まさかの、まさか

「くっ……殺せ!!」


 いや待て、有名なセリフを異世界で、しかも二足歩行のトカゲ種族から聞くとは思わなかった。

 現在俺たちは、衰弱しボロボロのリザード族を介抱している。

 全員が怪我人、老若男女……まあ見た目同じだから老いてるかは知らんし、オスメスの区別も付かんけど。

 俺は『神光魔法』を確認する。前に見た時は攻撃魔法しかなかったけど、タブを切り替えると回復魔法もいっぱいあった。


 ◇◇◇◇◇◇

〇神光魔法

・オーバーレイズデッド・ラストヒール・究極蘇生

・インフィニティキュア・エターナルライト・命精製

 ◇◇◇◇◇◇


 これある意味禁忌だろ。

 なんだよ究極蘇生って……あと命精製ってなに? 

 と、とりあえず……ラストヒールかな。

 俺は、完成したばかりの屋敷ではなく、倒壊した集会所っぽい建物を臨時の救護所に、そこで怪我人の中でも一番ひどい怪我をしている戦士風のリザードに手を向けた。


「な、何を……おのれ、人間、め」

「いいから、治すよ」

「なに……」

「『ラストヒール』」


 手から膨大な光が放たれ、しかも俺の背後に天使みたいな女性が現れ祈りを捧げていた……なにこの演出、マジでやりすぎだろ。


「お、おお……け、怪我が消える、失った手、足が……!!」

「すっげ……欠損部分も治すのか。まあそんな気はしてたけど」


 リザードさんの手足が回復。驚いたように手を握ったり、開いたりしている。

 ちなみに、リザードさんが暴れる可能性もあったので、護衛にエリとマオを連れている。女の子だけどこの二人強いしな。


「大丈夫ですか? 違和感は?」

「な、ない……というか、古傷まで消えた。全盛期のオレが、戻ってきた……!!」


 リザードさん、真っ黒い岩石みたいな皮膚で、身長も二メートル超えてる超ガタイいいんだよな……不用意に近づいてるけど、殴られたら俺死にそう。

 するとリザードさん、俺に手を伸ばしてきた。


「恩人よ!! 頼む、妻を……妻を救ってくれ!!」

「つ、ツマ?」

 

 刻んだ大根じゃないことはわかってる。奥さんだろう。

 すると、両足を失い息も絶え絶えの、真っ白でつやつやしたリザードさんがいた。女性……まあ、なんとなく女性っぽい。目元がオスと違ってクルンとしてるし。

 とりあえず、ラストヒール。


「……あ、あなた」

「おお、サンドロテ!! よかった、よかった……!!」


 めっちゃ感激してる。

 これは水差さない方がいいな……さて、あと二十八人か。

 スキルを調べ、いいものがあった。


「皆さん、これから一気に治しちゃいますんで……では、『エターナルライト』!!」


 俺の背後にいるスタンド……ではなく、天使が祈りを捧げ両手を開く。

 すると、怪我人たちの怪我が一気に治った。すごい、全体回復だ。


「あ、あれ? なんかあたしも調子よくなったわ。疲れとか一気に消えたし!!」

「にゃうー、わたしも」


 エリとマオにも効果があったようだ。

 リザードたちが続々起き出し、身体の調子を確かめている。

 とりあえず、みんな回復……。


「……我らの恩人よ」

「うおっ」


 すると、最初に回復したリザードさんが跪いた。隣には白い奥さんもいる。


「あ、あの」

「命を救っていただき、感謝する!! 我が名は『ドラゴニュート族』の長にして最強の戦士ザレフェドーラ。命の礼として、これより貴方様に忠誠を誓うことを宣言する!!」

「「「「「我ら竜種、命を尽くすことを誓う!!」」」」」

「え、あの……おいエリ、どういうこと?」

「……そのまんまでしょ。あんたに従うって」

「いやでも、リザード族じゃないのかよ」

「ごめん。見た目だけで判断したけど違ったみたい」

「……どうすればいい?」

「とりあえず、話聞くしかないでしょ」

「だ、だな」


 ただの高校生である俺には正直キツイんだよ……女神が言った『人間と魔族の受け皿』だって受け入れにくいってのに。そういうのはもっと人生経験ある人にすればいいんだよ。元村長とか町長、引退した国会議員とかにさ。


「あの~……ザレフェドーラさん、でしたっけ」

「はっ!! ですが『さん』は不要です。これよりあなたの盾となる我には意味がありません」


 おっも!! マジで抱えきれん。

 でもまあ、一応はね。


「と、とりあえず……何があったんですか? その、皆さん滅茶苦茶強そうじゃないですか。みんなボロボロだったし……」

「……人間たちの襲撃です」

「え」

「ファルーン王国が召喚した『勇者』なる一団が、ついに我らの住んでいた国をも蹂躙し……バラバラに分かれ、逃げました」

「……うっそ」


 勇者一団って、まさか……為朝たちが? 

 あいつ、ファルーン王国に載せられて、滅茶苦茶やってるんじゃないだろうな。


「勇者って、どんな奴だった? 相撲取り? ブン投げられたのか?」

「え? いえ、剣を使っていました。年かさは主君よりも少し年上で……『アグニルーン勇者一行』と名乗っていました」

「……あ、アグニルーン?」


 まて。アグニルーンって……聞いたことあるぞ。

 するとエリ。


「五大ルーン王国のひとつね。火の国アグニルーン、ここ水の国シャオルーン、地の国ガイアルーン、風の国エイルーン、そして世界最大である黄金の国ファルーン……ケイ、前に教えたじゃん」

「……ま、まさか」


 俺は猛烈に嫌な予感がしていた。

 異世界からの召喚。まさか……ファルーン王国以外でも、やっていた?

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