テンプレ種族

 さて、順調な村づくりは進んでいた。

 家屋の復旧、河川の復旧はだいたい終わった。古い家屋を撤去し、新しい家屋を作っているんだが……サモエドのマイケルが考える『都市計画』のおかげで、街っぽくなってきている。

 フォルテが開店予定の店も外観が完成……まあ、本人はいないけど。

 今は、妹のミュウが住み始めた。家具も犬たちに作ってもらったそうだ。

 と……ここで、ある問題が発生した。


『あの、ご主人様』

「ん、なんだムサシ」


 建築のリーダー、ムサシが俺の元へ。

 尻尾をフリフリしながら向かって来る柴犬は可愛いしかない。


『実は、高所作業がちょいと厳しくなってきまして。犬の中には高い場所が苦手っつう軟弱モンがいて、なかなか作業が進まなくなってきたんです』

「そ、そうなのか?」


 都市計画では、二階建ての家がほとんどだ。

 基本的に四足歩行だから、どうしても無理が出てくる。


「そっか。じゃあ、また犬……いや、やっぱ人の手が必要になるな。でも俺、大工なんてやったことないし……エリとミュウも厳しいか」

『すんません……役に立てずに』

「いやいや、俺やエリ、ミュウたちの家を作ってくれただけありがたいよ」


 こうして、新しい問題……『人』の問題が出てきた。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺は、エリやミュウを呼び話し合うことにした。


「あのさ、犬猫たちだけじゃどうしても無理な作業が出てきた。人を雇いたいんだが、何かアイデアあるか?」

「そんなの、あんたの魔法でやればいいじゃん。あの鉄の塊みたいなのとか」

「アースタイタンか……まあ、あいつがいればできるとは思うけど、やっぱり大勢の手が欲しい」

「はいはーい!! ね、ケイ。この村って魔族や人間を受け入れるための村なんだよね? だったらさ、他の領地にいる魔族を引っ張ってくるのは?」

「え……そんなことしていいのか?」


 ミュウの提案に驚く俺。

 するとミュウ、いつの間に仲良くなったのか、マオを抱っこして頭を撫でている。


「あたしさ、お兄ちゃんといろんな国を回ってるんだけど、けっこう貧しい村とかあったよ。人間と魔族の戦いって派手だけど、戦う手段のない弱い魔族とかは、人間に追われて酷い目にあってるみたい……可哀想だよね」

「……魔族と人間の争いか。わざわざ異世界から人材召喚してまでやるモンなのかね」


 思わず愚痴る俺。

 エリもいろいろ考えつつ言う。


「ね、ケイ。あんたさ……王様になるの?」

「はあ?」

「シャオルーンは国が滅びちゃったしさ、ここに国造りするなら、あんたが王様になって各国に呼びかけたら? 戦うことができないものはシャオルーンに来い、みたいに」

「アホか。俺は王様になんかなりたくない。異世界風に言うなら廃村スローライフしたいんだよ」

「なにそれ」


 呆れるエリ。

 そんな時、俺たちが会議に使っている小屋に、猫一番の俊足を持つロシアンブルーのハヤテが飛び込んできた。


『ご主人!! 来客っす!! ってかボロボロっす!!』

「え? 来客?」

『うっす!! ドラゴニュート族たちが狩りに出た時に連れてきたっす!!』

「わかった。とりあえず行く」


 ドラゴニュート族みたいなこともあったし、二度目なので大丈夫。

 俺はマオを連れ、エリとミュウは武装してハヤテの案内で村の入口へ。

 そこにいたのは、ボロボロのおっさん集団だった。

 

「ぐっ……」

「しっかりしろ。我らの神が来た」


 あの、ザレフェドーラさん……俺、王でも神でもないですよ。

 怪我人を見ると……ま、まさか、この人たちは!!

 低身長、筋骨隆々、髭もじゃ顔……き、きたきた、きたぞ!!


「主。彼らはドワーフ族、ガイアルーンの魔族迫害から逃げてきたようです」


 キター!! ど、ドワーフ!!

 これまた異世界テンプレ種族。なんかテンション上がるね。

 えっと、数は二十人くらいかな。みんなおじさんだ。


「主、治療を願いたい……我らのような者を、増やさないでほしい」

「わかってますって。では、俺の回復魔法で!!」


 俺は手をかざし、回復魔法を発動させる。

 今更だが……これ、どういう仕組みなんだ? 魔法だったら魔力とか消費すると思うんだけど、脱力感とかもないし、特に何もない。

 と……ドワーフさんたちの怪我が治り、全員が驚いていた。


「ザレフェドーラさん、とりあえずメシの支度を猫たちにお願いしてください。みんな腹減ってるでしょうし」

「はっ!!」

「えーっと……」


 俺は、ポカンとしているドワーフの男性を見た。

 

「怪我、大丈夫ですか?」

「今のは、回復魔法か? 魔族でも妖精族しか使えん奇跡……そもそも、妖精族は魔王軍に全て囚われたはず。しかもお前さんは人間……スキルの力か?」

「ええ、まあ。それより、お名前を聞いても?」

「……ワシはドワーフのバルボン。こいつらのリーダーだ……人間の少年、感謝する」

「あ、どうも」


 やっぱ年上の人に感謝されるの、妙にくすぐったいな。

 するとミュウが耳打ちしてくる……うう、近い。


「ケイ、ケイ。ドワーフたち、受け入れちゃえ。ちょうどいい手が来たじゃん」

「そこのエルフ、聞こえているぞ」

「あ、バレた? えへへ」

「ふん、少年、手が足りんとは? それと、この建築……」


 他のドワーフさんたちが静かだと思ったら、周りの家や建築方式を見ているようだった。

 しかも、犬が金槌咥えてトントンやったり、ノコギリ咥えてギコギコやってるの見て驚いてるし。

 俺は村のことを説明する。


「……つまり、我らに住人となり、開拓の協力を?」

「ええ。たぶん、ここにはあなたたちみたいに追われた人とか、他にも来ると思うんで……みんなで開拓しつつ、暮らせたらなぁと」

「ほう、少年は王となるのか」

「いやいやそんなつもりは。あと俺は慧、有馬慧です」

「ふむ……」


 俺は王になるつもりない。

 そこそこ開拓が進み、人が集まってきたら、リーダシップある人に任せるつもりだ。俺は家でのんびり過ごしたり、スローライフを満喫したい。


「いいだろう。我らドワーフ二十名、開拓に協力させてもらう」

「やった。じゃあ、建築した家にそれぞれ住んでもらって……」

「待て。まずは建築確認をしたい。この家、そして並びを考えた者は?」

「えーっと……」


 俺はマイケルを呼ぶ。

 ついでに全員に魔法をかけ、動物と会話できるようにした。

 来たのは、サモエドのマイケル。


『これはこれは、ドワーフ族の皆さま』

「……犬」


 その疑問はわかる。どう見ても可愛いサモエドだしな。

 だが、バルボンさんはマイケルといくつか話すとすぐ意気投合。マイケルが広げた図面を見て、他のドワーフたちも混ざって話始めた。

 すると、エリが言う。


「あのさケイ、ドワーフが手伝ってくれるならいいんだけど、もう一個重要なことあるわ」

「え?」

「服よ服。こんな言い方したくないけど……ドワーフさんたち、ちょっと臭うわ」

「あー……」

「川で水浴びしてもらわないとね」


 そこで、俺は異世界テンプレを思い出す。

 ここで『風呂が欲しい!!』ってテンプレ通りならいうが、俺はシャワー派だ。

 ここ、シャワーがない。湯舟とかけ湯用の浴槽しかないんだよな……ファルーン王国の王様ですら、狭い湯舟に一人で入り、かけ湯用の浴槽から手桶でお湯を掬いかけてたし。

 あと石鹸。異世界テンプレじゃ『石鹸作ろう!!』とか言うが……そんな都合よく作れねぇし、あほかって俺は思う。

 マヨネーズとかも無理。味噌とか醤油とかも無理。マジふざけんなって思う。


「ケイ?」

「あ、ああ……シャワーは欲しいよな」

「シャワーってなに?」

「…………」


 とりあえず、シャワーヘッドくらいは俺でも作れるかな……?

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