黒猫?

 さて、エリと旅を続けること数日……ついに来た。


「魔獣!! ケイ、下がってて!!」

「お、おお!! なんだこいつ、ブタ?」

「オーク!! 豚の魔獣よ!!」


 でっかい、三メートルくらいの二足歩行の豚……オークが現れた。

 こうしてみるとすっげぇキモイ。マジで豚顔だし、棍棒持ってる。


「さあ、行くわよ!!」


 エリが飛び出し、オークは棍棒を振りかぶる。

 エリは反転して勢いを付け回し蹴り。オークの棍棒にヒットし、へし折れた。

 そして跳躍し、オークの顔面に向かい──。


「スキル──『エアドライブ』!!」


 連続蹴り。空中でオークの顔面に向かっての連続キックで、顔が陥没した。

 すっげぇ……足がブレるほどの速度でキックを連打した。俺も同じスキル持ってるが、果たしてこんな風に蹴りを入れられるのだろうか。

 なーんて考えていた時だった。


『ブモモモモモ!!』

「ん? っげ……お、オーク!?」

「やばっ、ケイ!! 逃げて!!」


 俺の背後にデカいオークがいた。

 やばいな、すでに向こうは棍棒を振りかぶってる。

 こうなったら、俺がやるしかない。


 ◇◇◇◇◇◇

有馬ありま けい

〇スキル『模倣コピー』 レベル21

・現在『蹴闘士キックウォリアー』 レベル2

〇パッシブスキル

・脚力強化 ・体力上昇

〇使用可能スキル

・一覧

〇必殺技

・一覧

〇スキルストック

・なし

 ◇◇◇◇◇◇


 スキルはエリと同じ、でも……使用可能スキルが『一覧』になっている。

 脳内でアイコンを出し、この『一覧』をタップする。


 ◇◇◇◇◇◇

〇使用可能スキル

・エアドライブ・スカイキック・ニーショット

・ダイブレイク・ジェットキック・ドラゴンサマーソルト

 ◇◇◇◇◇◇


 すっげ……技がすごい豊富。

 お、下には必殺技ってのがある。どれどれ、チェック……ちなみに、脳内でチェックしている間は、なぜか時間が止まったように思考できるのだ。


 ◇◇◇◇◇◇

〇必殺技

・イカロスブレイブ・フォルトゥーナリベレーション

・エアスパイラルトゥース・アストラルタイフーン

・テイルスライダー・ゴッドインパクト

 ◇◇◇◇◇◇


 なんかすっごい名前の技……か、かっこいいかも。

 でも使うの俺なんだよな……とりあえず、イカロスブレイブでいいか。


「このっ!! スキル発動、『イカロスブレイブ』!! って、うぉぉぉ!?」


 なんと、身体が勝手に動いた。

 魔力が漲ると背中から爆発したように放出され、翼のように広がる。

 そして、あり得ない大ジャンプ。からの……急降下ドロップキック。

 オークが潰れた。マジで、完璧に。


「今の……ひ、必殺技じゃん!! スキルの奥義、必殺技!! なにそれ、使えるの!?」


 興奮するエリ。そりゃ驚くよな。

 こうしてオークは撃退……俺は改めて、自分の『模倣コピー』が規格外と思うのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 それからさらに数日……エリと一緒に旅をした。

 シャオルーン領地まであと少し。そろそろエリとお別れ……と、思ったのだが。


「ね、ケイに付いて行っていい?」

「え?」

「『蹴闘士』の必殺技……あんなの見せられたら、アタシも使いたくなっちゃう。もっとケイが戦っているところ見たいし、勉強したいのよ。ね、いい?」

「いや、自分で言ったと思うけど……向かうの廃村だぞ。そこでしばらく生活するんだが」

「屋根あるだけましでしょ。もっと酷い場所で野営したことあるし」

「……まあ、いいけど」

「やった!! じゃ、しばらくよろしくっ!! お母さんに手紙出さないとねー」


 うーん……テンプレは嫌いなんだがな。

 こんな美少女が旅に同行し、一緒にスローライフするとは。

 まさか、ハーレム要員……考えすぎか。そもそもハーレムなんて考えてないし。

 

「さ、シャオルーン領地まであと数日、頑張ろうか!! ケイ、今度魔獣出たら助けないから、必殺技でバンバン倒してね!!」

「お、おう……」


 エリ……素直なんだけど、素直過ぎるってのも考え物だな。


 ◇◇◇◇◇◇


 それから数日……俺たちはようやく、シャオルーン領地に入った。

 ファルーン領地からシャオルーン領地に入るなり、大地が一気に荒れた。


「ひっどいな……」


 大地は血生臭く、ゴミ溜めみたいな匂い。

 川は汚染され、周囲の木々は病気で枯れそうになっていた。

 街道は在るがかなり荒れている。道沿いに進むと、壊れた馬車の残骸や木材が多く転がっていた。

 地図を見て言う。


「この先に、廃村があるらしい」

「廃村ね。あのさ、あんまり詳しくないんだけど、シャオルーン領地にも王都ってあったんでしょ? 廃村じゃなくて、そっちのがいいんじゃない?」

「えーと、王都はすでに壊滅状態で、ほぼ更地なんだとさ。魔族と人間の戦争、ど真ん中で起きて大爆発した……って、アリアさんが言ってた」

「へー……で、廃村なんだ」


 それから進むと、ようやく廃村に到着した、が……やっぱ酷い。

 家はほとんど倒壊、田畑は荒れまくり、井戸からは腐敗臭、川は汚染され……もう、とにかくひどい。


「ひっどいわね……で、ここに住むの?」

「他の村もあるみたいだが、どこも似たようなモンらしいし……ここでいいか」


 念願のスローライフ!! というか……俺はスローライフなんて望んでいない。異世界物でスローライフしたがる主人公って、だいたいが人生に疲れた奴だ。

 俺、まだ高校生だし……参ったな、マジでこんなところで暮らすのかよ。


「さて、どうする?」

「どうするもなにも……とりあえず、村を見て回るか」


 まあ、何もなかったけどな。

 村長家っぽいところが一番被害が少なそうだったので、そこに荷物を置いた。

 エリと向かい合い、俺は言う。


「さて、どうするか」

「食事、水、寝床……寝床はまあいいけど、周りが臭いわ」

「匂いもだけど、水をなんとかしないとな……水筒はあるけど、すぐなくなるぞ」

「食べ物もね。魔獣でも狩って肉をゲットする?」


 考えることが山ほどある。

 一つ一つ、クリアしていくしかないな。と……思っていた時だった。


『ねえ』

「ん、なんだエリ」

「へ? あたし、何も言ってないけど」


 あれ……呼ばれた気がしたけど。

 周囲を見回すと、何もいない。


『ここ、ここよ。ここ』

「……ん?」

「わ、なにこの子……ねこ?」


 すると、倒壊しかけた屋敷の柱に、黒いネコがいた。

 香箱座りで俺たちを見下ろす猫は、なんともかわいい。


『よーやく、ここまで来たわね。有馬慧と……誰?』

「わあ、かわいいネコ」

「いやいやいや、ネコ、喋ってるぞ!?」

「は? 何言ってんの?」


 ネコが喋っていた。

 柱からポンと降りると、俺たちの前で座る。


『私の声、アナタにしか聞こえないわ。それは、私が女神の遣いだから……ネ』

「め、女神の、遣い?」

『ええ。有馬慧……アナタに、頼みごとがあるんだってさ』

「……はい?」


 こうして、シャオルーン領地に到着。

 廃村であれこれ考えている俺たちの前に、妙な黒猫が現れるのだった。

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