女神の事情

 さて、喋る黒いネコと遭遇した。

 ネコが喋る……そういう漫画やアニメは見たことあるが、リアルで見るとけっこう怖いな。

 すると、黒猫は俺の足下へ。


『聞いてる? 女神様が、あんたに用事あるって』

「め、女神って……俺たちをこの世界に呼んだ神様だよな。スキルをくれた女神」

『そうよ。あんたに大事な話があるから、まずは話を聞きなさい。えいっ』


 ネコが尻尾で地面を叩くと、目の前に映像……すっげぇ、空中投影ディスプレイだ!! が、現れた。

 エリを見るが首を捻る。そして、いつの間にか足下のネコを撫でまわしていた。

 ディスプレイを凝視していると、画面横から顔がにゅっと現れる。


『あー……見えてるかな?』

「あ、はい」

『どもども、女神でーす』


 かるっ……フツーに横から現れて手を振っての登場だ。

 女神。すごいな、イメージ通りというか、けっこうな薄着のドレスで巨乳。背中には翼が生え、頭には光るリングが浮かんでいる。

 髪はシルバー、顔立ちは相当な美女……と、いうか。美少女?

 歳は十代後半くらいかな。俺よりちょい年上って感じ。


『さっそくだけど~……そっちの状況でちょっと、面倒なことになってるの』

「は?」

『あのね、落ち着いて聞いてね。実は……きみたちが倒そうとしている『魔王』って、実は魔王じゃないのよ』

「…………」

『本当の魔王は、私たち女神が追放した悪女神フォルトゥーナなの。今、人間たちがず~っと争っている魔王は、悪女神フォルトゥーナの部下の一人なの』

「…………は、はあ」


 いきなりでわけわからん。

 悪女神? 魔王が実は魔王じゃない?

 え、え、え……な、なんか嫌な予感してきた。


「まさか、俺に悪女神を倒せとか……」

『あっはっは。まさか、そこまでは頼まないよ。きみにお願いしたいのは、魔族の保護なの』

「魔族の保護?」

『うん。今、きみがいる土地はシャオルーンだよね? そこ、フォルトゥーナが近付けない、私たち女神の加護がた~っぷり詰まった神聖な土地なの。そこに、魔王に虐げられている魔族を保護したり、傷付いた人間たちを保護してほしいのよ』

「え、待った待った。情報量が多くてパンク寸前……魔王に虐げられている?」

『うん。今の魔王はフォルトゥーナの寵愛を受けた女神の眷属で、魔族はもともと住んでいた普通の種族なの。今は、眷属のせいで魔族が邪悪な一族ってイメージになってるけどね』

「そ、そうなんだ……でも、こんな荒れた地に保護とか、マジですか?」

『マジ。そもそもそこは、女神たちの聖域だから、堕ちた女神であるフォルトゥーナには手を出せないの。魔族と人間が荒らした地ってことになっているけど、本当は私がそうなるように仕向けて、フォルトゥーナの眷属の目から遠ざけようとしたの』

「なんと……ってか、女神ってあなた以外にもいるんですか?」

『いるよ。というか、女神は七姉妹で、地上に落ちたのが末の妹なの。私は、この世界への転移を担当しているのよ』

「……情報量多くてパンク寸前」


 ちょっと整理したい。

 えー、女神は七姉妹。で、末の妹である悪女神フォルトゥーナが追放されて地上へ。そこで眷属である『魔王』を作り、普通の種族だった魔族を支配下に置いている。なので、魔族が悪だと人間たちは考え、長い間ず~っと戦争をしている。

 ちょい疑問。


「あの、フォルトゥーナって奴が悪なのはわかりましたけど……何したんですか?」

『フォルトゥーナは、転移してきた人間にスキルを与える役目をしていたんだけど、あまりに強力なスキルばかり与えちゃうものだから、そっちの世界がメチャクチャになっちゃったのよ。で、いい加減にスキル渡すのやめなさいってお姉ちゃんたちが叱ったんだけど、やめる気配なかったから、女神の権能を取り上げて地上に追放したの。いち人間として千年間、輪廻転生を繰り返して反省しなさいってね。でも、今がちょうど五百年目で……どういうわけか、悪女神フォルトゥーナとして暗躍してるって気付いたのよ。それがつい最近ね』

「は、はあ……」

『それで、私たち姉妹は、仕方なくフォルトゥーナを討伐することにしたの。でも、人間は眷属ですら五百年以上勝ち負けを繰り返してるし、仕方ないから私のお姉ちゃんや妹が受肉して、直接フォルトゥーナを始末しに動いたってわけ。ま、お姉ちゃんが動けば、フォルトゥーナはもうおしまいね』

 

 話長いし、相変わらず情報量多い。


「それで……俺は?」

『きみは、ちょっとした奇跡の存在。スキル『模倣コピー』はフォルトゥーナが生み出したスキルの中でも最悪に近い能力なんだけど、どういうわけか最後の一個があなたに付与されちゃったの。でも、きみはいい子だし、スキルを取り上げるよりは、スキルを自由に使わせて、魔族や人間の保護をしてもらおうって話になったのよ』

「……へ、へえ」

『だから有馬慧くん。そのスキルを使って、女神の加護を受けた土地を開拓し、魔族や人間たちを保護してくれないかな』

「……は、はあ」

『よかったぁ~!! まあ、細かい事情はいろいろあるけど、話すとキリがないから。とりあえず『悪い女神がいなくなるまでスキルで領地開拓!!』って感じでお願いね』

「…………」


 な、なんか……思った以上に壮大な話。

 まさか、人間が長年争っている魔王が、実は魔王じゃなくて悪い女神の眷属だったと。そして、悪い女神を倒すために、女神が地上に降りて討伐にあたると。で……俺は、傷付いた魔族や人間を受け入れるための『皿』を用意しろ、ってこと?


『あ、そっちに私の遣いを何匹か送ったから。その子たちのスキルをコピーすれば、けっこう楽になると思うよ。遣いの子たちに名前はないから、好きに付けてあげてね。じゃ、がんば~』

「あ、ちょ」


 画面が消えた。

 中途半端に伸ばした手を下ろすと、エリに抱っこされた黒猫が言う。


『ってわけで、私が手を貸すわ。それと、外にもう一匹いるから』

「もう一匹……?」

 

 外に出ると……なんかいた。


『や、女神様の遣いだよ』

「……犬」


 白い柴犬だった。もっふもふで、スマホのコマーシャルとかに出ていそうだ。

 俺の傍まで来ると、尻尾をブンブン振る。


『きみは、この廃村を住みやすいように開拓してもらうから。やり方は自由。手始めに、ボクと彼女に名前を付けてくれるかな?』

『いいわね。ふふ、かわいい名前でお願いね』


 名前ね……黒猫と、白柴。

 まあ、第一印象で決めました。


「黒猫はクロ、白犬はシロな」

『『…………』』

「え、名前決めたの? ふふ、いい名前~」


 こうして、白犬のシロ、黒猫のクロが廃村に来た。

 あ~……スローライフかと思ったが、思った以上にめんどくさいことになりそうだ。

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