エルフ兄妹

 さて、湖が復活し、川の流れも元に戻った。

 現在、村は順調に復興中……ドラゴニュート族の手助けが大きいのか、村に元からあった住居はほぼ復旧した。

 驚いたことに、家は元の位置ではなく、村の中心を囲うように建て直しされている。

 なんでこうなったのか? 俺はムサシに聞いてみた。


「ムサシ、なんで家の位置変わってるんだ?」


 ムサシは、尻尾をフリフリしながら言う。


『設計担当のマイケルが、村を拡張した後のことを考えて決めたんですよ。中心を広場にして、それを囲うようにいくつかデカい建物作って……いずれ店とか入れること考えてるみたいで』

「そ、そうなのか?」

『ええ。お、ちょうどいいところに。おーいマイケル!!』


 ムサシがマイケルを呼ぶ……うん、尻尾フリフリしながらふつーに歩いて来る犬だ。

 なんかインテリっぽいサモエド犬。いや、マジで犬なんだよ。


『これはこれはご主人様。この私めに何か御用でしょうか?』


 犬、なんだよ……ほんっとに日本で見たことあるサモエドなんだよ。

 今も俺を見上げているし……と、とにかく犬。


「えっと、村の住居とかの位置だけど……」

『ほっほっほ。ご主人様が王となった時のことを考えまして……とりあえず、十万人が住めるくらいの都市構想計画を立てました。ここを中心とし、いずれは城をも建てる予定です』

「…………」


 何からツッコめばええねん。

 十万ってなんだよ……俺、王様になるつもりゼロだぞ。

 でもマイケル……いや、このサモエドめちゃくちゃ可愛いし文句とか言いたくない。

 すると、足元にフワフワした茶色のチャウチャウが現れた。


『ご主人様、なんか村に怪しいヤツ来ました!!』

「怪しい奴? よっと……」

『はい。妙に耳の長い、胡散臭い男女です!! くぅん』

「ん~もふもふ……よし、行くか」


 俺はチャウチャウのモフ助を抱っこしたまま、怪しいヤツの元へ向かうのだった……チャウチャウ、めちゃくちゃ可愛い。


 ◇◇◇◇◇◇


 村の入口にいたのは……なんともまあ、でっかい牛を連れた男女だった。


「あ、ケイ!! なんか変な連中来た!!」

「にゃうー」

「怪しい奴め……貴様ら、目的を言え!!」


 エリ、マオ、ザレフェドーラさんが警戒してる。

 両手を上げて敵意ゼロな感じでいたのは……なんとまあ、イケメンに美少女。

 イケメンがやや困ったように言う。


「いやいや、あなたここの代表で? ちょっと助けてくれませんかねぇ……私たち、敵意ありませんので」

「そうそう。あたしら、商人なの!! 話聞いてよー!!」

「……商人?」

「そうそう、あたしら流れのエルダーエルフの兄妹商人!! 兄のフォルテアイズ、あたしは妹のミュルグレイスよ!! そして相棒のエルダーバイソンのブロウクンヘッズ!!」

『ムォォ~』


 名前長い。エルダー……エルフ?

 うわ~……ついに出たか!! 異世界ファンタジーのテンプレ種族、その名はエルフ!! 

 俺はエリを下がらせ、マオの頭を撫で、ザレフェドーラさんを手で制する。

 安心したのか、エルフ妹がホッと胸をなでおろす。


「おお、わかってくれた。と……その犬なに?」

「ああ、気にしないでくれ」


 しまった、チャウチャウのモフ助抱っこしたままだった。

 俺はモフ助を下ろすと、マオがさっそく撫で始めた。


「で、なんだって? えーと、ふぉ、ふぉ」

「フォルテアイズ。長いのでフォルテで構いません。妹はミュルグレイスで、こっちはミュウとお呼びください。いやー……驚きました」


 驚いてるのはこっちだ。

 兄フォルテ。薄緑のロン毛を蔓草で縛っている。眼はエメラルドグリーン色なんだが、糸目なんでよくわからん。

 服装も、緑色を基調とした、どこか貴族っぽい出で立ち。

 妹のミュウ。こっちはちょっと露出多いぞ……胸当て、腹丸出し、ミニスカ、ポニーテール。そして矢筒に弓を背負っていた。商人ってか弓士みたい。


「おやおや、ミュウの恰好が気になりますか? ふふん、よかったなミュウ。恋人ができるかもしれんぞー?」

「え、ほんと? ん~嬉しい!! ね、お兄さんあたしどう? スタイルいいし、けっこう強いし、満足させちゃうよん?」

「は?」

「はいはいはい!! ケイ、ちゃんと理由聞いて!!」

「お、おう」


 エリが俺の背中を小突いて止めた。まあ、その通りだ。

 するとミュウがエリを見てニヤッと笑い、エリがジロッと睨み返す……な、なんか険悪。


「え、えっと……フォルテさんとミュウさんは何しにここへ?」

「いえいえ。素材収集でシャオルーンは来るんですが……いきなり綺麗な川の水が流れ始めて来ましてね。いやー驚きましたよ。で、何かあったのかと『精霊』に聞いてここに来たら、『八王種族』の一つ、ドラゴニュート族が家を建ててるんでもう驚き……商売の匂いを感じたわけです」

「……はあ」

「くっくっく。ケイさん、でしたっけ? さっそく商談と行きましょうか。どうです? うちらは風の国エイルーンから来た『八王種族』の一つエルフ族、しかも古代種と言われるエルダーエルフです……うちらと絆を結んでおいて損はないですよ?」

「……」


 情報量多いな……八王種族ってなんだ? 名前からすると、八つのすげー種族ってことだけど。

 でも、商人か……胡散臭いけど、あれば便利かな?

 俺はエリに聞く。


「な、エリ。どう思う?」

「エルフ族は嘘つき多いのよね。八王種族だし強いのは確かだけどさ……」

「八王種族ってなんだ?」

「えーっと、この世界には五百種類くらいの種族があるんだけど、その中でも八大精霊に認められた種族のことよ」

「情報量多い……そんなのあるのか? ファルーン王国は教えてくれなかったぞ」

「魔王討伐以外の情報は不要だったんじゃない? で、どうすんの」

「……商人、必要か?」

「そりゃね。あたしがモザちゃんと毎回買い物行くのめんどくさいし」

「……あの二人は信用ぉぉぉ!?」


 なんと、ミュウが俺の背中に飛びついて来た!! 

 な、なんだこの柔らかさは……!!


「ねぇねぇ~……あたしたち、ここで商売させて欲しいかも? いいでしょ? ね? もし商売させてくれるんだったら~……一日一回なら、揉んでもいいわよん」

「も、もむ? な、なにを?」

「んふふ、言わせる気~? っと」


 すると、エリの蹴りがミュウに飛ぶが、ミュウは回避する。


「ケイ……どうするの」

「え!? い、いや……」

「……アタシ、こいつ嫌い」

「お、おう……なんかごめん」


 エリが怖い!! これ、断るしかないかな……と、思っていたら。


「にゃあー、ありがとー」

「いえいえ。ささ、おいしいお菓子をどうぞ」

「にゃあー!!」


 マオが餌付けされていた!! りんご飴みたいなのをもらってペロペロ舐めている。


「にゃう、ご主人さま……このひとたち、いいひと」

「…………えっと」

「おかし、おいしい」

「……すまん、エリ」


 マオの笑顔に負けた俺は、エルダーエルフ兄妹商人を受け入れるのだった。

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