そんな都合よく井戸掃除とかの知識ねぇから

 さて、ノコギリがないので犬たちは牙を使って樹木に齧りついていた。

 枝を噛み砕き、根元に集団で齧りついて木を切り倒している……ノコギリ使うワンコたちも見てみたい気もするが、木に齧りつく犬ってなんか怖いな。

 そして俺。俺は村にあった大きな井戸の前にいた。


「あー……滑車式って言えばいいのかな。こう……紐を掴んで上下に動かすと……お、いける」


 なんか見たことあるような、昭和とかの時代に大活躍してそうな井戸だ。

 井戸の上にある屋根に滑車が付いており、バケツみたいなのを下ろして水を汲む。

 井戸の中をのぞくが、よく見えない。


「お、神光魔法があった……どれどれ」


 ◇◇◇◇◇◇

〇神光魔法

・ジャッジメントレイ・テラアーク・シャインレイジ

・ヒカリノヤ・光天聖臨破・エターナルフォースシャイニング

 ◇◇◇◇◇◇


 ……これ、ある意味『神魔法』の弱点だな。

 たぶんクソみたいな破壊しか起きないぞ。明かりをポウッと付ける魔法くらい用意しておけっての……せっかくのチートなのに使えねえだろうが。

 俺は今あるスキルを見て、結論を出す。


「……まあ、これしかないか」


 ◇◇◇◇◇◇

〇猫召喚

・猫又・金華猫・猫娘

・猫将軍・ケットシー・天仙猫猫

 ◇◇◇◇◇◇


 個人的にメッチャ気になった猫娘……猫娘って妖怪だよな。

 妖怪なら、明かり出せるよな……うん、決して猫娘がどんなのか気になってるわけじゃない……ごめん嘘、けっこう気になってる。


「というわけで……召喚、『猫娘』!!」


 足元に魔法陣が展開……そして現れた。

 

「にゃあ」


 白い着物、白い髪、赤い瞳。

 三歳くらいの髪が長い、ネコミミと白い尻尾を生やした少女だった。

 ネコミミ少女は俺をジーっと見ている……こ、これはこれで可愛いな。

 俺はしゃがみ込み、ネコミミ少女を撫でてみた。


「や、やあ……初めまして」

「にゃうー、ご主人さま。何かよう?」

「きみは、猫娘だよね」

「にゃあ。そうだよ……ごろごろごろ」


 おお、撫でていたら喉がゴロゴロ鳴ったぞ。

 このまま撫でたいが、聞いてみよう。


「あのさ、そこに井戸があるよね。その中を見たいんだけど、中が真っ暗で見えないんだ。きみ、明かりになる火を出せたりするかい?」

「にゃあー……えいっ」


 猫娘は右手を俺に向けると、青白い霊魂みたいな火を出した……いや、怖いわ。

 霊魂はフワフワ浮かび、井戸の中に入っていく。

 井戸を覗くと、霊魂が中を照らしていた。かなりはっきり見えるな。

 猫娘も井戸の縁に飛び乗り中を見てる……おお、ネコミミがピコピコ動くのがかわいい。


「……井戸の壁、かなり雑草が生えてるな。それに水もかなり汚れているし、壁も汚い」

「にゃあ。お手伝い、もっとする?」

「できるのかい?」

「にゃ……お願いきいてくれたら」

「……お願い?」

「にゃう。あのね、ここにいたいの。召喚終わっても帰さないでー」

「なんだ、そんなことか。いいよ」

「にゃったー!!」


 か、かわいい……撫でたくなるな。エリとかこの子見たら『娘にする!!』とか言いそう。

 まあ、召喚や魔法で疲労するとか今のところないし、問題ないだろ。


「じゃあ早速……まずは、雑草をなんとかするか」

「にゃうー、まかせて」


 猫娘が人差し指を動かすと、中を照らしていた霊魂が大量に分裂し、井戸の側壁に生えている雑草を根こそぎ燃やした。

 こりゃ楽でいいな。じゃあ次。


「次は……水を抜くか。できる?」

「にゃあ。かんたん」


 猫娘は指をパチンと鳴らすと、霊魂が水の中に入る。

 火っぽいし消えるかと思ったが、なんと水中でも明るく燃えている。

 霊魂が水の中で回転すると、一気に噴き出した。


「うおおぉぉ!?」


 水は生き物のように渦巻ながら飛び、遠くの森まで飛ぶとシャワーのようにはじけ飛んだ。

 井戸を覗くと、水がない……お、底の方でチョロチョロと溢れている。


「次は……側壁を磨くか。けっこう汚れているし、大変そうだけど……」

「にゃうー、増やす」


 猫娘が手をポンポン叩くと、大量の霊魂が現れ井戸に飛び込んでいく。

 そして、霊魂が一つ一つ、井戸の側壁部である石を燃やしていた……おおすごい。石を燃やすんじゃなく、殺菌するように汚れを燃やしている。

 すると、霊魂の一つが石を持って俺の元へ。


「すごいな……この石、ツルツルだ」

「この中、虫とかいっぱいいる。でも、火で全部燃やしたし、キレイにしたよー」

「おお~……ありがとうな、猫娘」

「にゃううー」


 撫でるとニコニコしながらネコミミと尻尾を動かす。

 可愛い……娘にしたいな。

 すると、クロが近づいて来た。


『あら、猫娘じゃない。ケイが召喚したの?』

「ああ。掃除を手伝ってもらったんだ」

「にゃあー」

『フフ、この子の魔法は役立つわよ。人間でいえば『勇者』レベル80くらいの強さもあるしね』

「は、はちじゅう……ま、まあ強さはいい。可愛いしな」

「にゃう」


 滅茶苦茶強い猫娘……まあ、チートな召喚魔法で呼んだ子だしいいか。

 さて、井戸はもう大丈夫かな。底から綺麗な水が沸いているし、溜まったらもう一回だけ水を抜き、掃除のシメとした。

 飲める水だと思うが、いきなりは飲んだりしない。

 エリたちが帰ってくる間、滑車を掃除した。

 そして、猫娘が遊びたがったので、適当な蔦を切って縄跳びしたり、地面に絵を描いたりした。

 半日ほど経過……帰ってきた。


「ただいまーっ!! 物資大漁よ!!」

「おかえり。おお、すごいな」

『ただいま戻りました、主』


 モザドゥーグの背には巨大なコンテナ……じゃない、木箱があった。

 三メートルくらいの大きさだったはずだが、今は十メートルくらいある。どうやら生活に必要な物を大量に買い込んできたようだ……金貨五枚渡したけど、もう残ってなさそうだ。


「いっぱい買ってきたわ。ワンコたち用の大工道具一式、アタシとケイのベッドや家具、食器や調理道具に、日持ちする食材に……ああもう、言うの面倒だから自分で確認して。金貨五枚ぶんとなると滅茶苦茶な量になってさあ」

「買いすぎじゃねぇか……まあいいけど」


 木箱、というかマジでコンテナだな。木箱を鉄骨で補強してるし。

 モザドゥークで正解だった。他の犬じゃこれだけの持てないぞ。

 エリは嬉しそうに笑う。


「あー喉乾いた。ね、井戸は?」

「復活した。ロープとバケツあるか? それを滑車に合わせれば完成だ」

「あるある。さ、準備……って!!」

「にゃうー」

「か、か、か、かわいいぃぃぃぃっ!! なにこの子!!」


 あ、猫娘がエリに見つかった。

 俺は召喚した猫娘に掃除を手伝ってもらったことを説明。エリは猫娘を抱っこし、頬ずりしていた。


「じゃあ、この子もこれからここに住むの!?」

「あ、ああ」

「ん~うれしい。ね、名前は?」

「猫娘だけど……」

「そーじゃなくて、ちゃんとした名前!!」

「……名前ね。なあ猫娘、名前はあるか?」

「猫娘は猫娘だよ。にゃあ」

「ちょっとケイ!! 名前ちゃんと付けなきゃ。いいよねクロちゃん!!」

『いいわよ。私だって『クロ』って名前もらったしね』

「ケイ、名前考えて!!」

「お、俺が? んん~……」


 悩む……女の子だし、可愛いのがいいよな。

 可愛い名前……ソシャゲとかで猫耳のキャラいたよな。ロリ系の名前……ん~、よし。


「じゃあ猫娘。今日からお前は『マオ』だ。いいか、マオ」

「マオ……!! にゃあ、マオ!!」

「マオ~!! あたしエリ、よろしくね!!」

「うにゃあー」


 こうして、俺とエリと犬猫たちの暮らしに、猫娘のマオが加わることになった。

 ちなみに綺麗にした井戸水、キンキンに冷えて滅茶苦茶美味かった!!

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