言えないしな。

 あ、アースタイタンもいたな。あれ絶対強いし守ってもらうか。それに、まだ召喚していない犬や猫もいるし、いざとなれば……うーん、でも。


「あんまり勇者と敵対して、シャオルーン王国にとんでもないのいた!! なんて思われたらなあ……」

「攻めて来たら戦うしかないでしょうが」

「そうだけど……まあ、とりあえずヤバかったら何とかするよ」

「……あんた、ドラゴニュート族を見殺しとか絶対しないでよね。そうなったらアタシ、さすがに怒るから」

「そこまで腐っちゃいないっての」


 とりあえず、有益な情報を得ることができた。

 フォルテに感謝しつつ、俺たちは村に戻るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、不安要素もあるし、急いで村に戻ることにした。

 モザドゥークに巨大化してもらい、街の外に用意した巨大コンテナを咥えてもらう。

 中身は支援物資やお酒、そして麦などだ。

 フォルテは言う。


「あの~……本当に、運ばなくていいんですか?」

「ああ。十日もかかるなら来るの大変だろ? とりあえず荷物は運ぶよ」

「あ、ありがとうございます。いや~……それにしてもデカい」


 モザドゥークを見上げながら言う。

 確かにデカい。用意したコンテナも大型トラックくらいの大きさなんだが、モザドゥークが咥えているのを見ると小さく感じる。

 というかモザドゥークの大きさ、一軒家よりもはるかにデカい。

 最初にくっつけていた座椅子はもう付けられないので、俺たちは背中に乗る。


「すっげえふかっふか……しかも広いし、落ちる心配ないな」

「にゃうう、寝ていい?」

「よし。じゃあマオちゃんはアタシと一緒に寝よっか」


 エリはマオを抱っこすると、モザドゥークの背中で寝てしまった。

 俺は起きている。どのくらい早いのか検証したいし。


「ではケイさん!! また今度!!」

「ああ!! また!!」

『では出発します』


 モザドゥークが走り出す……というか、跳躍した。

 そして、新幹線以上の速度で一気に走り出した。


「おおおすっげぇ!! 風も感じないし、車内にいるみたいだ!! 面白れぇ!!」

『主。まだ半分以下の速度です。さらに速度を出せますが……』

「……お、お願いしちゃおうかな」


 ジェットコースター、新幹線と乗ったことはあるが……モザドゥークはそれらの比ではなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 一方そのころ。

 シャオルーン領地の村では、ドラゴニュート族たちが建築の手伝いをしていた。

 ドラゴニュート族のサブリーダー、ディエズモは犬たちに頼まれ、丸太を抱えて歩いている。


「よっと、これでいいかな?」

『はい!! ありがとうございますー!!』


 トンカチを咥えた犬と、ノコギリを咥えた犬が器用に作業を始める。

 そして、ドワーフたちも作業に混ざり、ドラゴニュート族たちに指示を出していた。


「おーい!! こっちの丸太も頼む!!」

「悪いが手ぇ貸してくれー!!」


 ドワーフたちも、新しい故郷のために、生き生きと働いていた。

 シャオルーン建国計画。

 滅び、捨てられた領地であるシャオルーンを開拓し、国を作る一大計画。

 ドラゴニュート族も、新たな生きがいに熱心だった。


「ディエズモよ」

「ザレフェドーラ……どうした?」


 ザレフェドーラが、ディエズモの肩を叩く。


「いや、調子はどうかと思ってな。傷はもう癒えたのだろう?」

「ああ。我らが神の偉大なる魔法のおかげでな」

「そうか。なら……戦えるな?」

「…………」


 ザレフェドーラが視線を向けた先。

 村の入口に、武装した五人の男女が揃っていた。


「おいおいマジかー……シャオルーンに村できてるし」


 そう言い、驚いて周囲を見渡すのは、アグニルーン王国の勇者である後藤雄太郎。

 深紅の全身鎧に、背中に赤い大剣を背負っている。

 

「わぁ、犬猫もいっぱい」

「かわいい~」


 花見まどか、桐生アイラは犬猫を見て笑っていた。


「ちょっと、犬猫だけど敵だからね」


 そして、相澤由美が警戒。


「ドラゴニュート族の残党を始末するんだぞ。お前ら、気合い入れろよ」


 藤堂院恭二が、腰の剣を抜く。

 敵襲───ザレフェドーラたちは武装。ミュウも弓を手に向かう。

 ザレフェドーラは、雄太郎に言う。


「ここは我らが村。貴様ら……まだ滅ぼし足りないというのか」

「悪いけどよ、こっちは仕事なんだ。お前ら魔族を滅ぼすためのな!!」


 雄太郎が剣を抜き、ザレフェドーラに突きつける。

 ザレフェドーラも、ドワーフに作ってもらった剣を抜く。


「ならば、ここを守るまで!! 主の作った村は、我らドラゴニュート族が守る!!」


 ザレフェドーラが叫ぶと同時に、雄太郎に向かって走り出した。

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