思った以上にヤバかった。
さっそく、エリと城下町を出て歩く。
なんとなくエリを見ていると、ニカッとほほ笑んだ。
「なになに、アタシに興味あり?」
「まあ……蹴闘士ってどんな戦いするのか興味ある」
「……あれ。アタシ、自分のスキル言ったっけ」
やっば……う~ん、下手に誤魔化して警戒されるのもな。
テンプレ通りだと『俺のスキルは秘密で!』みたいな感じになるんだが、まあ……エリとは途中で別れる予定だし、言ってもいいか。
「実は……俺にもスキルあるんだ」
「え、うそ」
「マジ。俺のスキルは『
「そんなの初めて聞いたけど……あ、スキル持ちを探してたって言うのは」
「そう、スキルをコピーしようと思ってな。でも、スキル持ち全然いなくて困ってた」
「じゃあ……今は?」
「……俺も『蹴闘士』を。すみません、コピーさせていただきました」
「マジ?」
驚くエリ。ここで俺が『さっき話した召喚ってやつで異世界から来ました』って言えばどんな反応するかな……まあ、別に言ってもいいけど。
歩きつつ、エリは首を傾げた。
「……ケイ、何者? お城から出たスキル持ち、とか?」
「……内緒にしてくれるか?」
「いいよ。アタシ、口は堅いから」
「わかった。実は俺、さっき話した『召喚』で、別の世界から来たんだ」
「……マジ?」
「マジ。で、魔王との戦いで俺は邪魔になるから、平和になるまでシャオルーン領地にいてくれ、って王様に言われた。だからシャオルーン領地に向かってる」
「……マジ?」
「だからマジ」
「うっそ……魔王と戦うために、王族を生贄に捧げて『召喚』スキルを使ったって話は聞いたけど」
「……待った。生贄?」
「え、知らないの? 召喚ってスキルは高潔な命を捧げないと発動しないのよ。で、第二、第三、第四王女が命を捧げて発動させたって……」
「……マジ?」
「ええ。残った第一王女が、異世界から来た『召喚者』の案内役やってるって話だけど」
おいおいおいおい……まさかあの王様、自分の娘の命捧げて、俺ら召喚したのかよ。
そう考えると、マジでやべーな。娘の命、何だと思ってんだ……?
思った以上に、ファルーン王国って闇が深いのかも……為朝、大丈夫かな。
「まあ、シャオルーン領地に行くケイには関係ないか」
「確かに」
魔王討伐するまで引っ込んでろ!! って感じの俺が何をしても関係ないか。
主人公だったら『みんなを助けなきゃ!!』とか『あの国はヤバイ……みんな、待ってろ!!』みたいになるんだが……俺は主人公じゃないし、為朝に任せておけばいいや。
そんな感じで歩いていると。
「そういや、魔獣とか出ないなあ」
「こういう整備された街道じゃ出ないわよ。今日行く村の先辺りで、ゴブリンとか出るけど」
「そうなのか?」
「ええ。魔獣も馬鹿じゃないから、ヒトの国の近くに出たら死ぬって理解してるのよ」
「へえ~……」
「でもま、村の先に行けば強いの出るから、アタシがやっつけてあげる」
「ああ、感謝」
そんな感じで、俺はエリからこの世界のことをいろいろ聞いた。
やっぱり、姫様三人を生贄にしたってのが衝撃だった。
村に到着し、空き家を借りて一泊……とりあえず銀貨を数枚村長に渡したら大喜びだった。
「やっぱ、税が重いのよねえ……」
「そうなのか?」
空き家は二部屋あった。よかった、一緒の部屋じゃなくて。
とりあえず、村長の奥さんが作った飯を二人で食べながら話す。
「えーと、わかりやすく言うと……仕事で銀貨十枚稼いだら、税金で六枚は持っていかれるわね」
「はいぃ!?」
お、おっも!! 六割も取られんのか!?
ファルーン王国、滅茶苦茶怪しい国に見えてきた。大丈夫なのかあそこ。
「やっぱり大きいわよね。アタシも自分で稼ぐようになってわかったけどさ……」
「だ、大丈夫なのか?」
「厳しいわよ。ファルーン王国は、一人一人の情報を、スキルで作った『個人情報管理魔道具』でチェックしてるの。だから、収入があればすぐにわかるし、税を納めないと税金徴収人っていう超強い人が取り立てに来るの」
「……確定だな」
「え?」
ファルーン王国、ヤバイ。
信用できねえ国ナンバーワンだ……なんだそのシステム。異世界ってもっと緩いのかと思ったけど、かなり金にシビアだぞ。
「じゃあ、この護衛の報酬、金貨一枚も……」
「うん。銀貨六十枚は税金で納めるわ。でもでも、銀貨四十枚あれば、一年以上は楽できるわ。だから、ケイには感謝してる」
「……お、おお」
うーん……俺の財布に、金貨百枚くらいあるんだよな。アリアさんと為朝が餞別でくれたんだが……もうちょい渡してもいいけど、どうせ税金で取られるのか。
「ファルーン王国……思った以上にヤバイなあ。国王も姫様も普通な感じだったけど、もしかして感覚マヒしてんのかな?」
「かもね。ま、王国に見張られている以上、税金は死ぬまで払う運命ね」
「……」
なんか、すっげー嫌な人生だな。
まあ俺、この世界の人間じゃないから、税とか払わなくていい……ん、だよな。
まあ、魔王討伐まで引っ込んでろって言われるくらいだし。うん、話題変えよう。
「あのさ、エリ……わかる範囲でいいから、シャオルーン領地について教えてくれ」
「わかる範囲も何も……あそこ、廃村しかないよ? 魔族が滅ぼして、さらに放棄した土地だから。ファルーン王国はもちろん、エイルーンやアグニルーン、ガイナルーンも手を出さない。見捨てられた土地ってやつね」
「……エイルーン? アグニルーン?」
「知らないの? 五大ルーン王国」
世界最大m黄金の国ファルーン。そして水の国フィオルーン。風の国エイルーン。地の国ガイナルーン、火の国アグニルーンと、この世界は五大ルーン王国が管理している。
フィオルーン王国は魔族に滅ぼされ、他の四大王国も見捨てた荒れた地になっているそうだ……ってか、そんなところに俺を送るなよ国王さんよ……。
「なんか、授業で習わないことばっかり聞いてるな……やれやれ」
「あはは。知らないことあったら教えてあげる」
「頼む。依頼料上げるからさ」
「お、うれしいね」
こんな感じで、俺はエリからいろいろ聞くのだった。
シャオルーン領地……水の国があったところか。もう廃村ばかりっていうけど、なんだかちょっとワクワクしている俺がいた。
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