何……コイツら
まあいろいろあったが、ゴブリンの森に到着した。
俺はデカいリュックを背負っている……なんか、襲撃をシカトした罰とかで、全員分の荷物を運んでいた。
荷物は別にいいんだけど……。
「ね、有馬くん……わかってるよね?」
「……ああ」
夢見レイナ……コイツ、かなりヤバイ。
見てくれは可憐で、庇護欲を誘うような喋り方、レオンとは幼馴染でクラス公認のカップルだけど……その本性は何ともまあ、バリバリの『悪役令嬢』だった。
先の川沿いでの魔獣襲撃、俺が余計なことを言ったせいか……ついさっき。
『有馬くん』
『ん、なに』
『……余計なこと、絶対にしないでね? したら本当に……怒るから』
『……』
『なに?』
『お前、そっちが本性なのか? 平気で嘘ついて、俺を悪役にして……何がしたいんだ?』
『悪役、ね……私は、レオンくんのカッコいい姿を見たいだけなの。異世界、しかも勇者だよ? わたしは聖女だし……この世界の主人公は、レオンくんだよね。
『……こっわ。わかったからさ、もう俺に構わないでくれ。正直、気味悪いよお前』
『……じゃあ、約束守ってね』
と……こんな感じの会話が、ついさっきあった。
夢見レイナは、黒鉄レオンを『主人公』だと思っている。恐らくこいつ……為朝と同類だ。異世界オタク、そして異世界脳みそ……この異世界を受け入れ、自分がヒロインだと思っている。
「レオンくん……わたし、怖い」
「大丈夫だって。川沿いに出た魔獣よりは弱いはずだしさ……あ」
「も、もう。川沿いでのこと、忘れてよね!! その、わたしのハダカ見たの……」
「わ、悪い……」
「うへへ……オレは役得だったけどな」
「鎧塚の変態。マジ最悪だし」
「悪い悪い。でも、怪我無くてよかったぜ」
おーいおーい、俺無視して楽しいパーティー会話しないでくれ。
まあ、別にいいけど。
でも……こいつらと一緒にいるの、マジで嫌になってきた。
為朝でも連れて、この世界で放浪の旅にでも出ようかな……なんて。
◇◇◇◇◇◇
さっそく、ゴブリンの森に進む。
何もするなと言われたので、入口で待とうと思ったが……まあ行くしかない。なぜなら、俺と『取引』している夢見が付いてこいって言うしな。
ああ、取引って言い方はおかしいな。だって、言うこと聞いても報酬もらえるわけじゃないし。
「……いる、な」
「おう、いる」
レオン、鎧塚が言う。
何がいるんだよ。お前ら、歴戦の戦士じゃあるまいし……気配でも探知できるのか?
俺は欠伸を堪え、キョロキョロと周囲を見渡した。
「……ん?」
『……ゲッ』
すると、藪からこっちを見ていた緑色の小鬼……ゴブリンと目が合った。
「あー……なあ、黒鉄」
「なんだ」
「有馬くん、今は静かにしてよ……レオンくん、集中してるんだから」
「いや、あの」
「有馬くん」
そこにゴブリンいるんだが……まあ、黙っているか。
『ギャアゥ!!』
「ッ!! レイナ!!」
「えっ……っきゃぁぁぁぁ!!」
すると、俺が見ていたゴブリンが手をブンブン振ると、夢見の近くにあった藪からゴブリンが飛び出し、夢見を藪に引きずり込んだ。
「レイナ!! くそ!!」
「レオン、そっち行ったぞ!!」
「わかってる。『神器解放』!!」
すると、レオンの手に剣が現れた。
なかなかカッコいい剣……『勇者』スキルの象徴武器である『聖剣』だ。
「ッシャアア!! セイラ、サポ頼むぜ!!」
「了解。早くレイナを!!」
相川セイラは『付与士』だったっけ。仲間の強化を得意とするスキルだ。
呪文を詠唱し、レオンと鎧塚を強化。二人はゴブリンに向かって突っ込んでいく。
いつの間にか、ゴブリンが二十匹くらいいた。
俺はリュックを地面に置き、周囲を確認する。
「やっばいな……これ、俺も標的になってる。夢見はいないし、やっちまうか」
ってか、夢見は藪に引き込まれた。ゴブリンが邪魔してレオンたちが助けに行けないみたいだし……手を出さないわけにはいかないか。
夢見レイナはムカつくけど、死んだら可哀想だしな。
「『神器解放』」
スキルを『勇者』に変え、レオンと同じ『神器解放』を使う……すると、俺の手に『聖剣』……あれ、なんかレオンのとデザイン違う……俺のがデカく、カッコいい。
『ギャゥゥ……!! ギャウ!!』
すると、ゴブリンが恐怖したのか、藪の奥に向かって叫ぶ。
奥から現れたのは、デカい斧を持った三メートルくらいのゴブリンだ。
確か、ホブゴブリンだったか。
「ホブゴブリンか!! そいつは任せろ!!」
「いやいやいや、夢見攫われたのそっちの藪だぞ!? わざわざこっち来るなって!!」
なんと、レオンが夢見が消えた藪を無視し、わざわざ俺の方に来た。
マジかこいつ……ああもう。
「鎧塚、大丈夫か!!」
「うっせぇ!! へへへ、雑魚ども、かかって来いや!!」
「いやいやいや、夢見助けに行けよ!!」
「黙りやがれ!!」
ば、馬鹿かこいつ……ゴブリン倒すのに必死になって、せっかく夢見が引きずり込まれた藪にいたゴブリンがいなくなったのに、それを無視して別のゴブリン倒してるし!!
「相川、あれ? 相川?」
相川がいない……と、思ったら。
なんと藪に隠れ、耳と目を塞いでいた。こ、こいつ……死んだゴブリンの内臓とか血とか見ないようにしてる。口も押えてるし、吐きそうなくらい臭いのはわかるけどさ!!
結論!! こいつら、マジで使えねぇ!!
「あーもう、なんで俺が……」
俺は藪に飛び込み、夢見を探す……い、いた。
「いや、やめて、やだァァァァァッ!! レオンくぅぅぅぅん!!」
夢見レイナ。ゴブリン三体に組み伏せられ、服を破かれていた。うわ、ブラジャー剥ぎ取られて、スカートも……って、そんな場合じゃないし!!
「おいやめろ!! ったく、このテンプレ性獣が!!」
『ギャッ!?』『ウゲッ!?』『ギャウア!?』
ゴブリンを聖剣で斬ると、血や内臓が飛び散り、夢見レイナにブチ撒けられた。
「うぉえ、うっげぇぇぇぇ……」
「うわ……だ、大丈夫か?」
ご、ゴブリンの腸や胃が、夢見レイナの顔面に……夢見レイナは何度も嘔吐した。
上半身裸だが、血濡れの臓物まみれで、全く見たいと思えない。
「レイナ!!」
「れ、れおんくん……」
「ああ、レイナ……済まない、オレが、オレが間に合っていれば」
もうツッコむのも面倒なんだが……お前、夢見レイナほったらかしてホブゴブリンと戦ってたじゃねぇか。しかも楽しそうに。
「有馬ぁ!! テメェが、テメェがもう少し早く助けてれば!!」
「いや、俺のせいかよ」
……いや、俺が助けなかったら、もっと悲惨なことになってたと思う。
「…………終わったの?」
ああ終わったよ。何もしないで震えてた相川さんよ。
夢見レイナは、レオンに濡れタオルで顔を拭かれていた。
「……っ」
「……うげ」
なんだか、夢見レイナにすごく睨まれたんだが……マジでもう、こいつらと一緒はイヤだ。
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