追放です。
無事、ゴブリンを討伐し、城に戻った俺たち。
だが……何というか、やっぱり俺は夢見レイナから嫌われていた。
「有馬慧……残念だ」
アリアさんが首を振る。
そして、他のクラスメイトたちは俺を見ようとしない。
「冤罪だ!! 待てマテ、今、ここで慧くんを追放したら、とんでもないことになる!!」
為朝……こいつ、俺を心配しているのか、それとも『今後の展開』に妙な期待をしているのか、よくわからないんだよな。
そして、夢見レイナ。
「……レオンくん、わたし、怖いの……」
「わかっている。レイナはオレが守るよ」
「うん……ありがとう」
なんかヒロインやっています。
さて、そろそろ説明しよう。
現在俺は、『夢見レイナ暴行未遂事件』の容疑者にされ、裁判を受けていた。
◇◇◇◇◇◇
事の発端は、ゴブリン狩りを終えた帰り道のことだった。
ゴブリンに犯されそうになった夢見レイナは終始無言。レオンが励まし、相川セイラと鎧塚はなぜか、俺を責めた。
「チッ……どこぞの『摸倣』野郎がもう少し早く助けてればよ」
「……力あるくせに、サイッテー」
「……はあ」
マジでうんざりだ。
夢見レイナが『手を出すな』って言ったことを説明しても信じない。それどころか、ゴブリンを操って俺あ夢見レイナを襲ったんじゃないかとまで鎧塚が言った。
さすがにこれには言い返す。
「あのさ、俺は別にこの世界の主人公になりたいわけじゃない。夢見レイナがどうなろうが構わないし、むしろそいつに言われて手を出さなかったんだぞ。そもそも、夢見が藪に引きずり込まれたとき、黒鉄と鎧塚は何していた? 夢見を無視して、自分のスキルに酔ってたじゃねぇか」
「んだとテメェ!!」
「……言いがかりも甚だしいね」
「言いがかりなモンかよ。そもそも、夢見レイナを助けたのは俺だ。俺が戦ってたホブゴブリンに横槍入れたお前と、夢見を無視してゴブリンを狩ってた鎧塚、眼ぇ閉じて何もしなかった相川……お前らにどうこう言われる筋合いはない」
と、俺にしては珍しく長文で論破……だが、馬鹿鎧塚は俺に拳を向けた。
「適当な御託並べてんじゃねぇ!! 結果的に、夢見は傷ついてんだぞ!?」
「だから、それを全部俺のせいにするなって言ってんだ。お前は何の責任もないのかよ?」
「もういい!! 二人ともやめろ!!」
「いや、自分は悪くないですみたいな感じで仲裁されても……そもそも、夢見はお前が守るんじゃないのかよ」
「……ちっさ。なにコイツ」
「で、お前は無関係気取りか。まあどうでもいいけど」
うーん……俺、かなりイライラしているな。
はっきり言う。こんな自分勝手な連中に、魔王とか倒せるわけない。
「ケッ……もうテメーは話かけんな。胸糞悪い」
「俺もだ。これ終わったら、お前らとのチームは解消させてもらうよう、アリアさんに言うわ」
「有馬、そんな勝手な」
「リーダー気取りで周りが見えていない『勇者』に、自分のことしか考えていない単細胞『格闘家』に、自分が傷つかない安全圏で他人を貶める『付与士』に、異世界のテンプレに酔ってるお花畑『聖女』……ある意味、最悪なテンプレだよ」
それだけ言い、俺は連中より五十メートルくらい先を歩くことにした。
一人になり、盛大にため息を吐く。
「マジで、ソロのがいいな……」
◇◇◇◇◇◇
ほとんど無言で城まで戻り、アリアさんに出迎えられた。
「お帰り……ゴブリンはどうだった?」
「最悪でした。ゴブリンより、仲間……でもないか、あの連中が」
黒鉄レオンじゃない、俺に話しかけてくるアリアさん。いつもだったら『黒鉄に聞いて』と言うところだが、今日は俺が答えた。
アリアさんが首を傾げるが、俺はもう何も言わず、部屋に戻る。
部屋に戻る道中で、為朝と会った。
「やあ慧くん……」
「おう。なんか元気ないな」
「……ゴブリンと戦ったけどさ、ゴブリンってマジ臭いね。ワイの『突っ張り』や『腰投げ』で倒したんだけど……あいつらの皮膚、なんかネチャネチャしてるんだよ」
「……そ、そうか」
「あぁぁ~……『相撲取り』のスキル、相手に素手で触れなきゃいけない技ばかり。スライムとかも掴まなきゃいけないのかな!? ねえ!?」
「お、落ち着け。強いぞ『相撲取り』は、強いって!!」
「ううう……」
正直、イライラした今、こいつの馬鹿話はけっこうありがたい。
「……慧くん、イライラしてる?」
「そう見えるか?」
「うむ。眉間にシワ……ははーん、黒鉄レオンたちだね?」
「お前、『千里眼』のスキルもあるんじゃね? まあ……俺の主観だけど、聞くか?」
「いいね!! ざまあ展開期待!!」
為朝の部屋に移動し、俺はこれまでのことを話した。
「───……ってわけだ。やれやれ、後でアリアさんにチームの脱退を」
「ま、待つんだ慧くん……それ、ヤバイ」
「は?」
「まずい!! このままじゃ慧くん……追放だぞ!? 勇者パーティーから理不尽な理由で追放、辺境に飛ばされるか、ハメられてダンジョンに置き去りにされるか……ック、勇者パーティーの没落も決まったようなものじゃないか!!」
「お前な……考えすぎだっての」
「ど、どうするんだい慧くん!!」
「別に、どうもしないけど」
「あぁぁ!! と、とにかく追放には気を付けて。それと、追放されたらワイも一緒に行くからね!!」
「遠慮します。お前、うるさいし」
「ひどし!!」
まあ、追放なんて……と、この時の俺は考えていた。
◇◇◇◇◇◇
翌日のことだった。朝食を食べに向かった先で、アリアさんが待っていた。
俺と為朝は首を傾げる。
「来たか、有馬ケイ……」
「アリアさん?」
「……お前に、暴行の容疑が掛けられた」
「はい?」
意味不明だった。
食事会場には、俺と為朝以外全員が揃っていた。
そして……夢見レイナ、鎧塚、相川、レオンの四人。
「来たか、有馬ぁ」
「……なんだこれ?」
「決まってんだろ。有馬、お前を断罪するためのステージだ!!」
鎧塚じゃ話にならん。
食事会場はテーブルが撤去され、真ん中に夢見レイナたち、そして両サイドにクラスメイトたち、さらに騎士や兵士、王様、えーっと……名前未だにわからん姫様がいた。
すると、アリアさんが言う。
「昨晩、黒鉄レオンたちからの証言で、有馬ケイ……キミがゴブリンを操り、夢見レイナを襲わせたと話した。これは事実なのか?」
「……はぁ?」
意味不明にもほどがある。
夢見レイナを見るとメソメソ泣いてるし、レオンはそっと抱きしめている。相川、鎧塚は俺を見て睨んでいるし……ああ、これはそうか。
「慧くん慧くん、これ……追放イベントだよ!!」
「それっぽいな」
「よくわからんが、事実なのか?」
アリアさんが言う。
周りを見ると……うん、俺に敵意を抱いているヤツは七割くらい、三割は「あり得ねぇだろ」みたいなやつらだ。姫様は滅茶苦茶睨んでるし、王様も怒ってるみたいだ……異世界人ってこういう話すると、片方の言い分だけ聞くこと多いよな。
さて、どうするか……あ、そうだ。
◇◇◇◇◇◇
〇
〇スキル『
・現在『
〇パッシブスキル
・知力上昇・弁護上昇
〇使用可能スキル
・弁護
〇スキルストック
・勇者・聖女・賢者・相撲取り・格闘家
・弓士・ボクサー・レスラー・盗賊・弁護士
◇◇◇◇◇◇
よし……このスキルをセットして、と。
「意義あり!!」
「っ!?」
思った以上にデカい声出たせいで、アリアさんが驚いていた。
やべ、ちょっと気持ちいい。
「まず、俺がゴブリンを操り、夢見レイナを襲わせた……証人はそう答えています。しかし、俺のスキルには生物を操るスキルは存在しない、つまり……俺がゴブリンを操ることは不可能です!!」
「慧くん、なんからしくないくらいハキハキしてるね」
「うっせ。なんかこういう口調になるんだよ」
くらえ!! といって証拠を叩き付けたくなる。やらんけど。
「ハッ……そんなスキルなくても、お前ならできるんじゃねぇの?」
「では、俺がゴブリンを操り、夢見レイナを襲わせた……その証拠を提示してもらいましょうか!!」
「ぐっ……そ、それは」
「あるわけがありません。なぜなら俺は、ゴブリンを操ることなんて、できないから!!」
「ぬぉぉぉぉっっ!?」
鎧塚が吹っ飛んだ……あいつ、ノリいいな。
すると、夢見レイナが。
「違うモン!! ゴブリン、言ってたもん……有馬くんの命令で、わたしを襲ったって!!」
「……今、あなたは完全な墓穴を掘りました」
「えっ……」
俺はテーブルをバンと叩き、夢見レイナに指を突きつけた。
「ゴブリンは人間の言葉を話しません!! つまり……あなたの証言は嘘っぱちだ!!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
よし、夢見レイナが吹っ飛んだ……あいつもノリいいな。というか、スキルのおかげかな。
ってか俺のテンションもなんかおかしい。
「そこまで!!」
すると、裁判長……ではなく、王様が言う。
「夢見レイナ。彼女の証言には怪しいところが多い。だが……彼女がゴブリンに襲われたというのも、また事実。問題は……そこに、有馬ケイくん、キミが関わっているかどうかである」
「誓って、俺は関わっていない」
「うそです!! 有馬くんがわたしを襲ったのよ!!」
「そこまで!! わかった……どうやら、召喚者たちの間に、信頼という言葉は存在しないようだ」
それは同意。正直、俺は黒鉄レオンたちを信じることができない。
「有馬ケイ。きみはどうしたい?」
「黒鉄レオンたちとは違うチーム……いや、視線でわかる。クラスの半数以上が夢見レイナに同情的だ。正直、ここでやっていける気がしません」
「だが、きみの力は非常に惜しい……もし君が王国を脱走しようものなら、止めることは不可能だろう」
「…………」
「有馬ケイ。よってキミを、ファルーン王国から追放する」
「まあ、そうでしょうね」
「うむ。しかし、ただ追放するわけではない。ファルーンより遥か南にある『シャオルーン領地』へと追放する。有馬ケイ……強大な力を有するそなたは、魔族との戦いが終わるまで、そこにいてもらいたい。きみを除いた召喚者たちが力を合わせ、この世界に平和をもたらすまでな」
「わかりました。スローライフっすね」
「くっ……王様、ワイも一緒に」
「あ、一人でいいんで。王様、この『相撲取り』をこのクラスのリーダーにしてやってください。黒鉄レオンとその取り巻き連中だと間違いなく、クラスの誰かが犠牲になります。その四人は自分らが主人公だと思ってますんで」
「なっ、有馬!!」
黒鉄レオンが俺に何か言おうとしたが、王様が止める。
「それと、もし黒鉄レオンや鎧塚が、スキルを悪用してこの国を乗っ取ろうとしたら、俺に言ってください。その時は俺が責任もって、そこの四人をブチ殺すんで」
俺はスキルを『勇者』に変え、レオンとは比べ物にならない輝きを持つ『聖剣』を見せつけた。
聖なる輝きが雷のように剣に纏わりつき、輝くさまは美しい。
「オレが国を乗っ取るだと……そんなことあるはず」
「あり得るんだよ。お前みたいな勘違い野郎は、間違いなくこの先、クラスの誰かを犠牲にする。で、それを美化して正当化する。いずれ国を乗っ取って、自分の都合のいいように動かす……なあ、為朝」
「へ!? そ、そうだな。うん、勇者の宿命だ!!」
「そうして、真の魔王が誕生するってわけだ」
「そ、そんなことは……そんな」
「王様、以上です。おい為朝、みんなをしっかりまとめろよ」
「そ、そんな……慧くん、マジで?」
「顔ニヤニヤすんな。ったく、お前は」
こうして俺は、国と取引をして、追放されることになった。
強すぎる力は、敵より先に見方を滅ぼす……やーれやれ、やっぱりこうなったか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます