第四章

湖の復活

 さて、ドラゴニュート族の皆さんだが……村に住むことになりました!! 

 そりゃそうだ。ここ、そういう目的で直してる最中だし。

 そして現在、犬や猫たちと協力して、壊れた家屋を急ピッチで直している。

 それとは別に、村から少し離れた場所に見つけた大きな湖に、ドラゴニュート族最強の戦士ザレフェドーラさん、そしてエリ、マオの四人でやってきた。


「主、ご足労いただき感謝します」

「いや、いいですけど……あの、大丈夫なんですか?」

「大丈夫、とは?」

「いえ、皆さん怪我は治ったけど、まだ村に来て二十四時間も経ってないのに、治るや否や犬猫の手伝い始めるし……そりゃ畑とかアースタイタンの手伝いしてくれるのはありがたいですけど」

「ハハハ!! 我らの心配なら無用ですぞ。確かに、故郷は失いましたが、ここを新たな故郷とするまで。主のいる場所こそ、我らの故郷なのですよ!!」


 顔を近づけて笑うザレフェドーラさん……絶対に言えないが、こう近づかれると顔は滅茶苦茶怖いし、牙とかすげえ。

 ついさっき、猫たちが狩ってきた魔獣の肉を生で食ってたし。内臓とか生で食う姿は恐怖しか感じなかった……ちゃんと料理する人探そう。

 すると、マオが俺の袖を引っ張る。


「にゃあ。ご主人さま……ここ、くさい」

「あー……確かに」


 湖は、汚染されまくっていた。

 川と繋がっているんだろうが、流れが堰き止められ、魚や魔獣の死骸が浮いている。発酵しているのかかなりキツイ匂い。

 モザドゥークを置いてきてよかった。犬にこの匂いはキツイ……ちなみにシロとクロは寝てる。あいつらは俺にスキルをコピーさせるためだけの存在だし、役目は終わったのかゴロゴロしている。


「で、ここをどうすんの?」


 エリが首を傾げる。

 ここを見つけた張本人で案内させたが、俺もよくわからない。

 すると、ザレフェドーラさん。


「我々ドラゴニュート族は、陸上と海上どちらでも生活できます。しかし、卵生なので水場は必要不可欠でして……その、主の神のごとき力で、ここを綺麗にしていただけたら……」

「ああ、なるほど」


 ドラゴニュート族、卵生なんだ。

 すると、ガサガサと近くの藪が揺れ、なんとゴブリンが飛び出してきた。


『ギャウーッ!!』『ギャッギャ!!』

「うおお、ゴブリン!?」

「お任せ!! ザレフェドーラさん、いける?」

「当然!! 武器は失ったが、素手で十分!!」

「にゃあ」

「ま、マオは俺と一緒に!!」


 俺はマオを抱っこし、ゴブリンに向かっていくザレフェドーラさん、エリを見守った。

 いやびっくりしたわ……魔獣との戦闘経験はあるが、いきなり飛び出されると驚きしかない。

 数分後、ゴブリンを蹴り飛ばし、殴り飛ばした二人が戻ってきた。


「ひっさしぶりに身体動かしたわー」

「他愛ない」


 うーん強い。魔獣なら任せて安心かなあ。

 さて、マオを下ろし、俺は湖を眺めた。


「……くっさいな」

 

 こういう時、異世界テンプレなら浄化魔法かな……でも、俺の魔法って破壊の嵐しか生まないような、アホみたいな効果の魔法しかないんだよなあ。

 

「うーん……浄化、綺麗にする、綺麗……聖なる力」

「なにブツブツ言ってんの?」

「湖を浄化する方法……お?」


 ◇◇◇◇◇◇

 〇犬召喚

・魔犬ケルベロス ・霊犬ブラックドッグ

・聖犬ライラプス ・竜犬テジュ・ジャグア

・大犬モザドゥーグ ・神犬イヌガミ

 ◇◇◇◇◇◇


「聖犬ライラプスか……聖って付くし、いける気がする。よし、きみに決めた!!」

「は? なに叫んでんの?」

「う、うるさい……とにかく、召喚!! 『聖犬ライラプス』!!」


 召喚魔法発動。

 すると、地面に純白の魔法陣が浮かぶ。

 そして、現れたのは……まぁそこそこデカい犬。

 大きな白い柴犬とでも言えばいいのか。だが、顔には紅色に輝く隈取があり、背中には五色のリングを重ね合わせたような物体が浮かんで回転している。

 見事なまでの『おすわり』状態で現れた『聖犬ライラプス』は。


『主の命により参上いたしました。ライラプスでございます』


 すっげぇぇ渋い声!! ハスキーボイスだ!!

 

「かわいい~!!」

「にゃあ、わんこ」

「おお!! う、美しい……!!」


 それぞれの感想。

 俺はライラプスに近づき、頭を撫でる……もっふもふ。最高じゃん。

 エリも撫で、マオは抱きついてもふもふする。ライラプスは嫌とは言わず、嬉しそうにも嫌そうにもしない……うーん、もうちょい反応欲しい。

 じゃなくて!!


「あのさ、ライラプス……この湖、どう思う?」


 俺は湖を指差す。


『汚染されていますな。魔獣の死骸から流れた血、臓物により水が毒となり溜まっています。水はもとより、受け皿となっている大地も汚染が進んでいるようです』

「そっかぁ……あのさ、これ綺麗にできるか? その、『聖』犬ライラプス」

『可能です。では……』


 と、ライラプスは湖に向かって歩き出し……なんと、そのまま階段でも上がるかのように、空中に向か会って歩いていく。

 湖の中心ほどまで歩く……すっげえ、犬が散歩するように空中を歩いてるよ。

 そして、中心まで到着すると。


『ウォォ───……ンン』


 遠吠え。

 ライラプスの身体が輝くと、頭上に純白に輝く『太陽』が現れた。

 その太陽が輝くと……なんと、地面から白い粒子みたいなのが立ち上っていく。


「な、なんだこれ……!?」

「み、見てケイ、これ……」


 エリが指さしたのは、枯れた草。

 その草が、粒子に触れると輝きを取り戻し、なんと花まで咲いた。

 湖を見ると、魔獣の死骸が分解され、汚染水が浄化され、黒ずんでいた土から雑草が生えていく。

 透き通った綺麗な水に生まれ変わると、詰まっていた流れも解消され、村に向かって流れていく。

 すると、小さくなった太陽が湖に落ちていった。

 ライラプスが戻ると、これまた見事な『おすわり』をする。


『浄化完了……『聖なる太陽』を湖の底に沈めましたので、二千年ほどは荒れた水が湖に流れ込んでも、すぐに浄化されるでしょう。水草もまた生え、新たな命も芽吹くでしょうな』

「お、お前すごすぎだろ……なんだよ聖なる太陽って。よーしよーし、干し肉やるぞ」

『感謝……』


 干し肉を食べさせてやる……食う姿はふつーに犬だな。

 

「聖犬ライラプス様。この湖でドラゴニュート族が出産、育成をすることは可能でしょうか」

『問題ない。むしろ、栄養豊富ないい湖だ。水系の種族なら歓喜するだろう』

「あ、ありがとうございます!!」

「よかったよかった。ライラプス、どうする? しばらく村で生活するか?」

『……この気配。女神様の眷属である我が神もいらっしゃるご様子。ご挨拶させていただきましょう』


 つまり、帰らないってことね。

 とりあえず、綺麗な湖に戻ったからドラゴニュート族も安心だろう。


「あ、見てケイ」

「ん? おお」

「にゃうー!! おさかな!!」


 浄化したばかりの湖で、川魚がちゃぷんと跳ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る