第二章

準備はしっかりと

 俺は部屋に向かい、荷物をまとめる。

 すると、為朝が部屋に来た。


「慧くん……!! 本当にスローライフするのかい!?」

「この異世界脳め……どうせ『道中で猫耳の女の子拾うの?』とか言うんだろ」

「バレたか。でも、冗談抜きで行くの?」

「ああ。魔王討伐は、俺を除いたクラスみんなでやってくれ。どうやら、強すぎる俺は邪魔者みたいだしな」

「まあ確かにね……先生もなぜか、黒鉄レオンの味方だし」


 俺はリュックに着替え、餞別の金貨などを入れる。

 

「まあ、慧くんなら問題ないか。すっごい強いスキルいっぱいあるし」

「ああ、今あるスキルは全部リセットした。今はもう何のスキルもない」

「え」

「危険な力は、国外に持ち出すなとさ。まさにゼロスタートだ」

「いやいやいや、だ、大丈夫なの!? 慧くん、スキルないとゴミじゃん!!」

「……ゴミ」


 この野郎……『相撲取り』コピーしてブン投げてやろうか。

 でもまあ、問題ない。


「ま、道中でいいスキルあったらコピーするわ」

「いや……スキルって、持ってる人ぜんぜんいないんじゃなかったっけ。スキル持ってる人って、基本的に、騎士団とか、国の重要ポジにいるって言ってたじゃん」

「…………」

「え、忘れてた?」

「……ま、まあ何とかなるさ」

「慧くん……役立つかわからんけど、ワイの『相撲取り』をコピーするといい」

「いや、それはいいわ」

「慧くんんんんん!!」


 為朝……こいつ、たまにウザいけど、こうして俺のこと心配してくれるのは、ありがたい。


「為朝。朝も言ったけど、黒鉄レオンたちに気を許すなよ。もしあいつがお前に取り入ってこようとしたら、とにかく跳ねのけろ」

「わ、わかった。調子こき勇者は国を亡ぼす、って言葉もあるしな!!」

「ないけどな。さーて……じゃあ、行くわ」

「……うん」


 俺はリュックを背負い、護身用にもらった剣を腰に下げる。

 部屋を出ると、為朝が叫んだ。


「慧くん!! 魔王はワイに任せて、スローライフ楽しめ!! それと、ハーレムだけは作るなよ!!」

「ああ、ありがとな」


 為朝……馬鹿なヤツ、泣いてんじゃねぇよ。


 ◇◇◇◇◇◇


 というわけで……俺は城を出た。

 リュックには金と着替え、今思えばテントとかキャンプ道具みたいなのあった方がよかったけど……普通に城を出てしまったので、もう引き返せない。

 とりあえず、城下町の公園に向かい、地図を広げた。


「えーと……ここがファルーン領地にあるファルーン王国。で、こっちが魔王の領地で、その間にあるのが俺が向かう『シャオルーンン領地』か……けっこう遠いな」


 車やバイクとは言わんから、自転車くらい欲しいな。

 まあ、あるわけない。


「徒歩か……とりあえず、まずは城下町で、何でもいいからいくつかスキルをコピーしておかないと。さすがにこんな剣一本じゃ厳しい……買い出しもして、準備だな」


 俺は立ち上がり、住人たちのスキルを確認しながら歩く……が。

 半日歩いてもスキル持ってる人がいない。以前、城のメイドで『給仕』のスキル持ってる女の人がいたが……やっぱスキルって、持ってる人はみんな城で働くのかね。

 仕方なく、俺はちょっと古い道具屋を見つけたので入った。


「……いらっしゃい」


 店主は厳ついおっさんだ。新聞片手に、こっちを向かずに挨拶した。

 店内には、フライパンや鍋など、野営道具が揃っている。


「野営道具一式ください。テントとかもあります?」

「……お前、どこか行くのか?」


 お、新聞を閉じてこっち見たぞ。なんだろうか?


「ええ、シャオルーン領地ってところに」

「……あんなところ行ってどうする。あそこは、魔王軍の攻撃で壊滅し、廃村しかないぞ」

「え……」

「シャオルーン領地の住人たちはみんな、ファルーン領地に移動して新しい村を作った。もしかしてお前、あそこの元住人とかか? 忘れモンでも取りに行くのか?」

「……まあ、住むというか、なんというか」

「まあ、好きにしな。道中、魔獣に食い殺されないようにな」


 こっわ……マジでスキル何とかしないと。

 このおっさん、いい人そうだし聞いてみるか。


「あの、おじさん……この辺で、スキル持ってる人、いませんか?」

「スキルだぁ? スキル持ちは皆、優遇されて城で働いてんだろ。スキル持ちは申告すれば王城で働けるし、税も免除される。それ以外で持ってんのは、『クラン』に所属している冒険者くらいだろ」

「クランか……冒険者ってけっこういます?」

「ああ。冒険者ギルドに行けば冒険者には会えるが、スキル持ちは皆クランにいる」

「そのクラン、この王国にもありますか?」

「あるぜ。クランは王都郊外にあるが……スキル持ちに会えるかどうかわかんねぇぞ。道中の護衛でも頼むつもりか?」

「いえ、一目会いたくて」

「はは、ファンってやつか」


 いえ、スキルをコピーしたいんです……なんて、言っても仕方ないか。

 俺は地図を出し、おっさんにクランの位置を書いてもらう。

 おっさんにお礼を言って、俺は店を出た。


「とりあえず、冒険者ギルドと、王都郊外にあるクランに行ってみるか……」


 必要なのは武器となるスキルだ。

 さすがに、今の俺は丸腰に近いし……準備はしっかりと、だな。

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