そのころ、クラスメイトたち②

 慧が順調に村おこしを始めている頃。

 慧のクラスメイトたちは順調に、魔王軍との戦いを続けていた。


「はいぃ!! 百裂張り手ェェェェェェェ!!」


 為朝の必殺技、『百裂張り手』がゴブリンの群れに炸裂。

 同時に十体までなら弾き飛ばすことが可能で、その威力は騎士団に支給されている鉄鎧を凹ませる威力がある。そんな張り手を受け、ゴブリン十匹が吹き飛んだ。


「為朝!! ホブだ!!」

「おうよ!! さぁ、土俵に上がりな!!」


 ゴブリンの三倍ほどの大きさのホブゴブリン。

 幕下レベル……為朝は瞬時に判断し、四股を踏む。

 スキル『相撲取り』……現在のレベルは8で、幕内レベルだ。

 為朝は襲ってくるゴブリンと真正面から衝突し、ゴブリンの腰布を掴む。


『ゴッッ、ゴゴゴ……!!』

「ぬぬぬ……!! なかなかの重量!! だが!! でいっ!!」


 つかみ投げ───地面に倒れたホブゴブリンは、なぜか消滅した。

 こうして、クラスメイトたちはゴブリンの群れを討伐するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ファルーン王国に戻った為朝たちは、補佐のクラスメイトたちと勝利を分かち合った。

 現在、為朝たちは『前線部隊』と『治療部隊』と『補佐部隊』と『後方支援部隊』に分かれて作業をしている。

 これも、為朝が考案……戦闘スキル、補助スキル、治療スキル、支援スキルと分けて作業することで効率的に戦えるんじゃ? という意見を採用したものだったが、これまた上手く作用した。


「た、為朝氏……スキル、どうだった?」

「おお、万次郎くん!! いやあ、レベルも上がったけど、相変わらずわからないね。なんでワイの相撲技に負けた魔獣は消滅するのだろうか」


 横山万次郎。通称マンジロー。

 スキルは『彫金』……はっきり言って戦闘には役立てない。

 だが、騎士たちの鎧を修理したり、武器を研いだりとスキルとは関係のない方向で役立っていた。

 なぜか、為朝のスキルに興味津々だった。


「くっくっく。ぼ、ぼくが思うに、それって『領域』だね。きみが展開した相撲の領域に敵を引きずり込むことで、強制的に『相撲ルール』による戦闘を行わせるんだ……そ、そして負けたら死ぬ。すごいね」

「う、うむ。でもその理屈だと負けたらワイも死ぬんじゃ。でもまあ『領域展開』って言いたいな!!」


 二人は笑い合う。

 すると、騎士のアリアが近づいて来た。


「タメトモ、いいか?」

「おお、姫騎士アリア殿!!」

「何度も言うが、私は姫騎士じゃない……緊急事態だ」

「ほ?」


 首を傾げる為朝。

 アリアに促され、マンジローから少し離れた場所に移動。

 美人の女騎士に連れられちょっとドキドキしていると。


「……勇者パーティー四人組」

「へ?」

 

 黒鉄レオン、夢見レイナ、相川セイラ、鎧塚金治。

 今では討伐任務にも参加せず、独自に動いてはクラスの調和を乱していた。

 今ではもう、山田先生すら愛想を尽かして自由にさせている。強引にクラスの主導権を奪おうものなら慧が許さないという話が効いているのか、クラスメイトたちにもあまり干渉しなくなっていた。

 最初こそ憧れていた女子もいたが、今では腫物扱いの四人である。

 

「───って感じの四人がどうしたんです?」

「せ、説明しなくてもわかっているが……落ち着いて聞け」


 もったいぶるアリア。これが異世界流なのかと為朝は一人で納得していると。


「……四人が、脱走した」

「は?」


 こうして、黒鉄レオン、夢見レイナ、相川セイラ、鎧塚金治の四人は『勇者パーティー』として、魔王討伐の旅に出たのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「……なあレイナ、本当にいいのか?」

「うん!! 勇者はやっぱり旅に出なきゃ!! それに、仲間もいるし大丈夫だよ!!」

「……むう」

「……ね、ねえレイナ、あんた大丈夫?」


 夢見レイナ以外、どうも乗り気ではない旅立ちだった。

 というか、レイナのテンションがあまりにも高い。

 現在、四人はファルーン王国を抜け、とりあえず風の国エイルーンへ向かっていた。

 やや不安そうな鎧塚はレイナに聞く。


「な、なあ夢見……どこ向かってるんだ?」

「風の国エイルーン。まずは、この世界を知る仲間を増やさないとね!! 風の国エイルーンにいるエルフ族はみんな物知りだから、仲間にしよっ!!」

「え、エルフ……? レイナ、どこでその話を?」

「んー? なんだろ、いろいろ調べて教えてもらったんだ・・・・・・・・・

「……山田先生じゃないよね。誰それ?」

「ふふ、女神様みたいな人・・・・・・・・!!」


 レイナはクルクル回りながら歩く。

 その様子に、レオンと鎧塚は顔を見合わせた。


「おいレオン……夢見のヤツ、ラリってんのか? なんかヤベー薬でもキメたのかよ」

「……わからない。でも、今のレイナを放っておくわけにはいかないだろ」

「まあ、オレもセイラも居場所ねぇし……お前らに付いていくけどよ」


 男二人がボソボソ話している。

 セイラはレイナの隣へ。


「ね、レイナ……あんた本当に大丈夫?」

「なにが? セイラちゃん」

「……あんた、そんなにテンション高い子じゃなかったでしょ? 有馬のヤツを追放してから、なんか変だよ?」

「有馬? ああ……あいつはいずれ殺すけどね」

「っ……え、れ、レイナ?」

「あいつ、モブのくせに、勇者のレオンくんよりも強いなんて許せない。あいつが、あいつは魔族、殺してやる……!!」


 眉間にシワをよせ、歯茎を剥き出しにして食いしばるレイナ。

 その変貌ぶりに、セイラは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 だが、レイナはすぐに笑顔になる。


「さ!! セイラちゃん、冒険の始まりだよ!!」

「う、うん……、えっ」


 にっこり笑ったレイナの目が───薄くぼんやり、赤く光ったように見えた。

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