アグニルーン王国にて①

 火の国アグニルーン。

 別名『砂漠の国』。

 アグニルーンは巨大オアシスを中心とした大きな国。規模はファルーン王国よりも小さいが、行商が盛んで、五大国の中で最も商人が活発であると言われていた。

 アグニルーンの中心である大オアシスとは別に、小さなオアシスは無数にある。

 アグニルーン貴族は、所有するオアシスの大きさこそ権威の象徴である、と思っているようだ。

 その中の一つ……大きくもなければ小さくもないオアシスに、五人の男女がいた。


「っぷはぁ!! いや~、気持ちいいぜ!!」


 アグニルーン王国『勇者]』、後藤雄太郎。

 現在二十歳。異世界召喚され四年。スキルは『勇者』でレベルはなんと68だ。

 四年前に召喚され、最初こそ戸惑っていたが……今では異世界にもなじみ、与えられたオアシスの一つをカジュアルなプールに変えて泳いでる。

 そして、プールに浮かぶビニールマットに寝そべるのは、一人の女性。


「ちょっと、あんまり波立てないでよ」

 

 アグニルーン王国『聖女』、花見まどか。

 年齢ニ十歳。スキルレベル65。

 際どい水着だが、なんと上半身はトップレス……雄太郎に見られているが、全く気にしていない。

 

「お~い、そろそろ焼肉しようよ~」


 プールサイドでは、二人の女性がバーベキューの準備をしている。

 アグニルーン王国『弓士』桐生アイラと、アグニルーン王国『魔法師』の千堂由美。

 肉の焼ける匂いに、雄太郎は波を豪快に立ててプールサイドへ。勢いでマットがひっくりかえり、まどかがプールに沈んだ。


「うわっぷぁ!? ちょ、雄太郎!!」

「わり、肉が呼んでるんだよ!! あれ、恭二は?」

「シャワー浴びてる。あっついからねぇ」


 アイラがトングをカチカチさせながら言うと、別荘からパンツ一丁の男が出てきた。

 ロン毛をタオルで拭きながらの登場。

 藤堂院恭二。ファルーン王国『聖騎士』であり、スキルレベルは69。

 

「それ、前に狩ったトカゲ肉?」


 ハハッと笑いながらバーベキュー肉を指差す。

 ちょうどまどかがプールから上がり、雄太郎を軽くどついた。

 相変わらずトップレスだが、隠すつもりはないようだ。


「そんなワケないでしょ。まあ、この辺の貴族は珍味とか言うけど……リザードの肉なんて食えないわ」


 まどかが「うげっ」と舌を出しながら言うと、恭二も「そりゃそうだ」と笑う。

 なぜ、こんなにオープンなのか?

 由美は、ぼんやり空を見上げながら言った。


「そういや、もう四年だねぇ……ウチらが召喚されて」


 ◇◇◇◇◇◇


 後藤雄太郎、花見まどか、桐生アイラ、相澤由美、藤堂院恭二。

 同じ高校のクラスメイトであり、アグニルーン王国によって召喚された。

 召喚理由はなんと、『魔王を倒してほしい』というテンプレ。

 召喚され四年経つが……いまだに、五人は魔王を討伐できない。

 四年経つうちにオープンな関係となり、こうしてシェアハウスで暮らしている。もちろん、特定の恋人はいないし、肉体関係はある。

 アイラは、肉を焼きながら言う。


「そういやさ、リザードたちって逃げたんでしょ? けっこうな数」


 話題は、先日狩ったリザード(正確には竜)の話題。

 アグニルーン王国から魔族狩りとして派遣され、あっという間に狩りつくした。

 

「みたいだねぇ……次はどの魔族?」

「知らねぇ!! まあ、オレが全部倒すけどな!!」


 由美がのんびり言い、雄太郎は肉をガツガツ食べながら言う。

 すると、相変わらずトップレスのまどかが言う。


「あ、そういやさ……ファルーン王国の勇者の話、聞いた?」

「聞いた聞いた。なんでも、三十人くらい呼んだんでしょ? すっごいねぇ……うちらなんて五人なのに」


 由美が育てた肉を奪いながらアイラが言う。

 由美がムッとするが、恭二が自分の肉を由美の皿にのせた。


「まあ、使えるようになるまで数年かかるだろ。それにしても、アホだよな……異世界召喚がマジだったのと、異世界の連中は馬鹿ってこと」

「そうねぇ……五大国がそれぞれ召喚して、勇者抱えてるんだもんねぇ」


 まどかが肩を竦める。

 この事実を雄太郎たちが知ったのは、ほんの一年ほど前だ。

 恭二は言う。


「五大国はすでに、魔王討伐後のこと考えてるな……下手したらオレら、他の勇者と争うこともあるんじゃねぇの?」

「うわ、嫌だそれ……」


 由美が嫌そうに言い、アイラやまどかもウンウン頷く。

 雄太郎は叫ぶように言う。


「まあ!! 誰が来ようが敵じゃねぇ!! オレたち無敵の勇者戦隊だしな!!」


 ちなみに……雄太郎はややオタクだった。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 バーベキューから数日後、雄太郎たちに新たな命令が下された。

 

『シャオルーン地域に逃げたと思われるトカゲどもを、一掃せよ』

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